しっぽや5(go)

□新たな仲間に貰う未来
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「美味しかったー、もうお腹一杯
 このクッキーとかパウンドケーキも美味しそうなんだけどな
 モッチーのコーヒーに合いそうだし」
ソシオが名残惜しそうな顔で、テーブルの上のお菓子を見つめていた。
最初に『あんことクリームのケーキ』なんて重い物を2個も食べたので、満腹になるのが速まってしまったようだ。
「お土産に包みますよ、そう思って沢山用意しておいたんです
 焼き菓子なら日持ちもするので、部屋で2人で食べてください」
ひろせは焼き菓子をラップでくるんだり、ジップロックに詰めたりし始めた。

「やったー!ありがと、ひろせ
 モッチー、明日のコーヒータイムはひろせのお菓子で豪勢になるよ」
笑顔のソシオに
「ありがたいな、荷物整理の合間の休憩が楽しみだ
 早めに片付け終えて、前倒しでゲン店長のとこに顔出ししてみるか」
モッチーも笑顔を向ける。
「ゲンちゃんとはもう会ってるの?」
わざわざゲンちゃんのことを『店長』と呼んでいるのが気になり、俺はそう聞いてみた。
「ああ、ゲン店長の店で働かせてもらえることになったんだ
 不動産関係の仕事は初めてだから、最初は勉強漬けだな
 コネ入社だけど、そう言われないよう頑張るぜ」
「そっか、来月からマミさんが本店勤務になるって言ってたっけ
 その後釜って、モッチーなんだ」
俺はやっと合点がいった。

「前の仕事は派遣切りにあって、次はどうしようかと思ってたからタイミング良くて助かったよ
 ソシオと居ると良いこと尽くめだ、物事がスムーズに進む
 流石、縁起の良い猫だな」
モッチーに誉められて撫でられたソシオは、幸せそうな顔で彼に寄り添っていた。
「雄の三毛猫、貴重ですもんね
 初めて会ったときはビックリして、テンション上がっちゃった
 でも俺にとっては、ひろせの方が貴重で大事な存在ですけど」
俺も、モッチーに負けないくらい優しくひろせの長い髪を撫でる。
俺に撫でられ幸せそうに頬を染めて微笑むひろせは、どんな存在よりも美しかった。

「ゲン店長も長瀞さんにメロメロだし、しっぽやって猫バカ多そうだな」
俺達を見ながらモッチーはニヤニヤ笑っていた。
「犬バカもいますよ、先輩達は犬バカです
 1人、犬と言うよりハスキーマニアがいるけど
 トリマーさんだから、ソシオの髪を切ってもらいたかったら頼むと良いですよ
 うちはこの前、ひろせの毛先をそろえてもらったんです
 ナリもふかやのカットをお願いしてる、って言ってました」
「しっぽやって、本当に色んな人がいるんだ
 俺も何か皆の役に立てると良いんだが」
モッチーは首を捻って考え込んでしまう。
「免許持ってるんなら、時間があるときにでも皆の足になってくれれば助かります」
「何だ、そんなことならお安いご用だよ
 ソシオが遠方の依頼を受けたときとか、タンデムで現場まで乗せていけるぜ
 そうか、ふかやは足がなかったから、あの時は大変だったんだな
 電車だと、こっからナリの家までかなりかかる
 ってことは、ひろせもダービーの依頼受けてくれたとき、移動が大変だったろう
 ダービーを見つけてくれて、本当にありがとう」
「でも、あの時はお昼ご飯もご馳走になったし、服もいただけたし
 ダービーさんとお話しできたのも楽しかったです」
モッチーに改めて頭を下げられて、ひろせは恐縮していた。

「そういや、実家にもけっこう服を置いてきたっけ
 最近『邪魔だから片付けろ』ってお袋がうるさくて
 ソシオの顔出しに実家に行ったときにでも、また持ってくるよ
 学生の頃買ったのが多いから、実家に置いてある服の方が若向きかな
 タケぽんが気に入ったのがあれば、貰ってやってくれ
 交換で、ソシオにあんこのケーキを作ってくれると嬉しいな
 あ、ケーキ作るのはひろせか」
「タケシに服をいただけるのなら、僕がケーキを作ります
 材料を買ってくれるのはタケシなので、ちゃんと交換になってますよ
 僕はケーキを作る交換に、一杯撫でてもらえたら嬉しいです」
ひろせは俺に期待するような視線を投げてきた。
「もちろんだよ、交換条件無くっても、いつだってひろせのこと撫でたいよ」
俺は早速ひろせの頭を撫でてやる。

「何か、俺だけ何にもしてない感じ…
 じゃあ、俺はひろせの代わりにラブラドールの依頼を受けるね」
ソシオが言うと
「ラブの依頼は僕も受けたいから、独り占めはダメですよ」
ひろせが少し焦ったように言った。
「ソシオは幸せだけを満喫していれば良さそうだぞ
 ソシオの招き猫効果で、しっぽやは商売繁盛だ
 事務所でひろせのケーキを食べながら、お茶を飲んでれば良いさ」
モッチーに言われて
「どうせなら、モッチーに淹れてもらったコーヒーをマイボトルに詰めて控え室でコーヒーブレイクしたいな」
ソシオは期待するように飼い主を見る。
「ソシオの為なら、朝からコーヒー淹れるよ」
その回答にソシオは満足げな顔になった。
「ひろせにも、分けてあげる
 コーヒーにあうお菓子も作って欲しいから、味見してよ
 モッチーのは豆から挽いた本格コーヒーなんだ」
「それは楽しみです」

それからも俺達は、幸せな未来を楽しく語り合うのであった。
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