しっぽや5(go)

□I(アイ)のデザイン〈5〉
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その後も店を見て回り、3店で併せて15着程買ってしまった。
「久那にもまた買っちゃった、似合いそうなの見るとつい、ね」
2人で大荷物を抱え、岩月の車に戻る。
「あの、お金、大丈夫?かなりの額になってたでしょ」
品質表示と共に値段も見ていたのか、岩月がオドオドと問いかけてきた。
「小遣い前借りしといたし、多少のツケなら利くから大丈夫
 あ、手伝ってもらったのに、岩月にお礼してなかったね
 一緒に何か買えば良かった、コンさんとこに似合いそうなのあったな
 引き返す?」
俺が聞き返すと、彼は勢いよく頭を振って否定の意を表した。
「じゃあ、遅くなっちゃったけどランチ奢るよ
 それくらいなら受けてくれる?」
次の誘いには、彼はほっとした顔で頷いてくれた。

「フレンチ?イタ飯?何が良い?
 懐石とか寿司、ウナギ、焼き肉とか?
 個室あるとこの方が良いよね」
個室の店を提案したのには、ちょっとした下心と好奇心があったからだ。
彼がどうやってジョンやしっぽやの皆と知り合って、あんなに信頼される仲になったのか知りたかった。
「ファーストフードで十分だよ、牛丼とか、何なら立ち食いソバとか」
しかし彼は俺の言葉でまた慌てだした。
プライベートな話をゆっくりできそうもない店を提案するので
「じゃあ、デパ地下で何か買ってうちで食べない?
 今日は両親居ないし、少しゆっくりしていってよ
 あちこち連れ回しちゃったから疲れたでしょ
 しっぽやに服を届けに行くのは夕方にしよう」
岩月はちょっと迷った顔になるものの
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
素直に頷いてくれた。


有名な割烹の弁当を買い、うちのマンションまで移動する。
「これ…億ションってやつじゃ…」
建物を見て口を開ける岩月に
「でも、賃貸だよ
 あ、来客用の駐車スペースはあっちね」
俺は何でもないことのように答え指示を出す。
「どうせこのまましっぽやに行くし、荷物はこのままで良いか
 セキュリティしっかりしてるんで、盗難の心配はないよ
 一応、警備員に声かけとくから」
俺は先に車から降りて、警備員に挨拶を済ませておいた。
ランチを持ってエレベーターに乗り、階数ボタンを押す。
「バブルって弾けてないとこもあるんだね」
何だか呆然とした感じで呟く岩月に
「いやー、皆けっこうあおり食らってるよ」
そう言うと、彼は『これで…?』さらに呆然とした顔で呟いていた。


ペットボトルのお茶を開け、弁当を食べる。
「家政婦さん居ればお茶とか煎れてもらえたんだけどね
 両親が長期不在の時は、2、3日に1回しか来てもらってないんだ
 今回はダブルベリーも母親が連れてっちゃたから」
「ダブルベリー?」
「俺の妹たち、トイプードルのブルーベリーとロングコートチワワのストロベリー
 迷子になったストロベリーを探してもらうのにしっぽやを頼んで、捜索に来てくれたのが久那だったんだ
 それが、俺と久那の出会い
 で、お互い気に入って、付き合い始めたって訳
 岩月もジョンと付き合ってんでしょ?
 もう寝てるよね、すごい親密な感じだったし」
俺が聞くと彼は食べていた物を喉につまらせ、むせ始めた。
「大丈夫?ほら、お茶飲んで」
俺がグラスを渡すと岩月はゴクゴクとそれを飲み、胸を叩いた。

「あ、いや、何というか、その」
喉に詰まらせたせいか照れているせいか、彼は真っ赤になりながら言葉を発しようとする。
上目遣いで俺を見て、観念したように小さく
「うん」
と呟いた。
「そんな気にすることないじゃん、俺も久那と付き合い始めてすぐ寝たし
 好きだと思ってる同士なんだから、ヤマシいことないと思うけど?
 俺の周り、ゲイのカップルってけっこういるよ」
その言葉で岩月は
「そうだね、うん、ジョンのこと好きだって思ってる
 ジョンも僕を、僕だけを好きでいてくれてる」
優しい顔をして頷いた。
それは彼とジョンの確固たる絆を見せつけるような、余裕のある顔に見えた。
俺と久那はここまでの絆があるのだろうか、そう思うと自分でもよくわからない嫉妬のような感情を岩月に対してを覚えていた。

「ジョンって、黒谷とかの古い友達だって久那が言ってたけど、彼らってどんな関係なの?
 何か彼ら、特殊な事情がありそうな集まりじゃん
 そもそも、岩月ってどうやってジョンと知り合ったの?」
『何であんなに格好良いジョンが、岩月みたいな冴えない人をそこまで好きになってるの』
心の内で、そんな意地の悪い問いかけを同時にしてしまう。
岩月は迷っている顔になり
「久那は和泉のことが好きなんだよね、その、身体の関係もあるんだよね」
ビクビクと問い返してきた。
何故急に久那の話になるのかわからなかったが
「久那は自分の全ては俺のものだってよく言ってくれてるよ」
少し誇らしげに答えてやる。

岩月は俺の言葉で何故か安堵したような顔になっていた。
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