しっぽや5(go)

□未来に向けた勉強会
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「そっかー、2人で通うの楽しんでるみたいだね」
ナリには俺達の状況はお見通しのようだ。
「最新の学科は私もちょっと自信ないけど、実技なら教えてあげられるからどうかな、って思って
 しっぽやの車、君たちがメインで使うことになるから今から少しずつ慣れといた方が良いよ
 愛犬とじゃなくて申し訳ないけど、今度ドライブ行ってみない?
 私から運転技術盗んでみて
 漠然と乗るより、自分で運転してたらってイメージしながら乗ると違ってくるよ
 2人の時間ある日があったら教えてね」
ナリは悪戯っぽい顔で笑っていた。
「良いんですか?勉強させてください!」
俺も荒木もそのありがたい申し出に興奮してしまう。
2人でスマホを取り出して講義の予定を確認している最中に、事務所の電話が鳴った。

「はい、ペット探偵しっぽやです
 はい、…はい、…お住まいは…ああ、少し遠いですね
 今から伺うとなると…」
黒谷が難しい顔で壁の時計を見て時間を確認する。
「電車での移動になりますので、到着は夕方過ぎてしまいそうです
 しかし、逃走直後の捜索の方が発見も早く、危険度は下がります
 ええ、交通事故が心配ですから
 犬ですと行動範囲も広いですし」
黒谷の応答を聞いて俺達犬の飼い主は心配そうに顔を見合わせた。

「そうですか、スタンダードプードル…
 賢い犬種ですから事故の心配はなくとも、大型犬なので騒ぎになってしまうかもしれませんね」
黒谷の言葉が聞こえたのだろう
「僕が捜索に出ます、夜間延長料金無しでやらせてください」
毅然とした顔のふかやが控え室から姿を現した。
「それなら私が送り届けます、道さえ込んでなければ電車移動より早く到着できるでしょう
 幸い通勤ラッシュにはまだ時間が早い」
ナリが素早く言葉を繋いだ。
黒谷は頷いて飼い主と詳しい話を始め、メモを作成していた。

「ごめんね、話の途中だけどそんな訳なんでふかやを送っていくよ
 日程が決まったら、また連絡して」
ナリは少し微笑んで、ふかやの元に近付いていった。
俺と荒木はそんな2人を見つめ、黒谷に視線を移す。
「これ、チャンスじゃない?このまま乗っけてもらって、運転見せてもらいたい」
「俺もそう思ってた、自分達も同じシチュエーションで出動することあるだろうし、一石二鳥の勉強になるじゃん?」
瞬時に同じことを考えた状況が嬉しく感じられた。
既に電話を終えている黒谷が俺達を見て
「こちらは大丈夫です、ナリに勉強させてもらってきてください
 しっぽやの未来のために」
微笑みながら頷いていた。
上司の許可が下りた俺達は早速ナリに相談して、急遽外回りの仕事のような状況になった。

慌ただしく準備をし、事務所を出ようとする俺に黒谷が近付いて
「ナリの運転なら安全でしょう
 時間のことは気にせず、ナリの技術を吸収してください」
優しくキスをしてくれた。
白久も荒木に同じ事をしていた。
「「よろしくお願いします」」
少し畏まる俺達は
「こちらこそ」
笑顔を見せるナリと共に、事務所を後にするのだった。



4人で影森マンションに移動する。
事務所のあるビルの駐車場は小さくて、大野原不動産に来るお客さん専用みたいなものなのだ。
今まで捜索に車を使ったことが無かったので特に不自由は感じなかったが、今後の俺達の活動状況によっては事務所の側の駐車場を借りた方が良いかもしれなかった。
『と言っても、影森マンションの駐車場だって十分近いんだけどさ』
考え事をして少しぼうっとしていた俺に
「最初はどっちが助手席に乗ってみる?
 行きは急ぐからあまり解説できないと思うけど、ナビを見ながら移動する勉強にはなるんじゃないかな」
ナリが話しかけてきた。

「え?あっと、どうする荒木?」
「俺、ちゃんと解説されないとわかんなそう
 お前先に乗らせてもらったら?ナビとかあんまり見慣れてないだろ?」
そんな荒木の申し出に従い、俺が先に乗せてもらうことになった。
「ふかや、今日の助手席は彼らに譲ってあげて」
「うん、だってナリが先生だもんね
 僕は後ろで大人しく捜索資料に集中してるよ
 スタンダードプードルが迷子って、何か事情があるかもしれないし
 日本では珍しい犬種だから、まさかと思うけど誘拐とか」
心配そうな顔のふかやを見て、俺と荒木も気を引き締めた。
「転売目的ってのはあり得るな
 荒事になりそうだったら黒谷に連絡して」
「白久も最近、洋犬の捜索頑張ってるから協力できるよ」
力説する俺達に
「ありがとう、複数で捜索できると心強いな」
ふかやは笑顔を見せた。

マンション駐車場に着くと俺達は早速車に乗り込んだ。
シートベルトを締めると、ナリは直ぐに車を発進させる。
「移動先、前に近くを通ったことあるから何となく分かるかも
 とりあえず国道に出よう
 ふかや、依頼人の正確な住所教えて」
「はい」
2人は手際よく物事を進めていく。
それは絆の強さを思わせる光景だった。
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