しっぽや5(go)

□I(アイ)の居る場所
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「ワンコちゃん達、肉でも追加するか?
 俺は中生頼むけど、月さんと和泉はどうする?
 ワインは無いが日本酒はけっこー揃ってるぜ」
幹事らしくゲンがメニューを渡しながら聞いてくる。
「たまには日本酒にしようかな
 スパークリングの日本酒があるじゃん、俺、これにしてみよう
 久那、追加で松阪牛頼んだら?
 俺は最近牛肉の脂が体に合わないから、刺身のお任せ盛りにするよ
 今日のは金目鯛、甘鯛、黒鯛、目鯛、真鯛の鯛づくしだってさ
 岩月兄さんは追加する?」
俺はメニューを彼に渡す。
「ジョンもお肉食べたら?
 ゲンちゃん、僕も中生お願いするよ
 あ、本日の目玉はハチビキのお刺身だ
 桜ちゃんに聞いたことあるけど、真っ赤な白身魚なんだって
 面白そうだから頼んでみよう」
メニューを戻されたゲンが、追加を内線電話で注文してくれる。
「こんな時、日野が居てくれると色んな物ちょっとずつ食べられるんだけどな
 あいつ、オジサンの胃袋には重宝する仲間だよ」
ゲンの言葉に思わず皆で笑ってしまう。
会ったばかりの彼らのことが理解できる自分が嬉しかった。


「若い飼い主達に会って、創作意欲が刺激された
 色んな企画をやりたくて、色んな物を作りたくてワクワクしてる
 業界内での付き合いで感じることとは違うんだよなー
 全く違う分野化からのアプローチは、思いもかけない角度から入り込んできて圧倒されるよ」
俺は小鉢の煮物を口にして熱く語ってしまった。
「和泉がそれを受け止める度量のある人だからだよ
 素人の彼らからだって光るものを見つける事が出来る
 小者は石と宝石の区別もつかない、宝石は磨かないと光らないからね」
久那の言葉に
「お、業界人っぽい意見」
ゲンがクツクツと笑う。
「同世代で固まってると楽だけど、そのままって感じだもんね
 僕もカズハと知り合わなかったら、髪を染めようなんて気にならなかったもの
 白髪染めで終わらせてたな」
岩月兄さんがしみじみと語っていた。

「彼らは、しっぽやだけじゃなく古い飼い主にも新しい風を吹かせてくれたな
 化生に選ばれた仲間達だ、最高の奴らだぜ」
ゲンが親指を立てる。
「それは、僕達も最高の奴らって事でいいのかな」
岩月兄さんの悪戯っぽい笑顔に
「もちろん俺達も、俺達の前に化生と関わってくれた人達も、これから化生と関わる人達も最高ってこと」
俺はウインクしながら答えた。
「でも、人間で1番最高なのは自分の飼い主だよ」
久那が主張するので
「俺も自分の化生が1番最高!
 久那がサポートしてくれるから、突っ走れる」
俺は彼の肩に頭をそっと乗せ甘えてみせた。
「ジョンが居るから明るくなれる、きちんと人と向き合う勇気が沸いてくる、何があっても頑張ろうって気になれる」
岩槻兄さんもジョンの手を握っていた。
「ナガトが体調管理をしてくれるから、俺は余分なことを考えずにやるべきことに専念できる
 皆をサポートする事が出来る」
ゲンの優しい眼差しを受け、長瀞がうっとりしながら寄り添っていた。

「帰還パーティーと言うか、単なるノロケ大会になったな」
ゲンが長瀞の髪を優しく撫でてヒヒッと笑った。
「まあそうなるでしょ、化生と飼い主の飲み会なんて」
俺は更に久那に身をもたせかけ、グラスに残っていたビールを飲み干した。
「見栄張らなきゃいけない若い者も居ないしね」
岩月兄さんもジョンの肩に頭を乗せ、リラックス状態で小鉢の中身をツツいている。
緩みまくっていた俺達の空気は、追加の料理が運ばれてくるまで続く。
仲居さんが座敷に入ってきたときには何事もなかったかのようにきちんと座り、全員が行儀よく箸を口に運んでいた。
仲居さんが退出すると、俺達は一斉に大笑いしてしまう。
悪戯がみつからなかった子供みたいな気持ちになっていた。

「んじゃ、改めて乾杯すっか
 仲間への乾杯は何度だってやりたいもんな」
ゲンの意見に反対を述べる者などいるはずもなく、俺達は運ばれてきた新しいグラスとジョッキを打ち鳴らす。
全ての化生と化生に関わる者への乾杯であった。


「この前の歓迎会は広間貸し切りの大人数だったっが、そのうち店を貸し切りにしないと入れなくなりそうだ
 幹事が大変だぜ」
そう言いながらもゲンは楽しそうだった。
「どこかの体育館を貸し切って、立食パーティーにするとか
 でも、食事や飲み物用意するのが大変か
 持ち寄りにすればいけそう?」
岩月兄さんは『大量に作ると個性出しにくな』と悩んでいる。
「俺は金持ちらしく、魚沼産コシヒカリをどーんと50kg用意しよう」
俺は両手を派手に広げてみせた。
「そうそう、50kgもあれば日野が居ても安心…、って、自分らで炊くんかーい」
ゲンは期待通りの突っ込みを披露してくれる。
「それと大間の天然ホンマグロをどーんと1匹」
「いくら桜ちゃんでもマグロは捌(さば)けないと思うけど」
岩月兄さんの控えめな突っ込みに
「解体用の包丁も用意すれば、やってみたがりそうじゃない?」
俺はニヤニヤ笑いながら答えた。
黙り込んだ2人の顔には『確かに』と書いてあった。
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