しっぽや5(go)

□和泉のアイデア
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「俺の母親が保護犬の活動してるの知ってる?
 そこに送るフードやペットシーツが欲しいんだけど、このお店って地方発送やってるかな
 もちろん、ある程度まとまった数を買わせてもらうよ
 あの人、フードのメーカーや添加物にウルサイんで気に入るものがあれば、の話になっちゃうけどね
 シーツはそこまで拘ってないから大丈夫かな」
石間先生はフードの棚を見回し、品物をチェックし始めた。
お客様が相手となれば、僕の方も営業スイッチが入る。
「税込み6000円以上のお買い上げであれば市内への発送は承ってますが、地方発送は基本的に行ってないんです
 ただ、お買い上げ金額によっては相談もあり得ると思いますので、その辺は店長に確認してみます
 どのメーカーのフードをお求めでしょうか」
丁寧に品物を見ていた石間先生の動きが止まる。
「へー、これ置いてあるんだ、このシリーズならあの人もお気に召すと思うよ
 ちゃんとした低アレルギーフードもある、悪くない品揃えだね
 チェーン展開してない町のペットショップとしては珍しい
 店長さんの人柄が分かる、良いお店だ」
店長や店のことをきちんとした視点から誉められ、僕は嬉しくなった。

「はい、今はあまり生体販売には力を入れずフードやシーツや砂、小物、雑貨類に力を入れてるんです
 ペットと人が楽しく暮らせる手伝いをしたい、と言うのが店長の考えなのでコミュニケーション用のオモチャや洋服も多く扱ってます
 動物に服を着せる、と言うと良い顔をしない方もいますが防寒や抜け毛の配慮も兼ねての物であれば僕は賛成なんです
 トリミングもファッションと言うより、犬の体を清潔に保つという意味合いの方が高いですし
 うちはシャンプー、爪切り、耳掃除がセットになってますから
 トリミングが終わった後の飼い主の反応を見て、最初は嫌がってたのに今では大人しくカットさせてくれる子も増えてます」
僕はつい熱く語ってしまう。
石間先生は少し驚いたように僕をみた後
「カズハって大人しそうでいて、好きなことはちゃんと語れるんだね
 岩月兄さんに聞いてたとおりだ
 『昔の僕に似てるよ』なんて言ってたけど、確かにそうかも
 岩月兄さんもこっちが本音をさらけ出すまでは、ちょっと俺にビクついてたもんな」
そう言って面白そうに笑っていた。

「和泉、気に入るフードあった?
 店長呼んできたから、ちょっと相談してみてよ」
ウラが店長と一緒にこちらに向かって歩いてきた。
「フードは良いのがあったよ、後はシーツ類を見せてもらうね
 オモチャや洋服は、あの人のところには山のようにあるし…
 缶のミルクやほ乳瓶はあった方がいいかも
 ケージ類とか大物は聞いてみないとわかんないや
 ちょっと電話してみるか、出られるかどうかわからないけど
 どれくらいの大きさの犬が何頭いるか、俺も知らないからさ」
「店ごと買い占めてくださいよ、和泉センセー」
揉み手するウラに
「今日一気に買ってったら、店に迷惑だろ
 在庫確認して、足りなかったら発注かけてもらって、それからだよ
 いきなり店の中スッカラカンにされたら、逆に困るんだ
 商売やるなら覚えとけ」
石間先生は呆れた顔を見せる。
「えー?そーなのー?」
不満げなウラとは裏腹に
「すいません、助かります」
店長は苦笑して頭を下げていた。

小声で電話しながら店内を移動する石間先生の後を、店長と僕とウラがついて回っていた。
電話相手の母親の指示なのだろう、時折『これを10個、こっちは15個』と店長に品物と個数を伝えていた。
店長はそれをメモに書き留めている。
かなりの種類の物を大量注文していたので『これ、普通に通販を頼んだ方がポイントとかついてお得なんじゃ』と少し心配になってしまう。
うちはチェーン店ではないしポイントサービス等はやっていないのだ。

さらに石間先生は店内にあった『イサマ ミドリ』のリボンや首輪に気が付いて、アウトレット品を格安で卸してくれるよう交渉までしてくれたのだ。
恐縮しまくる店長が在庫の確認に事務所に行くと
「うーん、けっこー買わせたのに思ったほど金額いかないもんだ
 5、60万は使わせようと思ってたのになー」
ウラが『チェーッ』っといった感じで頬を膨らませていた。
「母親へのプレゼントに、そんな大金使わないだろ
 第一、あっちの方が大物で金持ちなの」
「保護団体への寄付って考えれば、有名人なら50万くらいは出すっしょ?」
「くそ、ウラのくせに良い返ししてくるな」
2人は親しい様子で言い合っている。
そのウラの人懐っこさは、僕には羨ましいものだった。

「カズハ、仕事終わったらちょっと付き合ってもらえないかな
 空も一緒に夕飯なんてどう?」
石間先生に急に話しかけられて僕はまたドギマギしてしまう。
「あ、あの、僕と?」
「やった、和泉センセーがA5の牛肉奢ってくれる」
すかさずウラが会話に加わってきた。

「でも、店だとあまり込み入った話が出来ないか
 個室があるとこ、今から予約取れるかな」
石間先生が悩んでいるようなので
「じゃあ、空の部屋に行きますか?あそこ、武衆の皆が集まれるようにって広い部屋なんです」
僕は思わずそう誘ってしまった。
「それなら先に空の部屋に行かせてもらうよ
 夕飯の材料買って俺達で用意しておくから、カズハはそのまま帰ってきて」
こうして僕は新しく知り合った化生の飼い主と夕飯を共にすることになったのだった。
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