しっぽや5(go)

□新旧歓迎会
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side<ARAKI>

楽しかった春休みも、残り僅かになってきた。
受験生だったときよりはマシだけど教習所に行っているので、しっぽやに行く時間が思うように取れなかったことは心残りだった。
『その分、日野と一緒に居られた時間は長かったけどな』
大学が別々になってしまうため、せめて教習所では一緒のコースをとるようにしたのだ。
教習所が日野と共に過ごす学校生活の最後だと思うと、早く免許は欲しいものの胸中では少し寂しかった。


しっぽやでのバイト中、HP作成のためパソコンと格闘している日野を横目に、俺は教習所の学科を勉強させてもらっていた。
普段意識して歩いたことはなかったが、道路にある交通標識の種類の多さに今更ながら驚かされた。
『免許持ってる人って、これ、全部覚えてんの?』
モッチーとナリに聞いてみたら
『試験前はある程度覚えてた』
と言う曖昧な返事が返ってきたし、カズハさんに至っては
『長らくペーパードライバーだった人間に聞かないでくださいよー
 と言うか、免許取ったら最新知識を僕に教えてくださいね』
と真剣な顔で言われてしまった。

「基本的なことは何とかなるけど、俺がやるとデザインがつまんないや
 悪い、荒木、ちょっと手伝ってもらって良い?」
日野に声をかけられてハッとする。
教材を見ていたはずなのに、内容がちっとも頭に入っていなかった。
こんなことなら最初から日野のHP作成を手伝っとけば良かった、とガックリきてしまう。
「良いよ、ちょっと煮詰まってたみたいだ
 後でわかんないとこ教えて
 実技はモッチーとナリに教えてもらえるけど、学科は2人とも嫌がってさ
 こんなとき頼りになるのは、やっぱ日野様だ」
「良いぜ、報酬はひろせお気に入りのケーキ屋の焼き菓子でどうよ」
「パンより高くつきそうじゃないか」
俺達は楽しく話しながらHP作成に取りかかっていった。


コンコン

俺がパソコンデスクに移動して直ぐにノックの音がしたかと思うと
「お、今日も頑張ってんな、感心感心」
ドアを開けてゲンさんが入ってくる。
「今日はタケぽんは居ないのか?」
「タケぽんなら、ひろせと捜索に出てるよ」
「まだまだ調子にムラがあるみたいだけど、けっこー頑張ってる感じ」
俺達の答えにゲンさんは笑みを深くした。
「そうか、将来が楽しみだな
 じゃあ、歓迎会のことはお前達から伝えといてもらうとするか
 今回の歓迎会、ちと急だが次の水曜の夜にしたいんだ
 荒木と日野は、バイトの予定が入ってるから教習所は無しだろ?
 参加できそうか?
 平日だけど夜7時から、遅刻OKって感じで」
ゲンさんの言葉に俺と日野は顔を見合わせる。
「次の水曜って、明後日?
 教習所は行かないけど随分急ですね
 持ち寄りのお題は何だろう、良さそう なの用意出来るかな」
「俺達が春休みのうちに、って事ですか?
 都合合わせてもらうの、皆、大変なんじゃ」
戸惑う俺達に
「いや、申し訳ないが、俺の都合なんだ
 うちの店の定休日、水曜だから
 後、平日が良いって頼まれてな」
ゲンさんは慌てて手を振っていた。

「ゲンさんの都合になら、いくらでも合わせますよ」
「世話になってるもんな、俺達は参加でよろしく」
ヘヘッと笑って答えるとゲンさんも嬉しそうに笑ってくれた。
「飼い主が参加するってことは」
ゲンさんが所長席に座る黒谷を見ると、彼は満面の笑みで頷いていた。
「今回は、ちょっと変則的な歓迎会なんだ
 まあ、俺の独断と偏見でやることなんで申し訳ないが
 そりゃ、いつものことか」
苦笑するゲンさんに
「ううん、ゲンさんのアイデアって最高だよ
 毎回、楽しい歓迎会だもん」
「企画力もあるしさ、クリスマスパーティー自分達でやってみて、ゲンさんの凄さを実感した」
俺達はそう力説する。
その返事に気を良くしたのか、ゲンさんはいつもの調子を取り戻し
「今回は持ち寄りじゃなく、料亭での歓迎会になりまーす
 会費は飼い主と化生、2人で5000円
 手ぶらで良いけど、ちょっとめかし込んでくれると雰囲気出るかもな」
そう高らかに宣言する。

「料亭って…2人で5000円なら居酒屋みたいな感じ?」
「それでも破格に安くない?」
驚く俺達に
「いや、知り合いがやってる店なんだけど、最近客入りが悪いらしくてさ
 集まりがある時は、平日なら割り引きするから利用して欲しいって頼まれたんだ
 今回はスポンサーも参加してみたいって言ってたし、ちょうど良いかなって
 かなり負担してもらえるから、他の人は激安なんだ
 こんだけ出してくれるってさ」
ゲンさんは指を4本立てて見せた。
「スポンサーってミイちゃん?」
「4万も出してくれるんだ、ありがたいな」
「桁が違うって、料亭だって言ったろ」
ゲンさんの言葉で俺と日野の顔がひきつった。
「「40万…?」」

「ミイちゃんに会ったら、お礼言うんだぞ」
ゲンさんに言われるまでもなく、俺達は首を激しく振って頷くのであった。
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