しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side B 〉
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side<KUROYA>

営業開始直後のしっぽや事務所、まだ依頼の電話がこないため、僕たち化生は皆マッタリとくつろいでいた。
「黒谷、明後日は日野も荒木も出勤予定ですね」
長瀞が所長席に座る僕に話しかけてくる。
「ああ、2人とも教習所の授業は入れてないらしい
 おかげでバイトの3人が顔を合わせられる日になるよ
 受験の時ほどじゃないけど、最近は3人揃う機会が減ってしまったね」
僕が答えると、長瀞は側にいたひろせと顔を見合わせて意味有りげに笑った。

「お2人にしか出来ない仕事の予定が無いのなら、有給を取らせてあげてください
 黒谷も白久も休みを取って、飼い主と楽しい時を過ごすと良いですよ」
「しっぽやのバイトは、タケシ1人でも大丈夫です
 タケシは優秀ですから」
長瀞とひろせの提案はありがたかったが
「僕とシロ、同時に休むのは皆に負担がかかるんじゃないかい?
 最近、犬の依頼が増えてるからさ
 でも、そうだね、シロと荒木には休んで貰おうか
 2人でゆっくりデートすれば良いよ」
僕はそう思い立ち、側にいる白久に話を振ってみた。
「私よりクロの方が休みが少ないのですから、クロが休んで日野様と休日を楽しんでください」
白久は慌てて断ってきた。

「本当に2人とも仲が良いですね、しっぽやの方は大丈夫ですよ
 ささやかですが私達化生からの、日野と荒木の大学合格祝いです」
「大学合格祝いなんて、何あげればいいかわかんないからさ
 ゆっくり出来る時間をあげたらどうか、ってカズハが言ってたんだ」
「このところ犬の依頼が多かったから、黒谷も捜索に出て疲れてるでしょ
 僕も和犬の捜索頑張ってみるよ」
「俺、ラブの捜索ならお手のもんだよ」
「ラブの捜索には僕も出ます」
「猫は俺達と長瀞がいれば十分だって」
気が付くと、出勤している化生が皆で僕と白久を見つめ笑顔になっていた。
「あー、っと…」
所長命令、と言っても皆聞く耳持たなそうな雰囲気だ。
「皆の厚意に甘えちゃう?」
苦笑して白久を見ると
「甘えさせていただかないと、逆に怒られそうですよ」
彼も苦笑して僕を見返してきた。
「それじゃ、休ませてもらおうかな
 でも、何かトラブルが起きたら直ぐに連絡してね」

こうして僕と白久は飼い主と休日を満喫できることになったのだった。


早速日野にその旨をメールしてみたら、彼も喜んでくれた。
どうやって過ごすか予定を立てたいらしく、僕にも行きたい場所や買いたい物がないか教えて欲しいと言ってきた。
『行きたい場所…』
そう言われても、日野の側以外特に思い浮かばなかった。
白久も荒木と連絡を取っているようだ。
真剣な顔でスマホの画面をいじっていた。

「シロ達はどこかに行くのかい?」
何か参考になるかと聞いてみたら
「荒木が月様のお店に制服のクリーニングを出しに行きたいそうです
 クリーニングが終わったら部屋に飾る予定になっていますので、私としても早めに行きたいと思っていたから急なお休みは良いタイミングでした
 制服を飾るための場所を確保するため、今日は帰ってから部屋の模様替えをします」
白久は弾んだ声で答えてくれた。
「それは楽しみだね
 日野の制服はお婆さまに持っていてもらいたいから、僕は遠慮したよ
 制服が無くても部屋に日野の服が増えてきて、それだけでも嬉しいんだ」
飼い主の物が部屋に増えていく喜びに思わず顔が緩んでしまった。

「私自身、欲しい物があるんです
 ネットで調べてみたのですが1人で買いに行くのは心許なくて、飼い主にも付いてきて欲しいと思っていました
 荒木が快諾(かいだく)してくださったので、月様のお店に行った後に一緒に行ってみる予定です」
白久は少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を染めている。
「白久がネットで調べてまで何かを欲しがるなんて珍しいね」
興味をそそられた僕は何が欲しいのか聞いてみた。
『荒木のためにバジルを育ててみたい』
白久の答えは思いもよらないものであったが、僕にとっても興味深い話だった。
「上手く育つようだったら、僕にも植物の育て方教えてよ
 大葉とかセリ、ミントなんかあると便利そうだ」
「頑張ってみます
 荒木に自分で育てた物を食べていただくことが出来るなんて、夢のようです」
荒木に飼ってもらってからの白久は、僕が知る限り最もアクティブな状態になっていた。

「僕は、どうしようかな…」
白久の話を聞いても自分達の参考には出来そうになかった。
主体性がないけれど、飼い主に尽くせることが今の僕にとっての最大の喜びである。
飼い主の望みを全力で叶えるデートの方が性に合っている、と日野に伝えよう。
そう決心したら気が楽になり、その後の仕事にも精を出すことが出来た。


その日の依頼達成率も良好で、僕は安心して皆に事務所を任せデートを楽しめそうなのだった。
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