しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side B 〉
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やっと首輪を選び終わり、レジに向かう。
お互い相手にプレゼントしたいので、別会計することにした。
荷物をまとめてエコバッグに入れ
「今夜はこれを付けて頑張ります」
そう日野の耳元で囁いた。
「俺も、付けてみる…」
日野は恥ずかしそうに呟いていた。


その後、クレープを立ち食いして小腹を満たし次の店に向かう。
「黒谷と一緒だと、あーゆー店に並びやすくて良いね
 並んでるの女の人が多くて、ちょっと気後れしちゃうんだ
 ペット連れだと微笑ましく見てもらえる気がする」
ツナ卵とチョコバナナの2品を堪能した日野が満足そうな顔になった。
「作るところを見られたので面白かったです
 自分であれだけ薄く焼くのは至難の業ですね
 でも、パンケーキを出来るだけ薄く焼いて真似できないか試してみたくなりました」
「俺、味見したい!好きなの何でも入れてくれる?
 プリンとか入れたらどうかなって思ってたんだ、食い難いかな
 ささみフライとかにハンバーグとか軽食系も美味そう」
日野が瞳を輝かせる。
「お好きな物を何でも入れてください」
「今日はクレープ食べちゃったから、今度泊まりに行くとき作ってよ
 次のお泊まりの楽しみが増えた」
僕にとっても、また日野が泊まりに来てくれると言う楽しみが増えたのだった。


次の店も今まで来たことのない場所だ。
「こちらでお買い物なさりたいのですか?」
そこは天然石を使ったアクセサリーや、シルバーアクセサリーを売っている店だった。
「うん、ここって天然石のパーツも取り扱ってるってナリに教わってさ
 黒谷用のブレスを組みたいなって思ってたから、この前色々聞いてみたんだ
 どうせなら黒谷が『状態が良い』って感じた石で作りたいんで、一緒に選んでくれる?」
日野の申し出に、僕は嬉しさで胸がはち切れそうだった。
「むしろ、僕に似合う石を日野に選んで欲しいです」
「黒谷、青系も似合うからラピスラズリとかどうかなって思ってたんだ、色々見てみよう」
僕達は勢い込んで店に入っていった。

天然石とシルバーは、どちらも良くない気を引き寄せることがある。
僕は日野を守る事を念頭に店内を見て回っていった。
天然石のコーナーには所々に浄化用の水晶系さざれ石が置かれ、明るい感じでホッとさせられた。
しかし、シルバーアクセサリーのコーナーには淀んだ気が溜まっていた。
シルバーもくすんで見えるが他のお客は気にした風もなく『渋い感じで良いね』などと言っている。
天然石コーナーに直行した日野は、特に気が付いていないようだった。

僕は日野がそちらに意識を向けないよう側に寄って石を選ぶことに集中させる。
「やっぱり、ラピスが似合いそう
 でも全部ラピスだと重い色合いになるよな
 アマゾナイトと水晶も入れて、玉の大きさはバラバラにしてみよっと」
日野は次々と石を選んでトレーに乗せていく。
無造作に選んでいるように見えて、状態の良い石を的確に手にしていたのは流石だった。
僕の出番はなさそうだ。
けっこうな金額になったので僕が支払うことを申し出てみたが
「良いの、これは俺が黒谷にあげたい物だから
 部屋に帰ったらさっそく組んでみるね」
日野は笑顔で断って財布を取りだしていた。

会計を済ませ店の外に出ると
「シルバーアクセの方、ちょっとヤバかった?」
日野が小声で聞いてくる。
「気付いていましたか」
「いや、気付かなかったけど、黒谷が俺がそっちのほうに行かないよう気を付けてたのは分かった
 守ってくれて、ありがとう」
安心した顔で飼い主に寄り添われ『守ることが出来ている』という満足感がわいてきた。
「雑魚だったのですか万が一がありますからね
 僕にもあれくらいなら対処可能です」
「ナリもあの系列の店にはふかやと一緒に行くって言ってたよ
 犬や猫なら散らせるレベルのものが多いんだって
 ペット同伴で店内まで行けるから、自分達は得してるって言ってたっけ
 でもさ、もし空と行ったら店内の物ひっくり返されそう」
日野はクスリと笑う。
「水晶のさざれをぶちまけてしまったら、平謝りですよ」
僕の言葉で日野は思わず吹き出していた。
「カズハさんに注意するように言っておかなきゃ」
「全くです」
僕達は笑いあいながら次の店に向かっていった。


次は本屋だった。
『授業とは関係ないんだけど、自分で勉強したくて』と言って、日野は動物関係の本を数冊買っていた。
写真の多い大判の本でかなりの金額になったが、日野は先ほどのように僕が支払うことを拒んでいた。
「自分でやりたいことは、自分のお金で出したいんだ
 しっぽやのバイト代があるから大丈夫
 一応、この日のために買い食い控えてお金貯めといたから
 その代わり、しっぽやでのオヤツタイムを値引き品で豪華にしちゃってるけど」
舌を出す日野に
「では、ランチくらいは奢らせてください」
そう頼み込む。
せっかくのデート、僕は日野に何かをしてあげたくてたまらなかったのだ。
「それは、喜んで」
笑顔の日野と共に僕達はレストラン街に繰り出して行った。
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