しっぽや5(go)

□新たな仲間に受ける刺激
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side<NAGATORO>

「ゲン、お帰りなさい」
チャイムが鳴る前から愛しい飼い主の気配が分かり、私はゲンが玄関ドアの前に立った瞬間扉を開けた。
「ただいま」
最初の頃こそ驚いていたけれど、今では私の出迎えにすっかり慣れた飼い主はニッコリ笑って答えてくれる。
「遅くなってごめんな、ちょっとモッチーと話し込んじゃってさ
 チャラく見えるが、あいつ、真面目で面白い奴だ
 流石、化生のお眼鏡にかなっただけのことはあるぜ
 まあ、それは俺もだけど」
ゲンは得意そうな顔になり、私にそっとキスをしてくれた。

「お腹が空いたでしょう、すぐご飯の用意をしますね
 それとも、まずはビールにしますか」
一緒にリビングに移動しながら聞くと
「今日は酒はいいかな、腹減ってるからメシにしよう
 俺のこと待ってたから、ナガトも腹減ってるだろ?
 先に食べてても良かったのに
 食器の後片づけとか、自分でやるからさ」
ゲンは申し訳なさそうな顔でそう言ってきた。
「ゲンと一緒に食べたいので、待っているのは苦ではないですよ」
私の言葉で益々申し訳なさそうな顔になるゲンに
「最近、しっぽやのお茶の時間が豪華なんです
 日野様の意向でタケぽんがスーパーのおつとめ品を沢山買ってくるし、ひろせがコーヒーに合うお菓子の試作を山程持ってきてくれたので
 つい食べ過ぎてしまい、帰ってきたときはまだお腹が重くて」
少し笑ってそう種明かしをする。
「モッチーというコーヒー要員が加入したし、やっぱり、しっぽやは喫茶店が向いてるな」
ゲンは楽しそうに笑っていた。


おかずや汁物を温め直し、茶碗にご飯をよそい2人の楽しい食事が始まった。
「ゲン、お腹が空いていてもよく噛んで食べてくださいね」
私は食事のたびに言ってしまう言葉を、また繰り返していた。
消化の良いものを作ってはいるものの、ゲンは胃を切除しているのでどうしても心配になってしまう。
飼われた当初は口やかましいと嫌がられるかもと、ビクビクして言葉を発していたけれどゲンはいつも笑って頷いてくれた。
『ナガトに心配してもらえるの、嬉しいんだ
 俺のこと心配してるときのナガトの顔、凄い可愛いし』
私の方こそ、ゲンにそう言ってもらえることがとても嬉しかった。

「モッチーの歓迎会はちょい先だけど、家に招いて食事会と言う名の飲み会をしたいんだが良いかな
 どうせ話し込むなら家の方が落ち着けると思ってさ」
ゲンが伺うように私の顔を見た。
自分の部屋なのだから私に断らず誰を招いても良いのに、ゲンはいつも私の意見を聞こうとしてくれる。
「もちろんかまいませんよ、ソシオも一緒ですか?
 天ぷらを作ってみたいと言っていたので、一緒に揚げ物をしてみるのも良さそうですね
 この前の健診の時、一緒に行ったふかやに天ぷらパーティーの事を聞いたらしく興味を持ったようです」
「天ぷらパーティーって…胃がもたれそうな凄いパーティーだな」
ゲンは驚いた顔で私を見ていた。

「最初はナリの引っ越し祝いで引っ越しソバに入れる天ぷらを作っていたそうですが、飼い主の好みの食材を買っていくうちに凄い量になってしまったとか
 さすがに一気に食べきれず、2日続けて開催されたんですって
 ナリとウラとカズハ、若い飼い主なので出来たのでしょうね」
「あー、俺や桜ちゃんや月さんだったら1日でギブだ
 だが日野少年がいたら、1日で食いきってたかもな
 若い奴らのおこぼれに預かって、オジサンも色々ちょっとずつ食えるからパーティーは助かるんだよな」
朗らかに笑うゲンに、私も笑顔を返す。
「ゲンに色々なものを食べてもらえるので、集まりがあるのは本当にありがたいです
 天ぷらも、以前に白久が言っていた串揚げにすれば色々な素材を少しずつ食べられますね
 ソシオが喜びそうなものも揚げてみましょう
 大量に揚げてしまっても、お土産でお持たせすれば良いですしね
 ゲンは何かリクエストがありますか?お好きなものを何でも揚げますよ」
「飲んだ後の締めは、掻き揚げ茶漬けが良いな
 ナガトのあの掻き揚げは絶品だから、モッチーにも食わせてやりたいんだ」
ゲンはすぐに答えてくれた。
「長ネギとジャコの掻き揚げですね」
ゲンの食の好みなら何でも知っている私も即答する。
「あれは居酒屋ながとろの看板メニューに相応しいもんな
 ソシオにも作り方を伝授してやりな」
飼い主からの嬉しい命令に
「はい、ゲンの好きな味を広めていきます」
私は誇らかに頷いた。

「しっぽやの食の大物みたいだな、俺」
ゲンはクククッと笑った後
「俺の1番好きなもの、なーんだ」
いたずらっ子のように聞いてきた。
「もちろん、私です」
私もいたずらっぽく答えを返す。

「正解、今夜のデザートも楽しみにしてるぜ」
「いただかれるのを、楽しみにしています」

私たちは夕飯を食べながら、その後の甘い時間に想いを馳せるのであった。
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