しっぽや5(go)

□アイデアの泉
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side<URA>

珍しくアラームがなる前に意識が浮上し、いつものようにソウちゃんの腕の中で目覚めると
「ウラ、おはよう」
優しい言葉が降ってくる。
熟睡しているように見えていても犬のソウちゃんは、俺がちょっと身じろぎしただけで直ぐに気が付いて起きてくれるのだ。
「おはよ、ソウちゃん」
俺は彼に抱きついて唇を合わせた。
「あー、寝た時の記憶無いわ、俺、また寝落ちしちゃった?
 ソウちゃん、ちゃんとイったの?」
昨夜も激しく愛し合ったため、記憶が曖昧になっている。
多分最後にイった後、意識を吹っ飛ばしてしまったのだろう。
「ウラと殆ど同時でした、むしろ自分の方が早かったです」
少し申し訳なさそうな彼に
「なら良かった」
俺は再度キスをする。
彼もキスを返してくれて
「朝食は何がよろしいですか、すぐに作ります」
そう言ってベッドから抜け出した。

キレイに筋肉が付いたソウちゃんの体に、いつもながらに見とれてしまう。
「昼がカフェ飯になりそうだし、ご飯が良いかな」
「では、鮭を焼いて卵焼きも作りましょう
 お味噌汁は豆腐とわかめ、それと昨夜の野菜炒めの残りがあります」
「旅館の朝食飯、美味しそう
 じゃあ、俺、先にシャワー浴びちゃうね」
俺がベッドから出たタイミングで、やっとスマホのアラームが鳴り始めた。
「残念でした、今日は俺の勝ち〜」
俺は勝ち誇った気分でスマホを操作しアラームを止めると、シャワールームに向かうのであった。


濡れた体をタオルで拭いて、俺はブランド物の勝負下着を身につけた。
『別に相手に見せる訳じゃないけどさ、気分上げていかなきゃ』
自分に気合いを入れ、夜のうちに用意しておいた服を着ようとしたところで動きを止める。
『念のため服は朝飯食ったら着よう、何かこぼすって事があるもんな』
俺は昨日着ていた部屋着に袖を通す。
部屋に戻るとテーブルの上は朝食の準備が殆ど整っていた。
キッチンのソウちゃんが
「朝からガッツリいかれますか?」
そう聞いてくるので
「ガッツリいっちゃう!今日も頑張るぜ」
俺は張り切って答えた。
直ぐに山盛りご飯と味噌汁をトレイに乗せた彼がテーブルにつき、朝食開始となった。
ソウちゃんのご飯も山盛りだった。

「で、その新しい飼い主とランチの約束は14時だよね
 俺が13時上がりだから、しっぽやにソウちゃん迎えに行けば良いか
 相手って、あのダブルアイの『イサマ イズミ』なんだろ?
 ドッグカフェランチとかで良いわけ?
 三つ星レストランじゃないと口に合わないんじゃない?」
どうせならそーゆーとこで奢ってくれればいいのに、と俺がブツブツ言っていたら
「あのお店は彼らが引っ越してから出来たので、和泉は行ったことが無いのです
 和泉は好奇心旺盛だから色々試してみたがる、と久那が言ってましたから良いんじゃないでしょうか
 そう言えば以前『食べ比べたいから』と、ミセスドーナツを全種類買ってきてくださったことがありましたっけ
 ポイントが一気に貯まってお皿が交換できたと喜んでましたよ」
「イサマ イズミがミセスドーナツ…
 しかも、ポイント貯めて皿と交換って」
ソウちゃんからの情報と雑誌で見るデザイナーのイメージが違いすぎて、上手く頭の中でまとまってくれなかった。

「和泉は自分と黒谷をイメージして服をデザインしている、との事ですが、はたしてその服は売れているのでしょうか
 久那に言わせると『和泉は凄い』らしいのですが、何だかよくわからなくて
 ウラの方がよっぽど凄いと思います」
ソウちゃんは不思議そうな顔で卵焼きを食べている。
「まあ、ダブルアイの黒シリーズはかなり有名で愛好者も多いぜ
 モッチーだってそうだし
 値段が高いし俺にはあんまり似合いそうじゃないから詳しくないけど、確かにソウちゃんには似合うかも
 つか、何でそんな有名人が俺に会いたがってるんだか
 化生の飼い主の先輩だから、挨拶くらいはしといた方が良いのはわかるけどさー」
俺は野菜炒めをご飯の上にのせ、かきこんだ。
作りたてのシャキシャキ感は無いが、暖め直すときに少しとろみを付けてごま油を足したので中華風味が増して残り物とは思えない美味しさがある。
ソウちゃんの創意工夫には、俺を飽きさせない愛があった。

「ウラが双子に選んだ服のセンスが良いので、少し話をしてみたいらしいですよ
 流石ウラです
 ウラのセンスの良さを、久那に自慢しなくては」
ソウちゃんは真面目な顔で頷いていた。
「何か、カラカわれてるだけ、って気がしなくもないけど…
 まあ良いか、機嫌取っといて今度は三つ星で奢ってもらおっと
 一見さんお断りの料亭とかでも良いな、色々コネありそうだし」
俺は一人ほくそ笑み絶品朝食をたいらげると、念入りに身支度を整えてソウちゃんと共にマンションを後にするのであった。
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