しっぽや5(go)

□新たな仲間に習う未来
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「へえ、飼い主さんのバイク、黒なんだ
 ナリのは青にポイントで赤が入ってたっけ」
俺はソシオの飼い主のバイクに興味がわいてきた。
「うん、ふかやには内緒だけど、ナリのバイクより格好良いの
 モッチーが自分でカスタマイズ?ってゆーの色々したし、お店では売ってないんだよ
 直すのも大変だから時間かかるって言われてたけど、お友達が頼み込んでくれたんだって」
ソシオは自分のことのように誇らしげに語ってみせた。

「日野も、モッチーのバイク見てみたい?」
ソシオに聞かれ
「俺も最近、バイクの免許欲しいな、って思ってたから興味あるよ
 そのうち、見せてもらいに行くね」
俺は素直にそう答えた。
「それならば、今からソシオと一緒に行って見せて貰うと良いのでは?
 日野も今日はもう上がってください
 報告書の入力、僕も出来るようにならないと
 日野が居ると甘えて頼ってしまうから、今日は一人で頑張ってみます
 よろしければバイクを見た後、部屋で待っていてください
 夕飯を買って帰りますよ
 飼い主が待っている部屋に帰る、と言う体験をさせてください」
黒谷が嬉しそうに微笑んでいるので、ありがたくその提案にのることにさせてもらった。

黒谷に仕事の引継を済ませると、俺はソシオと共にしっぽやを後にするのだった。


移動中、ソシオは飼い主に電話をかけて、これから帰る旨を伝えていた。
「モッチーの格好良いバイクを是非見てみたいって言ってるから、日野も一緒で良い?
 そう、高校生…大学生?の、タケぽんの先輩
 うん、うん、わかった、直に駐車場に行くね」
ちょっとオーバーなソシオの言い方だったけど、飼い主は了承してくれたようだ。
「もう届いてるみたい、モッチーと一緒にお出迎えしたかったけど、しょうがないや
 今、マンションの駐車場に居るからそこで合流しようって」
その言葉に従って、俺達はエントランスには向かわず駐車場に足を向けた。

「モッチー!」
ソシオが手を振って駆け出すと、バイクの側にいた人物が顔を上げる。
背が高く黒い服を着た彼は、大麻生や黒谷のようなワイルド系の人だった。
長めの髪を後ろで結んでいるのはカズハさんと一緒なのに、わざと乱しているため受ける印象がまるで違っていた。

見覚えのあるナリのバイクの隣に、ごつい黒のバイクが停まっている。
シャープな印象のナリのバイクより、それは『格好良い』と言う言葉が似合う重厚な印象を受けるバイクだ。
彼は駆け寄ってきたソシオを抱きとめ
「お帰り、仕事お疲れさま」
優しく撫でていた。
それから俺の方を向いて
「初めまして、ソシオの飼い主の持田 保夫(もちだ やすお)です
 モッチーで良いよ
 荒木もタケぽんもそう呼んでくれるから」
礼儀正しく頭を下げると、気さくな感じでそう言ってくれた。

「初めまして、黒谷の飼い主の寄居 日野(よりい ひの)です
 俺のことは日野でいいですよ
 バイク、見せてもらって良いですか」
俺も挨拶を返し2人に近寄っていく。
「どうぞ、新品みたいになって帰ってきたんだ見てやってくれ
 あそこの修理屋の腕、一級だぜ
 ソシオのとこの偉い人が修理費出してくれたんだろ?
 ありがとう助かったよ、かなり請求されたから」
「三峰様は今までの俺の給料を考えたら、入院費と合わせてもまだお釣りが出るって言ってたよ?」
不思議そうな顔のソシオに
「それはソシオの給料なんだから、俺のために使わずソシオが好きなように使って良いお金なんだぜ」
モッチーは苦笑をみせる。
化生の富に甘えず彼らの幸せを願う、そんな姿勢を見たような気がして俺は彼に好感を覚えた。
「モッチーのために使うお金は、俺の好きに使ってるんだよ
 それ以外の使い道って、思いつかないもん」
首を傾げるソシオを『そうか』と良いながらモッチーは優しく撫でていた。

よくよくバイクを見せてもらったが、傷や凹み等はなくきれいに磨かれていて新品みたいだった。
「これ、事故ったときに乗ってたんですよね
 かなりメチャクチャになったって聞いたんですけど」
「俺もあの時は意識が朦朧としてて、破損状況よく覚えてないんだ
 後から見積もり届いて真っ青になったぜ
 よく助かったな、とも思った
 ソシオのおかげだ」
モッチーに誉められて、ソシオは嬉しそうに笑っていた。
「あの山、夜は怖かったから…
 モッチーが連れて行かれなくて良かった」
愛しそうに飼い主を見るソシオの言葉が引っかかった。
「山が怖い?」
「うん、あそこ、昼の顔と夜の顔が全然違うんだ
 山は大抵そうなのかも、三峰様の山はお屋敷を中心に浄化されてたから山の脅威を忘れてた」

「運転ミスって転倒したんじゃ…?」
俺はつい、失礼なことを言ってしまう。
「ああ、飛び出してきたウサギを除け損ねて…」
そんなモッチーの言葉を遮り
「本当に、ウサギだった?」
ソシオは冷静な声で言う。
モッチーは口をパクパクさせていたが
「咄嗟のことだったから…」
自信なく俯いていた。
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