しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side B 〉
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デート当日、僕は正月にカズハ君にしてもらったトリミング(?)を意識した装いで決めてみた。
とはいえボタンをきちんと留めず、シャツがズボンから出ている状態の自分を鏡で見ると
『ダラシナいのではないか』
と思わずにはいられなかった。
カズハ君に借りたスプレーを髪にかけ手櫛で整えた髪型も、不安を感じる材料の一つだ。
『きちんとブラッシングされていない状態で町を歩いたら、野犬だと思われるかも…』
今日は絶対に日野の側を離れる訳にはいかないと僕は気を引き締めた。


ピンポーン

チャイムより先に日野の気配に気が付いた僕は、直ぐにドアを開ける。
「おはよ、黒谷
 相変わらず素早い反応だね
 今日もワイルドに決めてくれたの?格好良い」
玄関に入ってきた飼い主は頬を染め、軽いキスをしてくれた。
『気に入っていただけた』
僕は一気に緊張が解け、誇らしい気持ちになっていた。
「今日は日野の行きたい場所、どこへでもお供します
 荷物持ちは任せてください」
当日は色々買い物がしたいと聞いていたので、僕は張り切ってエコバッグを掲げてみせる。
「ありがとう、ワンパターンだけどいつものショッピングモールに行きたいんだ
 あそこに行けば一気に買いたい物揃うし、ご飯も食べられるもんね」
ニッコリ笑う飼い主の言葉で、僕達は影森マンションを後にしてショッピングモールへ行くために駅に向かって行った。



ショッピングモールに到着すると、日野はお店の案内板をチェックし始めた。
「今日はスポーツ用品店には行かないのですか」
いつもなら真っ先に向かうのに、と少し疑問に思いながら尋ねると
「今日はペットショップに行きたいんだ」
日野は案内板を見ながら答えた。
僕はその返答に少なからずショックを受けてしまった。
『僕以外に、何かお飼いになるつもりなんだ』
日野の家はペット不可のマンションなので今まで考えたこともなかったが、観賞魚やハムスター、小鳥の類は飼っても良いらしいのだ。
少しうなだれてしまった僕に気が付いた日野が
「違う違う、小動物を買いに来たんじゃないよ
 その、黒谷に似合う首輪が欲しくて…」
モジモジして最後のセリフは小声で告げてきた。
「それならば、カズハ君の働くペットショップでも良かったのでは
 最近では生体販売よりペット用品の方を充実させているらしいですよ」
そう聞いてみたら
「ダメダメ!首輪買ってるとこウラに見られたら、何言われるか分かったもんじゃない」
日野は慌てて首を振って否定した。

「大学の合格祝いで、首輪付けた格好良い黒谷を見せてくれるんだろ?
 それで、そのまま…」
日野は赤くなって言いよどんでいる。
「はい、お任せください、頑張らせていただきます」
僕は即座にそう答えた。
「ネットで検索してみても、数が多すぎて逆に見当付かなくてさ
 写真と実物では微妙に色味が違うってウラが言ってたんだ
 実物と黒谷を目にしながら買おうかなって
 色は赤と黒に決めてるけど、他にも良さそうなのがあったら欲しいし
 あ、鎖は買わないよ、まだ早い気がするから…って、思考がウラそのものじゃん」
日野は頭を抱えてしまう。
「日野用の首輪は買わないのですか?大麻生の部屋での日野は大変可愛らしかったです」
僕の言葉で日野はますます赤くなり、複雑な顔になってしまった。
「黒谷が選んでくれるなら…付ける…」
そのほんの小さな囁きを聞き逃すはずもなく
「日野に似合いそうな物を全力で選びます」
僕は彼の耳元で囁いた。


それから僕達はペットショップに移動する。
この店も生体販売はあまりやっておらず、フードやペット用品の販売の方に重点を置いていた。
そのせいだろうか
「うわ、こんなにあるんだ」
日野が呆然とするくらい、首輪の種類が多かった。
「こちらが猫用、こちらが犬用ですね
 さらに大型犬用、小型犬用色々あります」
僕も種類の多さに気圧(けお)されてしまう。
僕達以外のお客さんは真剣な目で首輪を見比べている。
どれが1番自分の家の仔に似合うか吟味している様子だ。
それだけ愛されている犬や猫がいると思うと心が温かくなった。

呆然としていた日野も、直ぐに他の客と同じ表情になっていく。
「布より、皮の方が良いよな
 黒は鋲(びょう)が付いてるの方が格好良い…
 ああ、でも、こっちのデニム地も似合いそう
 赤に鋲が付いてるのもワイルド可愛いな
 ヤバい、ウラの気持ちがわかってくる」
日野はブツブツ言いながら時々僕の首元に視線を寄越し、また首輪選びに没頭していた。
僕も日野に似合いそうな物を探し、直ぐに同じような状態に陥ってしまう。
『日野には猫用が似合いそうだけど、短くて首が締まりそうだ
 それならば、小型犬用…って、こっちの方が小さくない?!
 猫って案外大きいんだな…』
僕達はお互いに相手の首元に視線を送りながら、悩ましい買い物を楽しむのであった。
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