しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーワーク
1ページ/4ページ

side<HIROSE>

しっぽや事務所の業務開始前の時間、皆で簡単な掃除をしているときに
「今日は黒谷も白久も飼い主と一緒にお休みなので、私達だけで頑張りましょう
 2人には飼い主との楽しい時間を過ごして欲しいですからね」
テーブルを拭きながら長瀞がそう言葉を発した。
所長の黒谷、所長代理の白久が居ないときは年長の長瀞が自然と所長代理のようになっているのだ。

「報告書の入力、頑張ってみるよ
 パソコンだと変換してくれるから、漢字書けなくても楽で良いよね」
羽生が朗らかに言うと
「俺達は手書きの方が馴染みがあって楽なんだけどな」
双子は苦笑して頭をかいていた。
「俺も変換してもらった方が楽
 でも、変なとこ押しちゃうとパソコン壊れそうで怖くてさ
 こないだも、いっくら打ってもちゃんとした言葉にならなくて焦ったぜ」
「あれは空が仮名入力をローマ字入力に切り替えたせいだよ」
「え?それってどうやるの?」
「こっちが聞きたいんだけど」
空とふかやの掛け合いに、皆が思わず吹き出していた。

「今日はいつもより早い時間にタケシが来てくれるので、大丈夫ですよ
 事務も掃除も買い出しも頑張るって言っていましたから
 タケシは優秀ですので、何でも頼んでください」
僕は誇らしい思いで飼い主をアピールした。
そんな僕に
「いえ、タケぽんには春休みの間、捜索の方をお願いしたいのです」
長瀞が微笑んでそう言った。
「学校のことを考えなくていい分、捜索に気持ちが集中出来るのではないかとゲンが言っていました
 しっぽや初の人間の捜索員、皆、期待してるんですよ」
その場にいる化生の興味深そうな顔に
「双子に負けないくらいのコンビになれるよう、頑張ります」
胸を張って答えてみせる。
「ま、そう簡単に兄弟の絆を抜かさせないけどな」
「年期が違いますからね」
明戸と皆野は同じ顔で頷き合っていた。

「さて、そろそろオープンしましょう」
長瀞が外に出て扉のプレートを『営業中』に直すと、いつものようにしっぽや業務開始となるのだった。



業務開始から1時間程で、愛しい飼い主のタケシが出勤してきた。
「今日は先輩達の分も事務頑張るよ、まずは報告書の入力だ!」
意気込んでいるタケシに
「今日は2人で捜索の方を頑張るように、と言われました
 それにまだ依頼が来ていないので、事務仕事が無いんです」
僕は少し申し訳ない気分を感じながらそう報告する。
「あ、そっか、じゃあ何からやろうか…」
所在なさげに事務所を見回すタケシに
「控え室で、ひろせと2人でイメージトレーニングというのをやっていてください
 いつ依頼が来ても良いようにね」
長瀞がクスリと笑って言葉をかけた。
「よし、わかった!頑張ってイメージするぞ
 行こう、ひろせ」
「双子のように僕達の絆を育てましょう」
張り切るタケシにそっと寄り添い、2人で控え室に入って行った。

「問題は、やっぱり俺の能力不足なんだよな」
ソファーに座るタケシは難しい顔をする。
「室内で距離が近ければそれなりに感じ取れても、町中だと雑音もあっていまいち集中しきれないというか
 ボーッと突っ立てると、不審人物に間違えられかねないと思うと変に焦っちゃってさ
 ナリみたいにさりげなく『あれっ?』って感じで気が付ければ良いんだけど」
盛大なため息を付くタケシを見ると、申し訳なくなってくる。
タケシは自分だけの問題だと思っているようだけれど、僕の方にも問題はあった。
『タケシが他の猫を可愛がっているところを見たくない』
と言う、ごく身勝手な理由だ。
迷子になって心細い思いをしている猫に嫉妬する自分が、とても醜く感じられた。

「練習あるのみ!繋がってみよう」
タケシに笑顔でそう言われ、僕は自分の思考を中断させる。
そして最近2人で考えた僕達独自の意志伝達方を試し始めた。
差し出されたタケシの手を握り、その存在だけに意識を傾けた。
『愛してる』
1番強く感じとれるのはタケシからの愛のメッセージだ。
繋いだ手から温かく流れ込んでくる。
『僕も愛してます、僕はここにいます』
繋いだ手をほどき手の平のみを触れ合わせる。
『俺はここにいるよ』
手のひらを離し指先だけを触れ合わせる形に変えていく。
その指先さえも離し
『タケシの前にいます』
自分の居場所を伝えていく。
体が触れあえない分心が触れ合おうと、思いはより強くお互いを求めるものに変わっていった。

『窓辺にいるよ』
言葉ではなく青空とタケシの映像が浮かび、僕は彼の居場所を推し量ることが出来た。
僕も室内を移動して
『シンクの脇にいます』
そう伝える。
『蛇口に浄水器、付けたいね』
そう考えているのだろう、蛇口と清らかな水のイメージが心に浮かぶ。
知っている場所であれば、僕達はかなりしっかりと思いを伝え合うことが出来ていた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ