しっぽや5(go)

□新たな仲間に受ける刺激
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天ぷらを揚げている最中に、ゲンがモッチーと一緒に帰ってきた。
いったん火を消して出来上がっている分をテーブルに並べ、皆で乾杯する。
「どうぞ、冷めないうちにお先に召し上がっていてください
 私は残りを揚げてしまいます」
私はビールを何口か飲んだ後、立ち上がった。
「ナガト、ゆっくりしててくれ一緒に楽しもう」
ゲンが労るように制止するが
「俺も一緒に揚げる、行こう、長瀞」
すかさずソシオが立ち上がって私を促した。
「ソシオ、少し頂いてからにしたらどうだ」
モッチーがゲンとソシオを見比べて少しオロオロしながらそう言った。
「だって、ねぇ」
ソシオは悪戯っぽく舌を出して私を見つめる。
「そうですよね」
私も同じように舌を出し、2人で笑いあった。
舌に受けたあんこ攻撃により、私たちはまだ温かい天ぷらを食べる気にならなかったのだ。

クスクス笑う私たちをゲンとモッチーは驚いたような顔で見つめていた。
「んじゃ、ここはにゃんこちゃん達の厚意に甘えるとするか」
ゲンに苦笑気味に声をかけられ
「そうッスね、先に飲んでましょう
 ソシオが揚げた天ぷら、楽しみに待ってるよ」
モッチーは優しい目でソシオのことを見て頷いた。
「頑張る!その天つゆ、長瀞に教わって俺が作ったんだ
 モッチーに喜んでもらえるよう、俺でも出来ることをもっともっと探していくよ」
ソシオの姿が、ゲンに飼われた直後の自分の姿とダブって見えた。
少しでもゲンの健康の助けになれば、と本を読んで独学で頑張っていた。
今は知識を得るツールも飼い主のことを相談できる仲間も親しい人間も、当時より増えている。
『私も教えるだけではなく、もっと皆を頼って新しいことを教えて貰おう』
ソシオとの会話を通じ、私は素直にそう思えるようになっていた。


ソシオと2人、協力して揚げていたので残りはすぐに揚げ終わった。
お茶漬け用の掻き揚げを取り分け
「出す直前に出汁を温めなおしてかければ完成です
 冷たいお酒を飲んだ後なので、最後は温まって欲しいですからね
 添える香の物は、今朝漬けておいたキャベツとキュウリにしましょうか」
私は冷蔵庫をのぞき込んだ。
「俺たちの分も温める…?」
ソシオは私の後ろからモジモジと聞いてくる。
「冷めてる出汁をかけたら変?」
自信なさげな彼に
「良いですね、私たちの分は舌に優しく冷やし茶漬けにしましょう
 氷を入れるほど冷たくしなくても、常温で十分です
 ソシオ、良いことを思いつきましたね」
私はニッコリ笑って見せた。
「長瀞に料理で誉められた」
ソシオは嬉しそうに頬を染め、天ぷらを運んでいった先でモッチーにそのことを自慢していた。


その後も楽しい時間は続き、日が変わる頃お土産の天ぷらを手にソシオとモッチーは帰って行った。
帰り際にモッチーに
「ソシオに料理を教えてくれて、ありがとうございます
 すごく喜んでました」
そう声をかけられ
「また、おいでください
 化生のことを話せる職員は初めてなので、ゲンは貴方のことをとても気に入っていて一緒にいるのが楽しそうです」
私もそう返事を返す。
「ま、上司との飲み会だと緊張しちまうと思うがな
 仕事が終われば、化生の飼い主仲間だ」
ゲンがヒヒッと笑う。
「仕事場以外じゃ『アニキ』って呼ばせてもらいますよ」
モッチーもニヤニヤ笑って言葉を返していた。


片付け終わり軽くシャワーを浴びて自分に付いていた油の匂いを取ると、サッパリした気分になる。
先にシャワーを浴びたゲンがベッドで待っていてくれた。
私は彼の隣に潜り込む。
「今日は楽しかったな」
ゲンは優しく髪をなでてくれた。
「ソシオと親しく話す機会をもてました
 若い猫と過ごすと、刺激になりますね」
そう伝えるとゲンは吹き出した。
「そういや、年取った犬猫を1匹で飼うより、若い犬猫と一緒に飼った方が張り合って元気になるって聞くっけ
 ナガトは年取ったとは言いにくい外見だが、俺より上だもんな
 しっぽやでは皆の『お母さん』みたいな感じで頼られてるし、たまには若々しくはじけてみても良いんじゃないか?
 俺みたいにはじけっぱなしっつーのも何だけどさ」
笑いながら目元や頬に軽いキスをしてくれる彼に
「ゲンも、モッチーに刺激を受けましたか?
 楽しそうにバイクの話をしていましたね」
そう聞いてみる。
「若い頃はちょっと憧れてたよ
 俺は体型がこんなだし、マシンの制御出来る自信がなくてさ
 車の方が荷物運びには特化してるんで、バイクの免許取るのは諦めた
 さっき話してて、モッチーとタンデムくらいはしてみたいかな、って気になったよ」
ゲンは楽しそうに微笑んだ。
「そのときは、モッチーには安全運転を心がけて貰わなければ
 あの方、前科がありますからね」
もっともらしく言う私に
「今はソシオもいるし、あいつも無茶しないだろ
 俺にはナガトと言うラッキーキャットもいるしな」
ゲンはそう言って、優しく抱きしめて唇を合わせてきた。

「さて、飲み会後の極上デザートをいただこうか」
「存分にお召し上がりください」

私たちは何よりも熱く甘い時間に突入するのであった。


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