しっぽや5(go)

□新たな仲間に受ける刺激
3ページ/4ページ

「ソシオ、今日は締めに掻き揚げの出汁茶漬けを作りたいんです
 この鰹節、使わせて貰っても良いですか
 美味しい出汁がとれると思うので」
「うん、出汁の取り方俺にも教えて
 でも、俺に出来るかな…いつもメンツユとか顆粒の出汁の元とか使ってるんだ」
モジモジするソシオに私は頷いた。
「最近は私も手軽にやってますよ、強い味方がいるんです」
私は出汁用パックとハンドミルを取り出した。
ソシオが新たに削ってくれた鰹節と出汁用昆布をハンドミルで粉にして、パックに詰める。
鍋でお湯を沸かし出汁パックを入れ、5分ほど煮出した後に取り出した。
「もう、出来ましたよ」
私が言うと
「こんなんで良いの?」
ソシオは目を丸くする。
出汁を小皿に少しだけすくって
「味見してみてください」
そう言って差し出した。
小皿に口を付けたソシオは
「美味しい…、これなら俺にも出来るじゃん」
嬉しそうに瞳を輝かせていた。
「お茶漬け用は塩味がお勧めです」
私は出汁に塩を入れ味を確かめた。
「削りたての鰹節なので、風味がとても良いですね
 鰹節削り器、私も買ってみようかな
 ソシオ、良い物を教えてくれてありがとう」
お礼を伝える私に、ソシオは恥ずかしそうな笑顔を向けてくれた。

「では、天ぷら用の材料を用意しましょうか
 野菜に海鮮、色々用意しましたよ
 今回はゲン用に天ぷらで串揚げも作ってみます
 それと、ソシオ用に『受けねらい』と言うのでしょうか
 こちらを用意してみました」
私が取り出したものを見て
「これ、お餅?そうか、モッチーだ!
 それにこっちは、おまんじゅう?天ぷらになんか出来るの?」
ソシオはテンションが上がったようだった。
驚きで目を見張る彼に、私は喜んでもらえたという満足感を覚えた。
「お餅の天ぷらはうどん屋さんによく置いてあります
 飼い主の名前にひっかけて、ソシオが喜ぶかと思ったんです
 おまんじゅうの天ぷらは、ゲンと旅行に行った時に見かけました
 そのと時はわらび餅を先に食べてしまっていたので買わなかったのですが、お菓子の天ぷらなんて面白いなと思って頭に残っていたんですよ
 ソシオはあんこが好きだから、珍しがってくれると思いました」
説明する私をソシオはマジマジと見つめ
「長瀞って、案外お茶目なんだ」
何だか感心したように頷いていた。

「私のこと、何だと思っていたんですか」
苦笑しながら聞いてみると
「頭が良くて真面目で堅物っぽくて、あんまり融通がきかないのかなって
 だって有能で、いつもきちんとしてるからさ」
ソシオは頭をかきながら答えていた。
「私の飼い主はゲンですよ、飼われていれば影響は受けます
 柔軟な考えが出来るよう心がけています
 ソシオこそ、三峰様のお屋敷では取り澄ました感じだったじゃないですか」
「武衆のバカ犬に囲まれてればそう見えるし、飼い主がいなきゃ気分も浮き立たないよ」
私とソシオはそう言い合って、顔を見合わせ笑ってしまった。
「お茶目な飼い猫としては、飼い主が帰ってくる前に揚げまんじゅうをつまみ食いしてしまおうと思ってるんですが付き合いますか?」
「もちろん付き合うよ、揚げるとどんな味になるか興味あるもん」
私の誘いに、彼はいたずらっぽく瞳を輝かせていた。

「他にも揚げられるあんこってあるかな」
「中華のゴマ団子が美味しいですよね」
「それ前にファミレスでモッチーが頼んでくれたやつだ
 ゴマが付いたモチモチの皮にゴマのあんこが入ってて、美味しかった
 モッチーね、いつも俺の好きそうなもの探してくれるの
 本当にモッチーって最高の飼い主なんだよ」
ソシオは私の回答に満足したようで飼い主自慢をし始めた。
「あれ、自分で作れる?俺が作って見せたら、モッチーに誉められるかも」
彼は少し上目遣いで聞いてくる。
「後で、クッキングパッド先生で調べてみましょう
 先生には本当にお世話になってますよ、お手軽時短レシピを沢山教えていただきました
 ソシオにも作れるものが色々検索できると思います」
「マジ?後で使い方教えて!」


飼い主が帰ってくるまでの時間、私とソシオは揚げまんじゅうを食べつつクッキングパッドでレシピの検索をした。
飼い主が喜ぶかもしれないと思いながら新たな知識を覚えるのは嬉しいことだった。
事務所ではお互いのことをあまり話したことがなかったソシオと親しく話せて、楽しい時を過ごす事が出来た。
私も彼も相手に対して抱いていた『こんな猫なのかな』と言う印象は、意味のないものになる。
猫は個人主義であるが化生と言う特殊な身、やはり周りにいる仲間とは仲良くしたいと改めて思った。

語らいながら私とソシオが身に染みて得た1番の知識は『熱したあんこは冷めにくい』と言うことだ。
猫舌の私たちにとって揚げたての揚げまんじゅうは美味しい凶器のようで、同じ熱々攻撃を受けた猫同士、いっそう仲が深まった気がするのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ