しっぽや5(go)

□I(アイ)のデザイン〈1〉
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「良かったら、日野と荒木も久那に会ってやってください
 事務仕事はそんなに溜まっておりませんので、一緒に控え室でお茶をどうぞ
 久那が来ると言うことは、和泉も来るのかな」
「クローゼットのチェックしたいって言ってたから来ると思う
 2人も会っとくと良いよ」
黒谷の問いに月さんが答え、俺達に笑顔を向けてきた。
『知らない化生とその飼い主に会う』ことは、いつも少しの緊張と大きなワクワクを感じさせるものだ。
俺と日野は頷きあって
「お茶とお茶請けの準備、俺達がやりますよ」
「月さんとジョンはお客様だから座ってて」
そう言うと率先して控え室に入っていった。


新しい化生と飼い主が何を好むのか分からなかったので、俺達は和洋中の茶葉やインスタントコーヒー、ココア、色々と用意してみた。
お茶請けも同様に焼き菓子や煎餅、饅頭やひろせお手製クッキーをカゴに盛りまくっていく。
月さんが
「普段からこうなの?本当に喫茶しっぽやだね」
埋まっていくテーブルの上を目を丸くして見ていた。

「月さんとジョンは何を飲みます?」
そう聞くと
「僕達は日本茶にしようかな」
そんな答えが返ってきた。
日野がチラリと俺を見る。
日本茶の担当は俺と、暗黙の了解が出来上がっていたためだ。
「それじゃ、近所のお茶屋で買ったの開けます
 あそこ日本茶専門店だけあって、種類多くてつい買い込んじゃうんですよね
 カズハさんの気持ちが分かりました」
「カズハ、新しいフレーバーの紅茶を見かけると買っちゃうって言ってたもんね
 ここに持ってきて皆で消費できるから良いんじゃない?」
「そう!皆で飲めると思うと歯止めがきかなくて」
俺と月さんの会話に
「わかる!俺もコンビニでは中華まんの全種買いとか、おでん全種買いやっちゃうんだよな」
日野がそう言葉を挟んできた。
「どれも美味しそうだもんね」
俺が突っ込むより先に、月さんは大人な対応を見せていた。


「そうだ、昨日貰ったカップメンのQUOカード当たってましたよ!凄い引きが強いですね
 渡そうと思って財布に入れといたんです」
俺は鞄から財布を取りだし、QUOカードを月さんに手渡した。
「もう食べてくれたんだね、僕の引きが強いのか開けた荒木君の運が良いのか
 うちでも4個開けたけど、入ってなかったよ」
月さんはQUOカードに印刷されている犬の写真を嬉しそうに見ている。
「俺がまだ犬だったら、こいつより上手く演技してスターになってたんだけどな
 俺の方が見た目も可愛い犬で、宿では人気者だったんだぜ」
ジョンが月さんの横から顔を出し、少しムクレたようにQUOカードの犬を見た。
「ドラマの人気者の犬か
 そういえば、久那も世界的人気スターと同じ犬種だよ
 初めて見たときは、ちょっとドキドキしたっけ」
月さんの言葉でジョンがさらに面白くなさそうな顔になった。
「初めてジョンを見たときは、格好良くてドキドキした
 ハーフかなって思ったんだ
 今も格好良いし、側に居てくれて頼もしいよ」
月さんに優しく髪を撫でられ、たちまちジョンの顔は笑顔に変わっていった。


コンコン

ノックの音、事務所の扉が開く音、ジョンが頷いて控え室の扉を見る動作、それを見て俺も日野もやってきたのが件の『久那』なる化生だと言うことがわかった。
「久那、久しぶり、7年?8年ぶりだっけ?
 と言うか、こっちに来る日にちと時間、前もって教えてよ」
「サプライズ、サプライズ
 急な登場の方がインパクトあるだろ?どうせ直前にジョンが来てバラすんだし
 メールするにも、お前等スマホどころかガラケーも持ってないじゃん
 今時HP無いのもどうかと思うよ、この事務所」
「今はもうスマホ持ってるし、メールだって作成出来るってば
 HPは僕の飼い主が作ってくれてる最中だ
 そもそも、電話してくれれば良いのに」
「マジ?ついにここにも文明の波が!
 今の黒谷を叩くと、文明開化の音がするんだね」
「散切(ざんぎ)り頭じゃないから、しない」
黒谷と知らない化生の楽しそうな会話が聞こえる。

「ジョンと岩月の他に、僕の飼い主と白久の飼い主も控え室にいるから会ってよ
 和泉は?後から来るの?」
「和泉はゲンに挨拶してから来るよ
 大野原不動産の新しい職員が和泉のファンみたいで、盛り上がちゃってさ
 和泉くらい有名人になると、ファンが多くてね
 マルチで活躍してるからなー」
「新しい職員って、モッチー?なら、彼はソシオの飼い主だよ」
「マジ?三峰様の秘蔵っ子がついに飼い猫か
 ネットニュースになってない話題には疎くなってんの、マズいな
 口コミも大事な情報源だって和泉がいつも言ってるし
 お前と白久の飼い主は高校生なんだろ?」
「2人とも大学に合格して、この春から大学生だ」
「何?情報がアップデートしてる!ここでは俺の方が時代遅れ?!
 ちょっと飼い主見てくる」
そんな声と共に足音が近付いてきて、控え室の扉が開かれた。

そこに立つ化生を見て、俺も日野も言葉が出て来なかった。
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