しっぽや5(go)

□新たな仲間に貰う未来
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「タケぽんは高校生なんだってな
 そんだけ背が高いって事は、何かスポーツやってんのか?
 俺はお定まりのバスケやってたんだ
 バイクの方が楽しくなって、大学入った時にはやめちまったけど」
モッチーに聞かれ
「あー、俺、運動音痴なんです」
俺は頭をかいた。
「しっぽやの陸上部の先輩にちょっと誘われたけど、100メートル走のタイム教えたら2度と声をかけてきませんでした」
それどころか、他の部員にまで俺の運動音痴のことを吹聴して回ってくれたので、あまり激しい勧誘にはあわなかった。
(が、何だか釈然としない気分は残った…)


「しっぽやって、他にも高校生がいるのか
 まだ他の飼い主に会ってなくてな
 俺が知ってるのはナリとゲン店長と、タケぽんくらいだ」
「怪我で歓迎会に参加しそびれたんですもんね
 モッチーなら、すぐ皆と打ち解けられますよ
 そうだ、今はまだ高校生だけど2人の先輩は春から大学生なんです
 彼らに会ったとき、身長のこと突っ込んじゃダメですよ
 2人とも背が低いことメチャクチャ気にしてるから
 一緒に買い物行ったとき、俺が大学生、先輩たちが小学生に間違えられて、その後地獄だったんですから」
あの時は俺の財布が一気に極寒地獄になったのだ。
「背が低いくらいで小学生って、オーバーだな」
モッチーは冗談だと思って笑っているが、あの2人の童顔を見て下手なことを言い出す前に注意喚起をしておくのは、しっぽやの先輩としての俺の勤めだと思っていた。


「タケシ、かるかんケーキ切りますよ」
ひろせに声をかけられ
「じゃあ、緑茶淹れようか」
俺は立ち上がる。
「かるかん?和菓子の?あれって自分で作れるのか」
モッチーはかるかんのことを知っているようで、感心した顔をしていた。
「猫バカには受ける名前だよな」
「俺も初めて聞いたときはビックリしました」
そんな俺達をソシオは不思議そうな瞳で見つめていた。
「かるかん?」
「ああ、ソシオは鰹節ご飯が主食だったから知らないか
 獣医師から貰ってたフードは、ロイヤリティカナンだったし
 カルカンって名前の有名なキャットフードがあるんだよ
 実家のダービーも食べてるな」
モッチーはソシオの髪を優しく撫でてやっている。
「家の銀次も食べてます
 でもそればっかだと食べなくなってくるから、モンプッチとかキャラッティとか色々ローテしてますけど」
「うちもだぜ、同じの続くと食わなくなるんだよ
 次々色んな物あげるから悪い、って分かっててもやっぱなー」
俺達はかるかんを食べながら、猫バカ談義に花を咲かせていた。

モッチーが以前飼っていた(今は実家暮らし)猫は、ターキッシュバンと言う半長毛種だそうだ。
俺はチンチラシルバー飼いなので、話はより弾んでいた。
「それまでは拾った猫を保護してたから、ペットショップで猫を買うっての抵抗あったけどさ
 運命感じる事ってあるんだよな」
モッチーがしみじみと言うので
「俺も銀次とは運命感じました、前の猫の生まれ変わりなんだって
 シルバが死ぬ前に『また来る』って言ってたから」
俺もついそんなことを口走ってしまった。
「死ぬ前?」
好奇心アリアリの不思議そうな顔に負け
「あの…俺、子供の時、猫と話が出来たと言うか、そんな気がしてたと言うか」
俺はしどろもどろに猫と簡単な意志疎通が出来る事を話していた。
気味悪がられるかと思ったけど、モッチーは当たり前のように『そうか』と頷くだけだった。

「こーゆー事出来るの、変じゃないですか?」
恐る恐る聞いてみると
「何年ナリの親友やってると思ってんだよ
 むしろタケぽんは、ナリより能力低そうだけど」
モッチーはクツクツと笑ってみせた。
「あ、はい、ナリに比べたら俺なんかまだ全然です」
俺は苦笑してしまうが、この曖昧な能力を大人のモッチーにすんなり受け入れてもらえた事が嬉しかった。
「でも、ひろせとは深く想いを交わせます」
それだけは誇らかに宣言する。
「ごちそうさま
 まあ俺も、ソシオとはかなり通じ合えてんじゃないかと思うがな
 事故った俺を発見して助けてくれたのはソシオでさ
 よく場所がわかったもんだ」
モッチーに優しい視線を向けられて
「場所が分かってた訳じゃないけど、体が自然に動いてたんだ
 ナリが電話でアドバイスしてくれたから助けられたんだよ、俺だけだったらダメだった
 そう言えば大麻生や空や、その飼い主達も協力してくれたっけ
 今度、ちゃんとお礼しなきゃね」
ソシオはモッチーに微笑んでいた。

「しっぽやの関係者ってのは、ずいぶん居るんだな
 一度に覚えきれるかな」
モッチーは苦笑してみせた。
「大丈夫ですよ、そのうちゲンちゃん主催で花見兼モッチー歓迎会をやるって言ってたから
 その時に何度でも名前とか聞いて一致させれば良いんです
 それくらいでイヤな顔する人いませんって」
俺は頷いてみせる。
そして花見が歓迎会を兼ねるのは俺とひろせも同じだったな、と懐かしく去年のことを思い出すのであった。
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