しっぽや5(go)

□新たな仲間を真似る未来
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部屋の内線電話が鳴り、ゲンさんが呼ばれて店に顔を出しに行った。
俺も一緒にしっぽやに戻ろうか迷ったが、ゲンさんにデザインの最終チェックをしておいて欲しいと頼まれた。
俺はもう一度ファイルを取り出してモッチーに確認する。
「名刺で使う写真は三毛猫で、ここは魚の骨のイラスト
 社員証は三毛猫のイラストと花のイラスト
 三毛猫、ってやっぱりイメージはソシオ?
 髪だけ見ると、白が多くて茶と黒は少な目の毛色っぽいけど、そんな感じで選んで良いですか?」
「ああ、猫のソシオも白が多い毛色だったよ
 尻尾は短めで先がちょっと曲がってたっけ
 三毛猫の雄、本当にいるもんなんだな」
モッチーは感慨深げに言葉を口にした。
「俺も初めて見たときは興奮しました
 でも、猫のこと知らないと『何か珍しいのか?』って反応されて
 常識のギャップに驚くというか」
俺はソシオを見ても冷めた態度だった日野を思い出していた。

「そうだな、とても珍しい猫だ
 でも、ソシオにとって三毛猫の雄だった事は幸いではなかった
 あんなに貴重な存在なのに、それ故に不幸になって
 三毛猫じゃなければ、もっと前の飼い主と居られたかもしれなかったのにな」
モッチーは辛そうな顔になる。
『そうだ、この人も飼い猫の記憶の転写を見たんだ』
悲しみに満ちた彼らの過去は、飼い主にとっても悲しい出来事だった。
「三毛猫の雄の希少性を知っているってことは、荒木少年も猫飼い?」
「はい、飼ってる化生の白久は秋田犬だけど、リアルは猫飼いです
 生まれたときから猫と一緒だったんで、猫飼い歴そろそろ19年になりますよ
 前の猫が亡くなってから、2ヶ月くらいブランクあったけど」
俺はちょっと得意げに答えた。

「19年…俺より長いじゃん
 俺は16、7年だったかな
 俺もダービーの後、ソシオを飼うまでけっこーブランクあったっけ
 あ、ダービーって今は実家にいる猫だけど、元は俺の飼い猫だったんだ
 実家に預けたらお袋にベッタリになって引き離せなくなってさ」
「あー、猫の執着わかります!
 家の猫は親父にベッタリです、俺だって可愛がってるのに」
「いつも拾った猫ばっか飼ってたけど、ダービーはショップで見て運命感じて買ったんだよ
 ターキッシュバンって日本じゃ珍しい種類でな
 でも、ダービーの運命は俺じゃなくお袋に繋がってたんだ」
「ターキッシュバンって半長毛ですよね
 家のカシスもミックスだけど半長毛っぽいんです
 前の猫は短毛だったから、色々ビックリで」
「俺もダービーの前は短毛ばっかだったぜ
 半長毛とは言え、抜け毛の量とかハンパないよな」
お互い半長毛猫飼いだとわかり、俺たちは急速に親しくなっていった。

戻ってきたゲンさんが
「長毛猫飼い歴30年以上の俺を抜かして長毛猫談義とは、片腹痛いわ」
そう言って話に加わったのでその後は無法地帯となり、気が付くとここに来てから4時間近くが経過していた。


「ヤバい、さすがにもう戻らなきゃ
 白久が帰ってきてるかもしれない」
壁の時計を確認し、俺は慌てて立ち上がった。
「おおっと、もうこんな時間か
 マミちゃんだけで大丈夫だったって事は、今日はお客が少ないのかな
 引っ越しの駆け込みが来ると思ってたんだが
 モッチー君が来たら、忙しくなるかもな
 縁起の良い猫飼ってるし、招き猫と言えば『三毛猫』だ
 期待してるぜ」
ゲンさんに言われてモッチーは『どうなんスかね』と苦笑していた。
「荒木少年、お疲れさま
 名刺と社員証、来週までに頼んだぜ
 しかしせっかく捜索終えて帰ってきたのに、飼い主がいなかったら白久はガッカリだな
 今夜は夕飯一緒に食べてってやんなよ」
「元々、夕飯はこっちで食べて泊まってくつもりでした」
俺は笑って舌を出した。 

「じゃあ荒木少年、俺の部屋で食べないか?
 今夜はソシオが初ビーフシチューにチャレンジしてるんだ
 飼い犬君と一緒に食って、感想聞かせてやってよ」
モッチーがそう誘ってくれる。
「そうだな、2人用の部屋を見とくのも良いかもな
 荒木少年は白久と一緒に住むとき、ファミリータイプより2人部屋くらいが良いんじゃないの?」
ゲンさんにそう言われると、モッチーの部屋に興味が出てきた。
「お邪魔しちゃって良いの?」
「ああ、引っ越してきたばっかでシンプルなうちに見てみなよ
 そのうち荷物が増えそうだからさ
 ソシオに似合いそうな服買ってやりたいんで、今後衣装ケースが増えそうでな」
モッチーは照れた顔で頭をかいている。
何だかこの人は大麻生を飾りたてるウラと、同じ道を歩みそうな気がした。

俺は今のところ首輪を多く買っているけど、白久の海パンを選んだときはけっこう真剣になってしまったことを思い出す。
白久と一緒に暮らしたら俺も2人の様になってしまいそうな予感がしたが、それは幸せな未来に思えるのだった。
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