しっぽや3(ミイ)

□天使の園
2ページ/5ページ

「こんちわ、クマさんいる?」
ゲンさんが親しげに受付の女の人に声をかける。
『常連』っといった態度が伺えた。
「店長はさっきお昼を食べに外に出てしまって」
女の人が申し訳なさそうに答えると
「そっか、ご新規さん2人も連れてきたから恩に着せようと思ったが、まあいいや
 ランチ付き3時間コース3人分お願いね」
ゲンさんが手慣れた調子でそう注文した。
「はい、それじゃスタンプカード2枚、新しくお作りしますね」
女の人も慣れた感じで、テキパキと対応している。
ゲンさんはクルッと俺と波久礼に向き直り
「天国へようこそ」
芝居がかった調子でそう言った。

「ここで手を洗って、アルコール消毒してから入って
 で、こっちのスリッパを履く、と」
ゲンさんの説明に従い、俺と波久礼は店に入っていく。
「こっちが人のイートスペース
 猫喫茶っても、ここは猫の居る場所での人の飲食は禁止だから気をつけてくれ」
ゲンさんの説明に
「猫喫茶?」
波久礼が驚いた声を上げる。
「そ、猫のいる喫茶店!可愛こちゃんたち、オサワリし放題!
 わかってると思うけど、無理矢理触るのは御法度だからな!」
ゲンさんが満面の笑みで答えた。
予想通り波久礼がビックリしたので満足したようだ。
「猫が出て行かないよう気をつけて、こっから入って」
ゲンさんの案内で内ドアを開け、俺たちは猫の居る空間に入って行った。

男3人で猫喫茶なんて浮きまくるんじゃないかと危惧していたけど、女の人に混じって男のお客さんもチラホラ見えた。
室内では、複数の猫達が思い思いの場所でクツロいでいる。
『か、可愛い…』
俺はカシスに悪いと思いながらも、顔が緩んでしまう。
チラリと波久礼を見ると、小さく震えていた。
「こ、この場所は…」
かなり興奮している感じで、俺は慌ててしまう。
「波久礼、猫を驚かさないように、小さな声で
 動作も最小限に」
ゲンさんが囁きかけると、波久礼がハッとした顔を見せる。
「かしこまりました」
ゲンさんの命令で落ち着きを取り戻した波久礼が、囁き返した。
「座って」
ゲンさんに指示されたソファーに波久礼がそっと座る。
「この子がこの店で1番の抱っこされ上手、アンコちゃんでーす」
そう言ってゲンさんが黒猫を波久礼の膝の上にのせた。
黒猫は波久礼の膝の上で大人しく抱かれている。
波久礼が優しく頭をなでると、気持ちよさそうに目を細めた。

「どれ、少年には抱っこされ上手No.2のキナコちゃんを託そう!」
ゲンさんから渡された茶トラの猫を抱っこして、俺は手近なクッションに腰掛けた。
『は、鼻がピンク!』
黒猫としか触れ合った事のない俺には、それは新鮮な色であった。
耳の横や顎の下を撫でると、キナコちゃんは微かにノドをならし始めた。
「お、さすが、プロの手つき!」
ゲンさんは白いペルシャ猫を抱っこしながら、俺の隣に腰掛けた。
そう言うゲンさんも、的確に猫の気持ち良い場所をさすっている。
「ナガトがさ、あいつのこと声も態度もガサツで大きいんで取っつきにくい、って言うからよ
 少し、ここの可愛こちゃんに教育してもらおうと思って連れてきたんだ」
ゲンさんは波久礼に顎を向け、悪戯っぽく笑う。
「あいつが今まで接してきたのは子猫らしくてさ
 子猫は順応性あるから可愛がればすぐ懐くけど、大人の猫はなー
 あの巨体で押されたらビビるだろ」
苦笑するゲンさんに
「確かに…」
俺も苦笑する。
「動作が静かになれば、あいつが事務所に来てもナガトが居心地悪い思いしなくて済むから、バンバンザイ!
 ハスキー達からも、あいつの猫欲を満たしてやってくれ、とか頼まれてたし
 ここで思う存分猫を触れば、もう猫を拾わないんじゃないかな
 しかし猫が好きな狼犬なんて、今で言う『ギャップ萌』ってやつじゃねーの?」
ゲンさんはヒヒヒッと笑った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ