しっぽや5(go)

□I(アイ)の居る場所
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side<IZUMI>

「では、懐かしき友の帰還を祝し、乾杯!」
「「「乾杯!」」」

ゲンの音頭で皆がビールの入ったグラスを合わせ、最初の一杯を堪能する。
今日は俺と久那が戻ってきたことを祝い、ゲンが宴席を設けてくれたのだ。
もちろんメンツは引っ越し前に参加した思い出のメンバーで、場所も同じ料亭だった。
それは自然体でいられる友との貴重な時間でもあった。


「和泉センセ、今日はスッピンなんだ」
ニヤニヤしながらゲンが話しかけてくる。
「まあね、気を使うような間柄じゃないじゃん
 若い飼い主にはちょっと気張って見せてたけどさ
 年相応にオジサン化しててスキンケアに時間がかかるようになったから、結構面倒なんだよ」
俺は盛大にため息を吐いて見せた。
「それを言われると、僕が1番のオジサンだ
 君たちは良いよね、スッピンだって和泉は年より若く見えるし、ゲンちゃんは年齢不詳に見える」
「ああ、ゲンのファッションは今となっては勝ちだな
 でも岩月兄さんだって髪を染めて若返ったんじゃない?
 今度、髪色に合わせて明るめの服を選んでみるよ」
また、皆のコーディネートが出来る時間が戻ってきて俺は幸せを感じていた。

「この頭、学生の頃は散々ネタにされたが、長い目で見ると確かに勝ちかもな
 この間、同窓会に出席したら皆に羨ましがられたんだ
 皆、悲惨な頭になってきて、今から戦々恐々になってんの
 子供を持った奴からは、からかったことを謝られたよ
 あの頃の俺が何の病気でどんな状態だったか、気が付いたみたいでさ
 悪ガキだったのに子供生まれたら病気とかちゃんと調べたりしてんだ、ってちょっと感動しちまったな」
『俺には子供がいないからさ』と、ゲンは苦笑をみせた。
「ゲンちゃんに子供がいなくても、ゲンちゃんを頼りにしてる若い子がいっぱいいるよ
 ゲンは皆のお父さんみたいなものだから、とんでもなく子沢山だね
 と言うか、僕も頼りにしてるし」
「俺も頼りにしてるよ
 店の管理は立地的に無理だったけど、倉庫管理は任せたから」
岩月兄さんの言葉に俺も乗っかることにした。
「ゲンは皆から頼られる人気者です」
長瀞が誇らしそうに頷いていた。

「しかし、ほんとに若い子増えたね
 高校生なんてビックリだよ、って荒木と日野は大学生になるんだっけ
 でも、あと5、6年は中学生モデルでいけそう
 もっと早く知ってたら、お揃いシリーズの子役をガンガン頼めたのに」
唸る俺に
「あの子達、30年後でも今の和泉より若く見えるかもね
 スッピンで」
岩月兄さんは他人事のように笑っている。
「俺は見たこと無いんだけど、日野情報によると荒木少年の親父さんもバケモノらしいぜ
 和泉と同じくらいなのに大学生に見えるってよ
 勤続20年近いのに、新規の営業先で新卒扱いされるらしい
 営業職としては致命的じゃね?」
ゲンがわざとらしく声をひそめて囁いた。
「マジか、流石に俺も学生には見られないな」
俺も大仰に驚いてみせる。
「和泉は顔が売れてるし、プライベートがある程度露出してるからしょうがないよ
 でも、和泉はいつまでも可愛くてキレイだ
 若い飼い主にはない『艶』がある」
久那がキッパリと宣言したので
「愛されてるねー」
岩月兄さんもゲンもニヤニヤ笑って俺達を見ていた。

「久那、可愛いのは岩月だって
 岩月が髪を染めたから、俺達の毛色が近くなったんだぜ
 仕事でも最小限の言葉で共同作業できるし、一心同体ってやつだな」
勝ち誇るようなジョンに
「俺は今度髪をカットしてもらうんだ
 和泉みたいなショートになれば、飼い主とお揃いだ
 仕事も和泉の指示通りにポーズ取れるし、撮影所で他の犬の揉め事を解決してるし、とても役に立っている」
久那も負けじと言い返していた。
そんな光景を見るて、懐かしさがわき上がってくる。
「お約束的な展開、良いね」
思わずそう言うと
「メンバーが増えた分、この手の言い合いも増えたぜ
 黒谷や白久や大麻生も参戦してるんだ
 あいつらの幸せそうな顔が見れて、本当に嬉しいよ」
ゲンが楽しそうに笑ってみせた。

「白久は一人が長かったし、黒谷は1度飼い主を亡くしているからね
 2人とも犬だったときのジョンを知ってるし、やっぱり気になってたんだ」
岩月兄さんが優しく微笑んだ。
「それを言われると、俺は大麻生が気になってたな
 久那とは2大スター犬だからさ
 あんなに真面目で飼い主に自分のことを告げられるのかな、って
 ウラみたいに深く考えない奴を選んで正解だよ
 自分の心を埋められる相手をちゃんと選んで、選ばれてるんだ
 久那達は凄いね」
俺は隣に座る久那の手をそっと触る。
「俺達みたいな化け物を受け入れてくれる飼い主の方が偉いよ」
久那は愛おしそうに俺の手を包み込んでくれた。

「後は波久礼に飼い主が出来てくれれば良いな」
何気なく呟くと
「今の波久礼は猫神様だから…」
「そう仕向けちまった俺も責任感じてるが、こればっかりはどうにもな…」
岩月兄さんもゲンも、遠くを見ながら呟くのであった。
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