しっぽや3(ミイ)

□捜索依頼〈お…犬〉
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「じゃあミイちゃん、犬がどこまでついて来てたか
 最後に見たのはどこだったか、覚えてるかな?」
俺の問い掛けに、ミイちゃんは少し考え込むと
「駅前商店街のお肉屋さんの前で、メンチカツを揚げるオバサンを見つめて動かなくなっていました
 後からついて来ると思って先に進むと、新作アイスのポスターが貼ってあるお店があったので、私はそちらに入ってしまい…
 でも、自分は財布を持っていない事に気が付いてお肉屋さんまで戻ってみたら、もう居なくなってたのです」
そう言った。
「リード無しでそんなことしてたら、迷子にもなるよ!」
俺は呆れた声を出してしまう。
「すいません…」
ミイちゃんは恥じたように呟いた。

「それじゃ、お肉屋さんに行ってみようか
 店頭で揚げ物してたオバサンがいるんだろ?
 どっちに行ったか、見てたかもしれないよ」
俺の言葉に
「成る程!荒木は頭が良いのですね!」
ミイちゃんが感心したような視線を向けてくる。
小学生に誉められても、俺は素直に喜べなかった…

「そうだ、その犬って犬種や毛色は何かな?」
俺は、やっとその事に思い至った。
「犬種?」
ミイちゃんが不思議そうな顔をする。
「犬の種類だよ、あ、ミックスとかだと説明しにくいかな?
 大きさとか、毛の長さとか、どんな感じ?」
俺が聞くと
「私より大きいです、と言うか、荒木より大きいですね」
ミイちゃんはごく普通の顔で答えた。
女の子が散歩させていた犬なのでチワワやトイプードルを想像していた俺は、驚いてしまう。
『俺よりデカいって…立ち上がったらって事?
 グレートデーンとかボルゾイなんか、凄く大きい犬種だったよな…』

「毛は灰色で、モコモコ?と言うのでしょうか…」
ミイちゃんは考えこんだ。
『大きくて、灰色で、モコモコ?
 オールドイングリッシュシープドッグとか?
 牧羊犬だから賢いけど、そんな犬がリード付けないでウロウロしてたら、ソッコー保健所に連絡されちゃうよ!』
そう考え、俺は焦った気持ちになっていた。
俺が駅前を歩いていた時は特に騒ぎになっている様子は無かったけど、今頃大騒ぎになっているんじゃ、と心配になる。
「早く探してあげよう!」
俺の言葉に
「はい!」
ミイちゃんは嬉しそうに頷いた。

そんな会話をしている俺の耳に、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえる。
さっき見た外人を思い出し、俺はギクリとして振り返った。
「あれ…?」
走って近付いて来たのは、羽生であった。
黒を基調としたスーツを着ていたが、ネクタイをしていないため堅苦しく見えない。
アイドルのような美少年なので、それは嫌になるほど様になっていた。
『犬探し、手伝ってもらえないかな?』
羽生は今ではしっぽやの所員として働いているので、素人の俺より頼りになるんじゃないか、そう考え
「羽生、悪い、時間あったら少し付き合ってくれない?」
と、声をかけてみた。
羽生は俺に気が付いて、驚いた顔を向けてくる。
と言うより、俺とミイちゃんを見比べて、何だかオロオロしている。

「この子、散歩中に犬が迷子になっちゃったんだよ
 探すの、手伝ってくれないかな?」
そう話しかけても
「えっ?あの、その…
 でも、そちらはその…」
羽生はミイちゃんを見て、煮え切らない態度をしていた。
「こちらの親切な若者が、犬探しをしてくれると申してくれて
 お願いしているのですよ」
ミイちゃんがどことなく強い口調で話しかけると、羽生はビクリと肩を震わせた。
「あの、でも、はぐれ…」
「そう、犬とはぐれてしまったのじゃ」
ミイちゃんは何だか時代がかった言い方で、羽生の言葉を遮った。
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