しっぽや5(go)

□新旧歓迎会
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歓迎会の日、業務を早めに切り上げたしっぽや事務所で俺達は歓迎会会場に向かうために着替えていた。
白久と黒谷はいつもの白と黒のスーツを着ている。
「料亭なら黒谷に着付けてもらって着物が良いのかなとも思ったけど、動きにくそうでやめといた
 こんな時、高校生だったら制服で済んだかな」
「新地の制服、オシャレだってゲンさんに散々言われたもんな」
日野も俺も大学の入学式に着ていこうと用意していたカジュアルスーツを、一足先に着てみたのだ。
カジュアルとは言えスーツなので、いつもとは違ってちょっと窮屈さを感じるものだったが、この格好で白久と並ぶと満更でもない気がしてくる。
「お似合いですよ、可愛らしくも、いつもより大人びて見える気がします」
白久に誉められて、俺は嬉しい気持ちになっていた。

タケぽんはモッチーに借りたジャケットスーツを着ていたため、完全に社会人に見える。
それでもひろせに『格好良い』と誉められて頬を赤らめると、幼さの見える表情になっていた。

1番派手なのはウラだろうと思っていたけれど、シンプルなカジュアルスーツで現れた。
チョーカーやイヤーカフスでウラらしさ(?)を演出はしているものの、いつもに比べれば温和しめな感じだった。
大麻生も同じようにカジュアルスーツで決めているので、かえって彼の方が派手に見える気がした。
「一応、ソウちゃんの上司に会うからね
 ちゃんとした飼い主だって思ってもらいたいからさ
 形から入ってみたりして」
ウラは少し緊張した面もちで、照れ笑いを浮かべていた。
「黒谷だって大麻生の上司だろ?」
日野が頬を膨らませると
「黒谷はソウちゃんの同僚だもーん」
ウラはいつもの表情を取り戻し、キシシッと笑って見せた。

上の階から桜さんと新郷が事務所に集合し、迎えに着てくれたゲンさん、モッチー、ナリ、カズハさん運転の車に分乗して俺達は店に向かって行った。



「広いね、ここが全部お店?」
駐車場に車を止めて向かった先には、大きな日本家屋があった。
塀の向こうには電灯に照らされた木や緑が見えて、庭も広そうだ。
『会席料理』と看板が出ていなければ、お店だと気が付かなかっただろう。
引き戸を開けてゲンさんが中に入っていくので、俺達もドキドキしながら後に続いていく。
表の引き戸から入り口の引き戸まで、数メートルはありそうだった。

「いらっしゃいませ」
引き戸の前には白い前掛けの品の良さそうなおじさんが居て、丁寧に頭を下げて迎えてくれた。
「ゲンちゃん、今日はご予約りがとうございます
 皆様、格好良い方ばかりですね」
おじさんはニコニコしながらゲンさんに話しかけていた。
「しっぽやはイケメン揃いだからな、皆、料亭なんて初めてなんで気張ってきたんだ」
ゲンさんは二ヤッと笑って見せる。
「いやいや、料亭だったのは先代までの話、今は会席料理店ですよ
 気軽に忘年会なんかで使ってやってください」
おじさんは俺達に頭を下げてくれた。
「時代の流れだなー」
「親父には猛反対されたけど、食に関わる仕事をしたかったのでね
 案外、今の方が料理を楽しんでくれるお客さんが多くて嬉しいものです
 料亭時代は、何というか…」
「バブル期に料亭に縁の無かった奴らが急に入り込んで、コンパニオン呼んでバカ騒ぎしてたんだろ?」
「まあ、色々と…
 ゲンちゃん、昔話ばかりでは若い方が退屈してしまう
 先に来ているお連れ様もいることですし、お部屋に案内しましょう」
そう言うおじさんを先頭に、俺達は長い廊下を歩いていった。


「どうぞ、こちらになります」
襖を開けると広い部屋に長いテーブルが繋げて並べられていた。
そのテーブルの真ん中に、ミイちゃんと波久礼が座っている。
ミイちゃんはいつもの白いワンピースではなく、紺の長袖のワンピースを着ていた。
襟と袖口が白く、上品な印象を与える。
長い髪にピンクのリボンが可愛らしく映えていた。
波久礼はいつもの灰色のスーツなので、2人は『入学式の親子』に見えなくもない。
まさか、俺と白久もそう見えないよな、とドキリとしてしまった。

「今日は大所帯だし、上座やらなんやらは気にしないで座ってくれ
 ミイちゃんが真ん中なのは、皆をより近くで見せたいからだ」
ゲンさんの言葉で
「それでは、ゲンは三峰様の向かいの真ん中に座らなければ
 皆、ゲンを見たいでしょうから」
長瀞さんがゲンを座らせ、その隣に陣取って座る。
俺達も適当にばらけて座っていった。
ソシオはミイちゃんに手招きされその隣に座り、さらにその隣に緊張した顔のモッチーが座っていた。

「飲み物は自分らで適当に開けるから、瓶でじゃんじゃん持ってきといて
 っつっても、未成年が居るし車で来てるからジュースとウーロン茶オンリーな」
ゲンさんが頼むと瓶に入ったコーラやオレンジジュース、ピッチャーに入ったウーロン茶が次々と運ばれてくる。
グラスに飲み物を注いでいるときに中川先生と月さん組が登場し、俺達は全員揃って乾杯することが出来た。

変則的な歓迎会の始まりであった。
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