しっぽや5(go)

□新たな仲間に教える未来
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「ソシオと羽生、2人でこんなにツマミを作ってくれたのか?
 凄いな、ありがとう
 どれも美味しいよ」
ソシオの飼い主のモッチーは美味しそうに俺達の作った物を食べてくれた。
「これね、ほとんどスーパーのお総菜なんだよ
 凄く簡単、俺でも作れたんだ
 しっぽやの仕事の後でも、これなら直ぐ出せる」
ソシオは嬉しそうに飼い主に報告している。
「総菜って言っても、一手間かけて貰えばご馳走だ
 俺1人の時は缶詰開けて、そのまま直食いしたりしたもんな
 友達とか来てるときは、皿に移し替えたけどよ
 ソシオが来てくれたときも、ちょっと気張ってたんだ」
モッチーが恥ずかしそうに笑っていた。
「わかる、俺も1人暮らしだったときはインスタントラーメン作って鍋から直食いしてたな
 ホカ弁が主食で、羽生と暮らすまでけっこーズボラだったよ」
サトシも照れたように頭をかいていた。

「羽生と暮らすようになってから、かなり健康的な食生活になった
 長瀞に教えてもらったり、自分で考えたり、本当に羽生は凄いよ
 猫飼い初心者の俺には、とても頼りになる猫だ」
サトシに優しく頭を撫でられて、俺の胸の中は誇らしさと幸せでいっぱいになっていく。
「本当は、長瀞みたいにちゃんとサトシの健康を守りたい
 健康って大事なことなんだ
 サトシが健康でいられるよう、俺、もっと勉強するよ」
そう言う俺を、サトシは愛おしそうにみつめてくれた。
「羽生は猫だったとき体が弱かったから、『健康』というものの有り難みを知っているんだ
 俺の方が猫のことをよく知らず、きちんと世話をしてあげられなかったのに…
 今度こそ、羽生には楽しい生を謳歌して欲しい」
「俺、サトシと暮らせるの楽しくて幸せ
 ずっと、サトシと一緒にいられたらなって思ってたから」
俺達の言葉を聞いたモッチーが不思議そうな顔になる。
「え?もしかして、猫だったときの羽生を飼ってたのって中川先生なんスか?
 でもこいつら、割と悲惨な最期を迎えないと化生しないんじゃ」
混乱しかけているモッチーに、サトシが俺達の過去を話して聞かせていた。

「どうも俺達は、レアケース中のレアケースらしい」
そう締めくくるサトシの言葉を、モッチーは目を見開いて聞いていた。
「マジか…そんなことってあるんだ」
驚きの息を吐くモッチーにソシオが張り付いて
「でも、俺達だって絆で結ばれてるよ
 俺、モッチーが事故にあったとき探せたもん」
対抗意識を燃やすようにそう言った。
今度はモッチーがサトシに事故の顛末を話して聞かせていた。

「それじゃあ、ソシオはモッチーの命の恩人みたいなものだ
 話には聞いていたが、雄の三毛猫のラッキーパワーって凄いんだな」
感心するようなサトシの言葉に俺はちょっと嫉妬してしまう。
サトシの腕にギュッとしがみつくと
「でも、羽生もちゃんと俺のこと見つけてくれたもんな
 学校で抱きつかれたときはビックリしたが、探してくれていたと知ってとても嬉しかったよ
 あんなに小さな子猫だったのに、大したものだ」
そう言って頬にキスをしてくれた。
「中川先生、猫飼い初心者なんてとんでもない
 もう立派なベテラン猫飼いですよ」
モッチーは腕にソシオを抱きながら、俺達を見て親指を立てた拳を突き出してきた。
「子供の頃からのプロの猫飼いにそう言ってもらえると、自信がつくな」
サトシも笑って親指を立てて拳を握ってみせた。

「化生の猫飼いが増えるのは嬉しいよ
 武川の場合はちょっと特殊な感じだし、ゲンさんとこも完璧すぎてさ
 皆良い人で一緒に居ると楽しいが、気軽に相談できそうな仲間も欲しかったんだ
 犬飼いとはまた、何というか色々違うだろ」
サトシが親しい感じで言うと
「それ分かる、学生君とかゲン店長んとこには聞きにくいと言うか
 ナリ見てても思うけど、犬飼いとは何か違うなって
 相談出来る相手がいると助かるぜ」
モッチーも大きく頷いていた。
俺とソシオは目を合わせ、ニッコリする。
それはお互いの飼い主が親しくなってくれた、満足感からの笑みだった。


その後も楽しい食事は続く。
飼い主たちは学生の頃に同じスポーツをしていたことで、さらに盛り上がって親しくなっていった。
サトシとソシオはモッチーが持ってきたウイスキーをミネラルウォーターで割って飲んでいたが、俺には美味しく感じなかった。
でもモッチーがミルクセーキを作ってくれて、それに少しだけウイスキーを垂らすと美味しいことが判明する。
おかげでサトシと同じものが飲めて満足出来た。
宴の〆にしてメインでもある『肉じゃが丼』はとても美味しく出来ていて、ジャガイモというボリュームある素材が入っているにも関わらずサトシもモッチーもお代わりしてくれた。


「今日は本当にありがとう、楽しかった
 また何か教えてよ、俺も総菜アレンジメニュー考えてみる」
帰り際、ソシオに笑顔を向けられ
「また一緒に作ろう、1人より2人で考えればアイデア2倍だもの」
俺も笑顔を返す。
俺達は約束を交わし、大満足の宴は終わりを告げるのだった。
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