しっぽや3(ミイ)

□天使の園
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side〈ARAKI〉

朝のメールチェックをしていたら、いつものように影森マンションの暗証番号を知らせるメールと一緒に、ゲンさんからの私信メールも届いていた。

『今日はバイト無いんだって?
 ヒマならオジサンに付き合わない?
 大人の世界にご案内しちゃうぜ(^。^)
 ビックリゲストも来るから、お楽しみに( ´艸`)
 昼12時にしっぽや最寄り駅で落ち合おう(^_^)b
 ランチはオジサンのおごりだから、何も食わずに来いよ♪
 なお、このメールは自動的に消去される(・∀・)

 ほどのプログラムを組める腕は、俺にはないから安心してくれ(`・ω・´)
 来れるなら返信4649機械犬( ^o^)ノシ』

『また、返事に困るようなメールを…』
俺は朝からゲンナリした気分になるが、今日は特に用事もない。
どこに連れて行ってくれるつもりなのか興味がない、と言えば嘘になるので
『お付き合いさせていただきます』
とだけ書いたメールを返信した。

12時より少し早く駅に着く電車に乗って、しっぽやの最寄り駅に向かう。
改札の先には、もうゲンさんの姿があった。
「お、待ち合わせ時間より早めに来るとは感心、感心」
俺の姿を見つけ笑顔になるゲンさんの側には、一際大きな人物が居た。
「あれ?波久礼?ビックリゲストって波久礼のこと?」
てっきり中川先生あたりだと思っていたので、確かにビックリしてしまう。
「荒木、こんにちは、カシスは元気ですか?」
波久礼は礼儀正しく頭を下げてくる。
「あ、うん、こんにちは、カシス、体重900g越えたんだ
 順調に大きくなってるよ」
俺の言葉に、波久礼は相好をくずす。

「少年、今日は可愛こちゃんがわんさかいる大人の店に連れてってやるからな」
ゲンさんがヒヒヒッと笑いながら言う。
「可愛こちゃんの店…?」
それは、何だか聞いたことのある言葉だと気が付いた。
「ゲンさん、それってねこ…」
言葉の途中で、俺はゲンさんに口を押さえられる。
「危ねー、さすが高校生名探偵!
 あいつにゃ内緒なんだから、ネタバラシはもうちっと後、後!」
ゲンさんはチラリと波久礼を見た。
「ビックリゲストって…ゲストがビックリするってことか!」
俺の突っ込みに
「ご名答!」
ゲンさんは子供のような笑顔を向けた。

俺たちはゲンさんを先頭に歩き出す。
いつもしっぽやに向かう道とは違う裏道で、珍しくてキョロキョロしてしまった。
それは波久礼も同じなのか、何だかソワソワしている様子であった。
「おっと、ここ、ここ!」
ゲンさんが立ち止まった場所には3階建てだけど、しっぽやテナントビルより小さく見えるビルがある。
想像していたより地味な場所に
「え?こんなに小さいの?」
俺は驚いてしまう。
1階は何かの企業の事務所のようで、馴染みのない名が記された看板の他に同じ企業名が書いてある扉があるだけだ。
しかし、2階に向かう階段の側に『天使の肉球』という猫のイラストが描いてある看板があった。
「そう、知らねーと、気付かないだろ?」
ゲンさんが子供のような顔で笑う。
「ここは…?何だか、猫の気配が濃厚な…」
波久礼が辺りを見回している。
「ま、とにかく入ろうや」
俺たちはまたゲンさんを先頭に、狭い階段を上っていった。
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