しっぽや3(ミイ)

□猫神奮闘記〈後編〉
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side<HAGURE>

私が保護した小さな白黒の子猫。
転生する前の記憶が残っているらしく、生前暮らしていた家に帰りたいと頼まれた私は彼の望みを叶えるべく奮闘中であった。


タケぽんがしっぽや事務所に来る前に情報を整理した方が良いと、大麻生が子猫から得られた情報を箇条書きにしてくれた。
「こんなものですかね」
大麻生から渡されたメモには

『・生前の名前複数あり「ギニー、ボン、ギニーボン、ギーコン、コンタン」
  推測できる名前・不明
  呼び名が多い=飼い主は猫バカの確率が高い
 ・生前の毛色「黒」
 ・生前、子猫と同居していた時期あり
  子猫の情報・白黒の間抜け(?)な柄、デ…ふくよかな体型と思われる呼び名あり「デブチン、デブチ」
 ・犬との意志疎通に長(た)けている、生前は犬とも同居していた可能性が高い
 ・飼い主から少量の牛乳を貰っていた形跡あり
 ・キラキラした小袋に入っているカリカリを欲しがっていた
 ・暖かいのは幸せと同義語であるとの思いあり』

このようなことが書かれていた。

「書いていて思ったのですが、解決の糸口になりそうな情報が皆無です
 ミステリーを読んでいるときは、もう少し閃くものがあるものなんですけれど
 難解すぎます、最近の『メタ展開』というものでしょうか
 自分には、あのジャンルがよく分からないのですよ」
大麻生はソファーに座り、ガックリと肩を落としている。
「ありがとう、書き出してもらえるとタケぽんに説明しやすいよ
 私にも、あの子の言うことは分からないことが多すぎる
 猫の心の複雑さには、驚かされるばかりだ」
私はうなだれる大麻生の肩を叩いて労(ねぎら)った。

「ミウ、ミウ、ミウ」
キャリーの中にタオルを敷いて寝かせていた子猫が目を覚ましたようで、しきりに私を呼び始めた。
『勘弁してくれよ、兄ちゃんがいないと頭がボンヤリしてきちまうんだ
 カーテンに包まれたみたいになって、何もかもに紗(しゃ)がかかるんだよ』
子猫はキャリーから抜け出すと、私に近寄ってきてグイグイと頭を押しつけてくる。
「そうかい、ならばタケぽんが来るまで一緒にいよう」
私は子猫を胸に抱きしめ、ソファーに腰を下ろす。
そんな私たちを見て、白久は何かを思い出そうと考え込み始めた。

「そうだ、クロスケ殿も言っていました
 『カーテンに包まれる』
 あの時は何のことだか分からなかったのですが、死が近付いてきて記憶が曖昧になっていくことを指していたのかもしれません
 この子猫の場合は、生前の記憶を忘れてしまうことが『記憶の死に近付く』ことになるのでは」
白久はハッとした顔になる。
「クロスケ殿も『暖かいのは幸せだ』と言っていましたが、こちらは何の比喩なのか不明です
 猫との意志疎通が、こんなに難しいとは
 猫の化生達がいなければ、猫の捜索は不可能ですね」
しみじみと言う白久の言葉に、私達犬の化生は頷くばかりであった。


そうこうしているうちに、タケぽんの気配が感じられた。
直ぐにノックせず、扉の前で佇んでいるようである。
暫く経ってからノックの音がして
「ひろせの気配無し、ってか猫の気配無し
 もしかして犬しか居ない?」
そんな言葉と共にタケぽんが事務所に入ってくる。
「当たり、今日は珍しく猫は全員出払ってるんだよ」
黒谷が笑いながら答えていた。
「よしよし、だいぶ『気配』っての分かるようになってきたぞ
 まあ、化生の気配だけだけど」
満更でもない顔をしていたタケぽんが私と子猫に気が付き
「あれ、猫師匠来てたんだ
 って、うちは里親相談所じゃないよ」
空と同じ事を言ってくる。
「猫師匠…高座に居そうな呼び方だな
 いや、この子猫にはお使いを頼まれてね、今回のことは三峰様も了承済みの案件なのだよ
 私では力不足故(ゆえ)、タケぽんの力を借りたくて出勤してくるのを待っていたんだ」
「俺を待ってたって…
 猫師匠に無理なら、俺にも無理じゃない?」
焦るタケぽんに私は今までの事と次第を説明し、大麻生が作成してくれたメモを手渡した。

「こーゆーの、SNSとかで分かるものなのかな?」
黒谷に聞かれ、タケぽんは激しく首を振っていた。
「無理無理、とっかかりがなさ過ぎる
 飼い主さんがSNSやってなきゃアウトだし、やってても何をどう説明すればいいのやら
 白黒猫と犬飼ってる親ばかなんて、全世界で何万人いるんだか」
「いや、三峰様が言うには、しっぽやで解決できる案件なので、私と縁を繋ぎたがっているらしいのだ」
私の言葉にタケぽんは考え込んだ。
「本州…よりも狭い地域になるのかな、この辺って事は関東…?
 それでもけっこう広いよな、もっと狭くていいのかも
 県境だし、1都3県とか…」
ブツブツ呟くタケぽんを
『人目線で獣のことを考えてくれる人間がいると言うことは、ありがたいことであるな』
私は頼もしく見守るのだった。
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