しっぽや5(go)

□新たな仲間に教える未来
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料理会の日、俺とソシオは早めに上がらせてもらい、買い物をしてから部屋に帰った。
「へー、羽生のとこって部屋数あるんだなー
 ナリのとこみたい」
ソシオはキョロキョロと室内を見回している。
「化生の学校も兼ねてるから教室用の部屋とか、生徒の化生が泊まれる部屋があるんだ
 このところサトシが忙しくて授業できてないけど
 陸と海はここで平仮名と片仮名、簡単な計算をマスターしたんだよ
 波久礼もずいぶん漢字が読めるようになったって喜んでた」
俺は少し胸を張ってそう言った。
飼い主が化生のことを考えてくれるのは、俺達にとっては誇らかで嬉しいことなのだ。

「読み書きって、俺もちゃんと習った方が良いのかな
 そうすれば、もっとモッチーの役に立てるかも
 今日は羽生に料理を教えてもらうのが先だけどさ」
考え込むソシオに
「飼い主が居るなら、飼い主に教えてもらった方が覚えが早いってサトシが言ってた
 俺もサトシの役に立ちたくて、読み書き計算を頑張ったもの
 サトシがガラケーからスマホに機種変したときも、2人で使い方を試行錯誤したんだ
 サトシとする勉強、楽しかった」
俺は少し以前の自分達を懐かしく思い出しながら答えた。
「わかる、俺もモッチーに色々教えてもらうの楽しいもん
 でも、コーヒーはモッチーが淹れた方が断然美味しいんだ
 『本格的』って難しい」
「俺の教える料理は手軽なのが多いから、ソシオも覚えられるよ」
俺達は笑いあいながらキッチンに移動した。


肉じゃがを煮込んでいる間に、出来合い総菜アレンジメニューを作っていく。
「メンチカツやコロッケにトマトケチャップぬって、スライスチーズのせてレンジでチン
 食パンにキンピラのせてスライスチーズのせてトースターでチン
 チーズって最強素材なんだ!
 後、中華クラゲとか黄金イカとか珍味はキュウリを混ぜるだけで立派な1品料理になるよ
 ちくわの穴に入れても良いし、塩昆布で和えても良いし、キュウリも最強かも」
「凄い、これなら俺でもすぐ作れそう」
俺が作る簡単メニューをソシオは感心した顔で見ていた。

「今日は飼い主さんも来れるんでしょ?
 サトシ、どんな人だろうって楽しみにしてるよ
 大人だから酒飲める?ビール買っといたんだ」
「うん、後からお邪魔するって言ってた
 歓迎会で一気に化生と飼い主覚えるの大変だからって、少しずつ皆に会ってる最中でさ
 会った飼い主とは仲良くなってるよ
 あ、モッチーってビールも飲むけどウイスキー党だから手土産に持ってくって
 中川先生、ウイスキー飲める?」
「缶のハイボールって言うの飲んでたことあるよ
 じゃあ、肉じゃが丼は飲んだ後の〆にしよう
 飲んだ後は汁気のあるものが美味しいってサトシ言ってたから」
俺達はサトシが帰ってくるまで楽しく料理を作っていった。


帰ってきたサトシはソシオを見て
「初めまして、本当に三毛猫なんだね
 この前の歓迎会の時、荒木と武川に雄の三毛猫について教わったよ
 子供の時から猫に接している子は詳しくて、教師の俺の方が勉強させてもらったみたいだったな」
そう言って爽やかに笑っていた。
「今日はお客様に敬意を表して三毛猫イメージコーデにしてみたが、やっぱり髪が三色の方が三毛猫らしいね」
サトシは以前のハロウィンパーティーの時の服装をしていた。
「初めまして、モッチーに連絡して良い?
 もう帰ってきてるんだけど、初めてのお宅に家主より先にお邪魔してるのは悪いって部屋で待ってるんだ」
「律儀な飼い主さんだ、どうぞ連絡してください」
サトシの許可をもらい、ソシオはスマホを取り出して連絡をする。
10分とたたずチャイムが鳴って、ソシオの飼い主が訪れてきた。


「初めまして、ソシオの飼い主の持田 保夫(もちだ やすお)です
 モッチーと呼んでください」
サトシより大きくて黒ずくめの服を着た飼い主が、少し緊張した感じで頭を下げている。
「初めまして、羽生の飼い主の中川 智(なかがわ さとし)です
 俺のことは『中川先生』が皆の中で一番しっくりくる呼び名みたいなんで、よければそう呼んでください」
サトシはにこやかに応答し、座るように促した。
「お近づきに、どうぞ」
「すいません、お気を使わずに」
飼い主たちはそう言って荷物のやりとりをしている。
俺とソシオはこんなとき何をすればいいのかわからず、儀式が終わるのを待っていた。

「さて、堅苦しいのはここまでにして飲もう
 モッチーはウイスキー党なんだって?
 後からさっき頂いたウイスキーを開けることにして」
「取りあえず、ビールっすね」
2人は息があったように頷きあっている。
その親しげな空気に俺とソシオのテンションは上がっていった。
「じゃあ、オツマミ用意するね」
「色々作ったんだよ、食べて」
そう言うと、俺達は争うようにテーブルに料理を並べ出だした。
あっという間に沢山の皿が並んだテーブルを囲み、飼い主はビール、猫はミルクで乾杯する。
楽しい食事が始まった。
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