しっぽや5(go)

□新たな仲間に教える未来
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side<HANYUU>

しっぽや業務開始直前の掃除の時間に
「おっはよー、羽生!」
飼い主が決まり正式所員になったソシオが俺に声をかけて近付いてきた。
臨時所員だったときはこんなにテンションが高くなかったけれど、今のソシオは溌剌(はつらつ)として見える。
『飼い主に愛されている』と言うだけで気分が高まってしまうのは俺も一緒なので、その変化は嬉しいことに感じられた。

「こないだ教えてもらったゴロゴロ野菜のカレー、モッチーに作ったら大好評だったんだ
 ありがと、また何かあったら教えてよ」
期待に満ちた瞳で見られ、俺は満更でもない気になっていた。
化生したのはソシオの方が早かったけど、飼い主が出来たのは俺の方が先だ。
ここは飼い猫の先輩として良いところを見せたかった。
「肉じゃがはおかずの王道だって、サトシが言ってたよ
 肉のバージョン変えて、よく作るんだ
 挽き肉で作ってご飯にかける『肉じゃが丼』が最近のサトシのお気に入り」
俺は得意げに胸を反らして教えてやった。
「挽き肉だと食べにくそうだけど」
「だから丼にして、レンゲでご飯と一緒にすくって食べるの
 汁が滲みたご飯、サトシ好きなんだよね」
「なるほどなー」
素直に頷くソシオに、俺は益々得意な気持ちになる。

「長瀞みたいに残り物でアレンジとか作れないけど、スーパーの出来合い総菜のアレンジは勉強してるんだ
 唐揚げとか焼き鳥で親子丼作ると、簡単で美味しいよ
 タマネギじゃなく貝割れ大根とか使えば、時短で作れるしね」
ソシオは真剣な顔で頷いて、熱心に俺の話を聞いてくれた。

「羽生とは、三峰様のお屋敷にいたときは会ったこと無かったな
 お前、化生したての頃に波久礼のこと見て腰抜かしたらしいじゃん
 それで三峰様がお前のこと特別室に隔離してたもんな
 俺、あの部屋使われてるの見たの初めてだったから、驚いた
 だからこっちに来てお前が生き生きしてるの見て、嬉しかった」
ソシオは親しげな笑みを向けてくれる。
「化生したての頃は何が何だかわからなかったし、記憶も曖昧だったの
 俺、外の世界をほとんど知らずに死んじゃって化生してから初めて犬を見たけど、武衆の犬達は大きくて怖かった
 しっぽやに来て犬って色々いるんだな、って勉強したから今は平気」
俺は少し照れながらそう伝える。
「そっか、羽生は子猫の時に死んだのか
 モンブランに見つけてもらえなければ、俺もきっと子猫の時に死んでた
 犬に助けてもらったから、俺、犬は好きなんだ
 でも、武衆の犬達は暑苦しいし押しが強くてさー
 羽生が怯えたのも無理ないって」
ソシオは肩を竦めてみせた。

「ここは紳士的な犬が多いから、大丈夫だよ
 さて、そろそろ扉のプレートをオープンにするけど、用意は良いかい?」
所長の黒谷が俺達に近付いて聞いてきた。
「もう大丈夫、羽生、控え室行こう
 今日は白久が休みで布団が無いけど、依頼来るまでうとうとするか」
「そっか残念、安定感のある白久が1番布団具合が良いんだよね
 双子や長瀞イチオシだもん
 しかたないから、猫団子作ろう」
控え室に向かう俺達の後ろで
「君達、そんなに本格的にシロのことを布団扱いしてたんだ…」
黒谷が呆然と呟いていた。


業務開始後、俺達猫はソファーでお互いの体に寄りかかりって、うとうとする。
半分寝ているような状態でいても依頼を受ける黒谷の声を認識し、自分に適している捜索をこなしていた。
1時近くなると、手の空いている者達が各々ランチを取り始める。
俺も冷蔵庫からお弁当を取り出して、レンジで温め始めた。
食べ始める直前に控え室の扉が開き、ソシオが入ってきた。
「依頼完了、俺もランチにしよっと、報告書は後で良いや
 帰りがけに牛丼買ってきたんだ、モッチーにも渡してきた」
ソシオは俺を見て悪戯っぽく笑ってみせた。
ソシオの飼い主はゲンちゃんの不動産屋で働いているため、タイミングが合えば一緒に外に食べに行ったり、出来立てのお弁当を買ってきて渡すことが出来るのだ。
俺にはそれが少し羨ましかった。

「羽生も今からランチ?一緒に食べよう」
ソシオの誘いにのって俺達はランチを食べ始めた。
「羽生って、マメに弁当作ってきてるよね、偉いなー」
「毎日サトシに作ってるから、ついでにね
 出来合い総菜使って楽してる日も多いよ、今日だって昨日の炊き込みご飯オニギリとスーパーの中華プレートの中身だし
 野菜は冷凍をチンしたの」
照れ笑いを浮かべる俺に
「凄く美味しそうだよ、今度羽生に料理習いに行って良い?
 さっき言ってた肉じゃがも教えて」
ソシオは真剣な顔で頼み込んできた。
「俺より長瀞の方が料理上手いよ」
俺は慌ててしまうが
「いきなり長瀞だと、ハードル高い気がするんだ」
ソシオはモジモジと答えた。
「俺だと同じくらいのレベルってこと?」
しかつめらしい顔で言ってみるものの、長瀞よりも俺を選んでもらえたことが嬉しかった。

「じゃあ、今度2人で早く上がらせてもらって一緒に作ってみよう」
こうして、俺とソシオの料理勉強会が予定された。
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