しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side A 〉
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すっかり馴染みになったファミレスに入る。
「モーニングにはスープバーやドリンクバーが付いていて、お得感満載、という感じです」
「白久、トースト1枚で足りる?追加できるみたいだよ
 俺、もう1枚食べちゃおうかな
 あ、追加メニューにサラダとか唐揚げもあるじゃん」
メニューをチェックしている荒木が色々説明してくれた。
「それでは私はトースト1枚と唐揚げを追加します」
私の答えを受け荒木はお店の人に注文を伝え
「スープとドリンク取りに行こう」
そう言ってグラスやカップが置いてあるコーナーを指さした。
私たちは連れだって移動すると、飲み物を手に席に戻る。
「日野だったら、トースト2枚追加に大盛りの和定食、唐揚げも追加してるぜ」
「それでもリーズナブルな値段です、モーニングとは凄いものですね」
私たちは楽しく会話しながら飲み物で喉を潤(うるお)した。

会話の中で、今日の予定を再度確認する。
「まず月さんのとこに行くだろ、それからホームセンターで白久の買い物してマンションに帰る
 ランチは帰って一仕事した後の時間をみてから考えようか」
「荒木の行きたいお店があれば、私の買い物の前に寄りますよ
 それと、大学合格のお祝いの品をプレゼントしたいのですが、私では何が必要かわかりませんから希望を教えてください
 どうせなら、荒木のこれからの大学生活に役立ちそうなものを送りたいのです」
「ありがとう、でもそれは今日はいいや
 一気に全部買っちゃうより、何回にも分けて買い物に行けば何度もデートできるじゃん」
照れたように笑う荒木はとても可愛らしく、見ているだけで幸せな気分が増していく。
「そうですね、何度もデートいたしましょう」
私たちは幸せに満たされ、運ばれてきた物を食べ始めた。

「月さんとこのお店って10時開店だったよね
 開店直後って込むのかな
 クリーニング屋なんて行ったことないからわかんないや
 ここでゆっくりしていって、少し遅めに行ってみる?
 お土産とか買っていった方が良い?制服、タダでクリーニングしてくれるって言ってたから手ぶらじゃ悪いかな」
悩む荒木に
「ここは岩月様の厚意に甘えてしまいましょう
 岩月様のことですから、荒木に何か頂いたら逆に恐縮してしまうと思いますよ
 私がスーツをうんと汚して特別料金がかかる仕事を依頼すれば、お店の売り上げが上がりますから、お礼は任せてください」
私は笑って答えてみせた。
「それ、ジョンにメチャクチャ怒られるパターンじゃん」
「ジョンに怒られるのはいつものことです」
私たちは声を上げて笑いあった。

今日のデートの用事の1つは、荒木の高校の制服を永田クリーニング店に持って行くことだった。
クリーニングが済んだ制服は、私が頂けることになったのだ。
『いらない制服押しつけるみたいになってごめんね』
荒木は少し申し訳なさそうな顔で謝っていたが、そんなことはない。
部屋に飾っておくため、私は引っ越してから初めて『部屋の模様替え』なることをした。
初めて会ったときに荒木が着ていた服を部屋に飾る、それはとても心躍ることで、暫くは部屋にいるだけで口元がゆるんでしまうに違いなかった。


10時過ぎまでファミレスで過ごした私達は駅に戻って電車に乗り、永田クリーニング店に向かう。
事前に連絡をしておいたので、岩月様とジョンがすぐに出迎えてくれた。
「冬服と夏服、確かに受け承りました
 出来上がったらしっぽやの方に持って行けば良いのかな?
 白久が貰うんでしょ?」
「はい、よろしくお願いします」
頭を下げる荒木に習い、私も頭を下げた。
「しっぽやからお店まで、電車だと結構かかるんですね」
「車だとそうでもないよ」
岩月様とのそんな会話を経て
「やっぱ車って必要だよな、教習所頑張って通おう」
荒木は免許取得に向けて闘志を燃やしているようだった。

「そうだ荒木君、よかったら貰ってよ」
岩月様がカップラーメンを2個持ってきて荒木に手渡した。
「これ今、ドラマとコラボしてて、当たるとオリジナルQUOカードが入ってるんだって
 主人公の飼ってる犬が生前のジョンに似てるから、毎週見てるんだ」
「良いんですか?」
「うん、でも、QUOカードが当たってたら貰って良い?」
悪戯っぽく笑う岩月様に
「はい!」
荒木も笑顔で返事をして、中身の制服が無くなったバッグにカップラーメンを入れていた。


その後、訪れるお客様が増えてきたので私と荒木は店を辞去することにした。
「次は新入り君の歓迎会で会えるかな?荒木君、またね」
「また会いましょう」
「白久、雨の日の捜索はジャージでやって自分で洗えよ」
「こちらの店の売り上げアップのため、スーツで頑張ります」
私達は笑顔で別れの挨拶を交わし、店を出ると駅への道を歩き出した。

「次に月さんのとこに行く時は、自分で運転して行けると良いな」
「助手席に乗せていただけるのを楽しみにしております
 ふかやとソシオに、さんざん自慢されていますので」
新しいことにチャレンジしようとしている荒木は、頼もしい飼い主に見えた。

次の移動先は、私のチャレンジに関係する場所だ。
「よし、じゃあ今度はホームセンターに行くために駅まで戻ろう」
「はい」
飼い主の指示の元、私は緊張と期待で胸を高鳴らせながら歩くのだった。
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