しっぽや5(go)

□新たな仲間を真似る未来
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大野原不動産の奥は、事務所兼応接室兼控え室になっている。
ゲンさん曰(いわ)く『多目的ルーム』だそうだ。
閉まっているドアからはゲンさんと、男の人の声が聞こえてきた。
『お客さんとか業者さんだったらヤバいかな
 でも、お姉さんは入って良いって言ってたし』
少し迷ったが、俺は控えめにノックをしてドアを開けた。

「お、来た来た、彼がうちのデザイナーの荒木少年だ」
ソファーに座っていたゲンさんが立ち上がって俺を紹介する。
「え?いや、デザイナーってほどじゃ」
俺は慌てて訂正したが
「ああ、社員証のデザインした人ですね」
ゲンさんの向かいのソファーに座っていた彼も立ち上がって、笑顔を向けてきた。
『デカ…』
座っていたときは分からなかったが、立つと白久と同じくらい大きな人だった。
長めの髪を一つに結わえ、セットした後わざと乱れさせている。
ワイルドな外見を計算し尽くした髪型だった。
ネクタイスーツを着ているが、親父のようなサラリーマンが着るものとは違って見える。
ウラほどチャラくはないけれど、第一印象だけで言うと『部屋を探しに来たホスト』のようだった。

「モッチー君、やっぱそのスーツ、気質(かたぎ)に見えないって荒木少年の顔が言ってるよ」
ゲンさんの言葉で、俺は我に返る。
「え、そうッスか?海外商社マンみたいだった?
 俺の持ってる1番高いスーツ着てきたんですけど」
「不動産屋なんだからもっと庶民に寄り添って、野暮ったいのじゃなきゃダメだっての
 その格好で駅前に立ってたら、客引きだと思われるぜ」
「ああ、それで前にこれ着て駅前で待ち合わせしてた時、駅前交番の警官にジロジロ見られてたのか」
相手は何やら納得していた。

「あれ、モッチー君…て?歓迎会の時にゲンさんが言ってた人?」
俺はその呼び名に聞き覚えがあった。
「どうも、挨拶が遅れました
 ソシオの飼い主になった持田 保夫(もちだ やすお)です
 来週から大野原不動産で働くことになりました、よろしくお願いします」
持田さんは外見に似合わず(と言うと失礼だけど)年下の俺にきちんと頭を下げてきた。
「野上 荒木(のがみ あらき)です、こちらこそよろしくお願いします」
俺も慌てて頭を下げて挨拶をする。
ナリが言っていた『格好つけたがるけど悪い人じゃない』という言葉を思い出し、何となく納得してしまった。


「持田さん、バイクで事故ったって聞きましたけど、怪我はもう良いんですか」
この人に対する俺の中でのイメージは『事故った人』だ。
見たところ、包帯を巻いたり絆創膏を貼ったりはしていなかった。
「俺のことはモッチーで良いよ、タケぽんにもそう言ってあるし
 俺も店長に倣(なら)って、荒木少年って呼ばせてもらおうかな
 怪我は随分マシになったよ、リハビリかねて体動かそうと思ってあちこち顔出し中なんだ」
「本当は来週、出社してから社員証や名刺のデザイン頼むつもりだったんだけどな
 せっかく顔見せに来るんだし、今やっちまおうと思ってさ
 社員証の写真撮るって言ったら、気張(きば)っちゃってなあ
 仕方ないから白シャツとネクタイだけで撮るか、その方がまだ気質に見える
 荒木少年、客がビビらないようファンシーな感じでデザインよろしく
 厳(いか)ついのに猫好き、このギャップで覚えてもらおう」
ゲンさんは1人頷くとモッチーの写真を撮り始めた。
撮った写真を確認し、持ってきていた試し刷り社員証に使えそうな物を選びデザインの訂正をしていく。
一緒に名刺のデザイン希望も聞いておいた。

話が一段落するとゲンさんがお茶を淹れてくれる。
「俺がやりますよ」
恐縮するモッチーに
「お前さんにはコーヒー担当になってもらうから良いって
 荒木少年もそのうちモッチーの本格コーヒー飲ませてもらいな
 喫茶ひろせにピッタリな逸材だ」
ゲンさんは楽しそうに笑っていた。


「ソシオ、元気にしてる?」
俺が話しかけると
「ああ、今日も元気に可愛くしてる
 来週からしっぽやの正式所員になるって張り切ってるよ
 長瀞を追い抜くってさ」
モッチーは優しい笑みを浮かべた。
その笑みで俺はソシオが大事にされていることを知ることが出来た。
「タケぽんにはもう会ったんだ?」
先ほど彼の口からその名が出た事を思い出した。
「ああ、着なくなった服を貰ってもらったんだ
 ひろせには以前に実家の猫を捜索してもらった縁があってさ
 どうせなら、ってな」
「モッチー君のお古だと、高校生には分不相応って気もするが
 まあ良いか、タケぽん最近菓子の材料買いまくって散財してるみたいだから、服にまで金が回ってないもんな
 日野少年みたく食いモンで散財するならともかく、材料で散財するって何だかなー」
「それでひろせがお菓子作ってくれるから、しっぽやのお茶菓子が充実してるよ
 黒谷が申し訳ないって給料にボーナス追加しといたら、それでさらに買い込んでんの
 ほんと、将来ひろせとスイーツ自慢の喫茶店でもやればいいのに」
俺達は暫く、ここには居ないタケぽんの話で盛り上がるのであった。
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