緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□オサキ狐編 PART2〈No.28〜30〉
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〈No.28〉祝々(しゅくしゅく)
  ◆OSAKI 2〈1〉


学校からの帰り道を歩く僕の前に、若い女の人が姿を現した。
「ちょっと面(つら)貸しな」
つり上がった目、ソバージュと言うのだろうか波打つ長い髪は金色に染められている。
踝(くるぶし)までありそうな長いスカートの腰の辺りにはチェーンが巻かれていた。
おまけに木刀を担いでいる。
美人ではあるのだが
『スケバンって人っぽい?何か目を付けられるようなことしたっけ?』
助けを求めようと辺りを見回したが、一緒に下校していた友達の姿は消えていた。
「良いから来い、つってんだよ」
彼女は顎で先を示し先に立って歩き始めた。
仕方なく僕は彼女の後に付いていったが、リンチでもされたらどうしようと不安ばかりがつのっていった。

彼女は1件の店の前で足を止める。
『え?甘味処ヨネ?今日は定休日のはず』
混乱する僕をよそに
「邪魔するぜ」
彼女は暖簾の出ていない店の引き戸を開けて中に入っていく。
しかたなく僕も店に入ると、そこには店主である米研ぎ婆のお米(よね)さんの他に、小豆研ぎの荒井(あらい)さん、オサキ狐のオザキさんが揃っていた。

「お、キューリも来てくれたのか」
荒井さんが親しげに声をかけてくる。
「あの、何がどうなってるんですか?」
妖怪とは言え、見知った顔が居てくれたことにホッとした。
「そこのヘタレが昼間は外を歩けねーとかぬかすから、あたいが迎えに行ってやったんだよ」
答えてくれたのはスケバン風の美人だった。
「だ、だってサキちゃん」
オザキさんがオドオドと口を開いたが、彼女にジロリと睨まれてシュンとなってしまう。

「まあまあ、目出度い席だ、楽しくやろう
 キューリ、オザキとサキは祝言をあげるんだ」
取りなすような荒井さんの言葉で僕はますます混乱する。
「キューリが用意してくれた大豆で作った豆腐が上手くいって、ついに蒼太が結衣(ゆい)にプロポーズしたんだよ」
「蒼太ってオザキさんが憑いてる家系の人だっけ
 なんでオザキさんまで結婚することに?」
首を傾げる僕に
「あたいは結衣の家系に憑いてるオサキ狐なのさ」
スケバンのサキさんが答えた。

「オサキ等が憑いてる家は『憑き物筋』と言われ、婚姻関係を結ぶ事が多いんだ
 オザキに良い油揚げを卸してもらえるから、ヨネの新メニューにいなり寿司を加えようと思ってな
 どうせなら、オサキ狐の祝言はここでやろうと提案をしたんだ」
荒井さんの言葉で、やっと事態が飲み込めてきた。

僕は物の怪の目出度い席にお呼ばれしたようだった。
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