しっぽや5(go)

□荒木奮闘記
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家に帰ってカシスを解き放ち、親父と母さんに事の顛末をメールする。
特に親父には『カシスおやつ禁止令』を出し、病院に行ったご褒美おやつは買ってきたダイエットフードを5粒あげるにだけにしておいた。
カシスは喜んで食べている。
食に気難しかったクロスケと違い、カシスの何でも食べてくれるところはありがたかった。

一段落付いたので服に付いたカシスの毛をコロコロで取り、しっぽや出勤用の鞄を持って家を出る。
本日の次の仕事はしっぽやでのバイト、いつもの通常運転であった。



波久礼が来ていてくれたらカシスのダイエットに協力してもらおうと思っていたが、事務所にその姿は無かった。
「居ないか」
扉を開けてうなだれながら室内に入る俺に
「残念だったな荒木、白久なら10分くらい前に捜索に行ったよ
 暫く帰ってこないんじゃないか」
日野が俺を見てニヤッと笑って、そう教えてくれた。
「いや、波久礼が来てればなー、って思ってさ」
「波久礼?」
不思議そうな顔の日野に、俺は今朝の出来事を語って聞かせた。

「6、7キロって重いか?
 黒谷はガラポンで米10キロ当たったとき、担いで帰ってきてくれたぜ
 荒木、運動不足なんじゃない?」
「それはお前に食べてもらおうと思って、黒谷が頑張ってくれたんだろ
 今朝のはキャリーも併せると8キロ超えてたよ
 2歳直前で6キロ超えは、かなりヤバいんだって
 カシスはミックスだから特に大型の猫種ってわけじゃないし
 オスの2歳なら5キロ前後が正常だと思う
 クロスケなんて3、5キロしかなかったよ、まあ、歳だったからだけど」
俺は事務所のソファーに座り大きなため息を吐いた。
「でも、カシスが7キロ超えても持てるくらいの筋力は付けといた方が良いと思うぜ
 俺はここんとこ、毎朝5キロは走ってるんだ
 大学行って運動系のサークルに入るかまだ決めてないけど、動かしとかないと身体が鈍っちゃいそうだからさ
 荒木は、菓子食いながらDVD観てばっかなんじゃないの?」
日野の指摘に俺は返す言葉もなかった。


コンコン

「ただいま戻りましたー、捜索成功です!」
ノックの後に、タケぽんとひろせが事務所に入ってくる。
「もうね、今回はひろせとの連携ばっちり!
 サクッと捕獲して、サクッと送り届けてきましたよ」
「捜索対象がラガマフィンでしたので
 大型長毛種なら僕達に任せてください」
2人は嬉しそうに報告してきた。
「走り回ったから暑くなっちゃった、ちょっと失礼」
タケぽんは着ていたシャツを脱ぎ、バタバタと振って自分の身体に風を送っていた。
タケぽんのシャツの下はタンクトップだけで、その腕の筋肉がハッキリ見えた。
タケぽんもインドア派で、筋肉とは縁がないと思っていた俺は驚いてしまう。

「タケぽん、その腕どうしたの?」
思わず叫んだ俺に
「え?何か付いてます?」
タケぽんが慌てて自分の腕を見回している。
「筋肉がついてるじゃん」
俺が指摘すると
「ええ?どこに?」
更に慌てた顔で肩や腕を確認していた。
「確かに、ちょっと引き締まった感があるな
 運動始めたのか?」
日野も同意する。
「何でいきなりそんな…
 あ、まてよ、最近ペットボトルぶん回してるからかな」
タケぽんの納得顔に、訳が分からない俺と日野は顔を見合わせた。

「今、手作りバターがマイブームなんですよ
 ペットボトルに生クリーム入れて上下に振るだけで、バターが出来る!
 塩を入れるとバターだけど、そのままだとクロテッドクリームの代わりになるし重宝してます
 ここの近所のスーパー、クロテッドクリーム置かなくなっちゃったじゃないですか
 最近ひろせのスコーンに添えてるの、自家製クロテッドクリームなんですよ
 一気に作れないかと、今は900mlのペットボトル振ってます」
得意げな顔のタケぽんに、俺達は『そうなんだ、いつもありがとう』と曖昧な言葉をかける。
「それと、お勤め品の買い出し!そのついでの牛乳、豆乳、ヨーグルト、詰め替え用インスタントコーヒーにガムシロの買い物
 重いもの両手にぶら下げてくるから、それも一役買ってるかも
 先輩達、早く免許取ってください、腕よりも指が死ぬ
 たまには空とか大麻生とか、体力系と一緒に行きたいですよー
 あ、ひろせは華奢で重い物なんか持たせられないから却下です」
多少の筋肉が付いても、タケぽんはやっぱりタケぽんだった。


「捜索したって言うラガマフィンって、すごく大きい猫種だよね
 何キロくらいだったかわかる?」
俺はふと、そんなことを聞いてみた。
「飼い主さんによると、6キロとか
 2歳だからまだ大きくなるって言ってたな、成長しきると9キロ超えることもあるみたいですよ
 ラガマフィンって、成猫になるの3、4歳なんですって
 ひろせが説得してくれたし、温和しかったから抱っこして依頼主の家まで楽勝で連れていけました
 筋肉付いたから出来た技かも」
得意顔のタケぽんに「お疲れさま」と労いの言葉をかけつつ
『今のカシス、ラガマフィンより重い…』
俺の心も重くなっていた。
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