しっぽや5(go)

□I(アイ)のデザイン〈2〉
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俺も荒木も、和泉さんと久那の口からちょいちょいソシオの名前が出ることに気が付いていた。
ソシオは古い化生だが、今までミイちゃんの屋敷の外に出たことはなかったと聞いている。
「和泉さん、ソシオのこと前から知ってるんですか?」
同じ疑問を感じたのだろう、荒木がそう質問した。
「山の中のお屋敷って言うのが珍しくて、久那を飼ってからミイちゃんとこには何度も行ってたよ
 でも、ソシオに初めて会えたのは7、8回目くらいだったかな
 猫飼ってる友達に話には聞いてたけど、猫ってのは人見知りが激しいね
 俺はそれまで犬しか飼ったこと無かったから、ちょっと新鮮な感じだったなー
 犬とは兄妹みたいな仲でさ」
和泉さんが他の犬の話をし始めたせいか、久那がピッタリと大きな体を彼に寄せていった。
和泉さんは自然な動作で久那の手を軽く叩き、親愛を示している。
久那は直ぐに穏やかな顔に戻っていた。
『犬プロだ』
俺も荒木もその鮮やかな手並みに感服した。

「ソシオがパーカーが好きだから、何着かデザインしてみたっけ
 でも、うちの客層には合わなくて、話題にはならなかったよ
 ヤングカジュアルみたいなの、うちは弱くて
 俺のデザインセンスのせいだと言われると、ぐうの音も出ないけど
 うちの主力はメンズと、最近延びてきてる『お揃い物』かな
 ペットとお揃い、親子でお揃い、楽しくデザインできてるせいかこっちは評判も上々
 流れで雑貨にも手を出し始めたんだ」
「和泉はファッションデザイナーと言うより、マルチクリエイターって感じだよね
 本当に凄いよ」
月さんに誉められ、和泉さんは照れくさそうな表情になった。

「昔はトガってたのに今は丸くなったしね
 トガってるって言うより、高慢ちきって感じかな」
「岩月兄さん、それ若い子の前で言わないでよー
 俺のしっぽやにおける黒歴史なんだから」
焦る和泉さんを見て、月さんは楽しそうに笑っている。
「大丈夫だよ、化生が選ぶって意味、この子達ちゃんと分かってるから
 僕も分かってたから、和泉のことは苦手に思ってても嫌いになれなかった
 きっと、久那が派手なコリーだからじゃなく、久那が久那だから飼ってくれるだろうって信じてたよ」
「岩月兄さんには適わないな」
苦笑する和泉さんは、会った当初よりずっと素直な人に見えた。

「控え室のクローゼットに入ってる服って、和泉さんが選んだって聞きました
 白久は最近自分で選んだり俺が選んだりして新しい服買ってるけど、初めて会ったときはあの白スーツ、神秘的で凄く格好いいなって思ったんです
 ちょっとビックリしたというか
 皆の分の服、全部揃えてあげたんですか?」
荒木の疑問に
「うん、と言っても一気に揃えた訳じゃないけどね
 それまでは秩父先生が見繕ってくれてたみたいなんだけど、お医者さんって、ほら、基本白衣羽織っちゃうから仕事着に無頓着なんだよ
 化生も服のことはさっぱりわからないし
 生前の毛色に近い色が落ち着くから、色が合ってれば良いや的な感覚で選んでて、野暮ったい服も多くて気になってたんだ
 サイズも大きかったり小さかったりしてたしさ」
和泉さんは腕を組んで唸りながら答えていた。

「僕は布地はわかっても、デザイン関係はさっぱりだからね
 最初は背広着てれば普通の人っぽく見えるだろう、って感じだったっけ
 しっぽやが軌道に乗るまでは作業着みたいなの着てる事も多かったし」
月さんも苦笑を見せた。
「あれは洗うとき楽で良かったんだぜ
 今は俺達がいるから、皆、楽してんだ
 泥はねとか、全く気にしてないもんな」
ジョンに目を向けられ、俺と荒木は
「いつもお世話になってます…」
少し気まずい思いで頭を下げた。

「本職のファッションデザイナーにセレクトしてもらってたなんて、凄いな
 俺が下手に選ぶより、これからもずっと選んでもらった方が良さそう
 よろしくお願いします」
俺が頭を下げると
「飼い主が選んだ物の方が似合うと思うよ
 親ばかのセンスは最高だから」
和泉さんは悪戯っぽくウインクして見せた。
「飼い主いない子用には、今まで通り年1回くらい見繕うよ
 そうだ、クローゼットチェックさせてもらおうと思ってたんだっけ
 ちょっと見せてね」
彼はそう言ってクローゼットの中身を見始めた。

「新しい服が随分増えたな…ふーん…ん?ああ、成る程、双子用か
 へー良い感じじゃん、飼い主が選んだの?双子も飼い猫になれたんだ」
「あ、いや、多分それは大麻生の飼い主が揃えた奴だと思います」
俺は以前、ウラが双子のコーディネートをしていたことを思い出した。
「自分の化生以外に服を選んであげる、か」
和泉さんはどこか懐かしそうな顔になった。

「あの、良かったら和泉さんと久那のこと聞かせてください」
好奇心を抑えきれず俺が頼むと
「俺も知りたいです」
荒木も身を乗り出した。
「和泉と久那、話してあげたら?君達の絆を」
月さんに促され、ソファーに戻ってきた和泉さんは久那の隣に座り
「そうだな、先輩の昔話を聞かせてあげよう」
気障っぽくそう言うと、長い物語を語り始めるのだった。
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