しっぽや5(go)

□お揃いシリーズ
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「日野と黒谷はどうだったの?黒谷にとって化生してから2番目の飼い主だって聞いたけど」
和泉さんに話をふられ、日野はあの事件の当たり障りのないことだけを伝えていた。
「黒谷はよく言ってるんです『僕は2度も飼い主に直ぐに受け入れてもらえた幸せ者、皆のように正体を知られる恐怖と過去ごと受け入れて欲しい慕わしさに葛藤せず済んだのは僥倖だ』って
 確かにそうかもしれない
 でも、化生してから再び得た飼い主を亡くし、それでもなお生きていかなければならなかったことは俺には幸運だとは思えません
 飼い主が生まれ変わる、そんな雲を掴むような約束を信じて… 
 地獄のような、果てない孤独の日々だったと思います
 そんな時代の黒谷を支えてくれた化生やその飼い主達には、感謝しかありません
 和泉さんも月さんも久那もジョンも、本当にありがとうございます」
日野は話の締めくくりに、改めて皆に頭を下げていた。

「黒谷は皆のリーダーとして、いつも余裕のある感じで朗らかに振る舞ってた
 日本犬なのに陽気な犬だなって思っていたよ
 凄いね、彼は」
和泉さんは感心した顔で頷いていた。
「黒谷は、これからうんと幸せになるね」
月さんに言われ
「俺がちゃんと幸せにします」
日野は誇らかに宣言してみせていた。

「白久と黒谷の飼い主が、君達みたいに良い子でよかった
 久那やジョンなんかより古い化生だからね
 大麻生も1人が長かったから、飼い主に会うのが楽しみだよ
 あの生真面目な大麻生の飼い主だから、桜ちゃんみたいな人かな」
楽しげに思考を巡らせている和泉さんにウラのことをどう伝えればいいものかと、日野と視線を交わし微妙な顔になってしまった。
「あー、ウラって言う、ど派手なチャラ男が飼い主で…」
言いにくそうに口を開いた日野の言葉に被せるよう
「えっと、そう、陽気で人懐っこい人です
 双子の服を対で揃えたのもウラで、大麻生の服もカジュアルなのが多くなりました」
俺は当たり障り無い感じで説明する。
「クローゼットの服を見た限りだと、中々良いセンスしてるね
 会うのが楽しみだ
 俺のブランド知っててくれると嬉しいな」
和泉さんの言葉は、彼のブランドを知らなかった俺と日野には少し耳に痛かった。

「こっちに店舗出す記念に、今度の日曜にホテルでパーティー開くんだ
 そんなに大がかりなもんじゃなく、こっちの知り合いや関係者が多い、内輪の集まりみたいなもの
 宣伝も兼ねてるからプレスも来るけど、書いてもらうことはもう決まってる出来レースだよ
 今日は岩月兄さんとジョンに招待状渡したくて来てもらったんだ
 でさ、今思いついたんだけど、荒木と日野も来てくれないかな
 お揃いシリーズ新作のモデルになって欲しいんだ」
和泉さんは伺うような瞳で俺達を見つめてきた。
「え?いや、モデルとか無理ですよ
 キレイに歩いたりとか出来ませんって」
俺は慌てて手を振って否定の意を表した。
「俺だって無理無理、特別な歩き方とかあるんですよね
 キレイってだけで良いんなら、ウラの方が向いてるよ
 黙って立ってりゃ見栄えするから」
日野も思いっきり否定していた。

「その、ウラって人も君達みたいに背が低くて童顔?」
和泉さんに聞かれ、俺も日野も黙り込んでしまう。
「お揃いシリーズの子供用を着て欲しいんだよね
 高学年くらいのモデルって、良い子がなかなか捕まらないんだ
 あっという間に大きくなっちゃって、イメージに合わなくなるのが早いから
 今回良い子が見つからなくて、どうしようかと思ってたんだよ
 ウォーキングとかはしなくて大丈夫
 普段通りに過ごすナチュラル感を見せて欲しいんだ
 最初だけ皆の前で紹介するから、後は好きに飲み食いしてて良いよ」
和泉さんの言葉で日野の目が光った。

「食べ放題ですか?」
「ラフな感じの立食パーティーだけどホテルだから料理は一流、和洋折衷色々頼んであるから楽しめるんじゃない?
 あ、でも、君達は未成年だからお酒は飲まないでね
 スキャンダルで話題作りをしたくないからさ」
和泉さんは釘を刺してくるが、そんなことは問題ではなかった。
「ホテルの料理を好きなだけ食べられる?」
「うん、残ったら折り詰めにしてもらえるからお土産にどうぞ」
日野と和泉さんのやりとりを聞きながら
『残るとか、あり得ない…』
俺は呆然と考えていた。

「行こう荒木、先輩飼い主さんの頼みだ
 服を着るだけでホテルの料理を好きなだけ食べられるなんて、凄いぜ」
料理を前に興奮する日野の手綱を握れる自信はなかったが、知ってしまったからには野放しにすることも出来ず
「じゃあ、参加させてもらいます」
俺は気弱な感じで参加表明をした。
「ありがとう、せっかくのお揃いシリーズだ
 白久と黒谷にも参加してもらって、俺達だけが分かる飼い主と飼い犬コーデにしてみるか
 ちょっと黒谷に相談してくるね」
和泉さんは久那を伴いウキウキと控え室から出ていった。


こうして俺は、よくわからないうちに『モデル』をする事になるのだった。
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