しっぽや2(ニャン)

□デカ飼い主&飼い猫奮闘記
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疲れているひろせを気遣って、夕飯は牛丼を持ち帰りにしていた。
栄養バランスを気にしたひろせは、みじん切りの野菜で手早くスープを作ってくれる。
スープを火にかけている間に、卵焼きまで作ってくれた。
簡単なのに豪華な夕飯が嬉しくて、テンションが上がってしまった。
「いただきます」
2人で暮らす予行演習のような時間、俺達はご飯を食べながら会話に花を咲かせていた。

「今日は何気に忙しかったね」
「犬の捜索が多くて、犬達ばかり忙しかったんですけどね
 猫は楽できました」
舌を出すひろせに
「でも、ゴールデンの捜索にも出たし、猫の中では1番忙しかったんじゃない?
 疲れただろ」
俺はひろせの身体の具合が気になってしまった。
「ゴールデンは気の良い方だったので、お会いできて楽しかったです
 小型犬や和犬は気の強い方が多くて、僕には難しいんですよ
 和犬は白久か黒谷か大麻生、小型犬は空に任せた方が早いです
 ふかやと僕は、捜索しやすい犬種が被ってるかな」
ひろせはそう言った後、何かを思い出したようにクスクスと笑い出した。

「多分、ソシオも被ってると思いますよ
 ソシオは飼い主が決まったので、近々こちらに戻ってきます
 そうしたら、臨時ではなく正式に所員になるんですよ
 生前ラブラドールレトリーバーと暮らしていた時期があるから、犬の捜索にも出るって張り切ってました
 ラブの依頼が来たら、僕と取り合いになってしまいそうです」
「それは頼もしいというか何というか複雑な関係になりそうだね
 そっか、ソシオは飼い主決まったんだ、良かった
 ナリのとこで不思議な反応してたから、どうなることかと気になってたんだ」
俺はナリやふかやに頬を染めていたソシオを思い出していた。

「引っ越しの際に飼い主のいらない服をくれるって言ってたから、ありがたく貰うことにしました
 飼い主さん、以前タケシにあげた服を下さった方なんです
 また、タケシが着て下さい」
「ああ、あの服をくれた人なのか
 あれブランド物っぽかったけど、貰っちゃって良かったのかな
 あんまり着てないみたいだったのに」
俺は気になっていたことを聞いてみる。
「捨てるよりは着てもらった方が良い、ってソシオが言ってましたから大丈夫でしょう
 お返しに、何かお菓子でも焼こうかと思っていますし」
「そっか、こっちに来たら、俺も一緒にお礼に行きたいから呼んで」
「はい」
ひろせと交わす未来の約束に、俺は幸せを覚えていた。


食事の後はカップアイスを食べながら、プチ合格祝いのメニューを話し合った。
「和、洋、中のケーキ、面白そうですね
 何にしようかな、どんな感じだとお祝いっぽくなるんでしょう」
ひろせは俺の提案に、目を輝かせてくれた。
「ドーンとボリュームのあるのが1個は欲しいんだ
 日野先輩の目も楽しませといた方が良いからさ
 これ、洋はベタ中のベタ、ホールのショートケーキにしたいんだけど、どうかな
 チョコのプレートに『合格祝い』って書いてのせよう」
「良いですね、基本中の基本でも、イチゴを乗せるバランスや生クリームのデコレーションの仕方で個性は出していけます
 僕達らしくデコってみましょうか
 今の時期なら露地ものの美味しいイチゴが手に入りますし」
こうしてあっさり洋は決まってくれた。

「洋ケーキはショートケーキに決まりっと
 後は和と中華…自分で言っといて何だけど、良い案が思い浮かばなくてさ
 和は抹茶ケーキにアンコをトッピングとか?
 つか、中華って何だろ」
俺は首を捻ってしまう。
「中華風蒸しパンのマーラーカオ
 これをパウンドケーキ型に入れて蒸すレシピを見かけました」
ひろせはスマホを取り出すと、操作し始める。
「これです、スライスするとパウンドケーキに見えて面白いと思って覚えていたんですよ
 手軽に作れそうでしたから、タケシとのおやつタイムに良さそうかなって」
「スライスしたマーラーカオなんて何かおしゃれだし、良い感じだよ
 それに生クリームじゃなく杏仁豆腐を添えて出せば、より中華風じゃん
 中華はマーラーカオにしよう!」
ひろせと一緒に考えると難しいと思っていたことも、あっさりと解決できた。

「後は和だけど、抹茶のケーキじゃありがちかな」
まだスマホをいじっていたひろせが
「あの、『かるかん』はどうでしょうか」
オズオズとそう聞いてきた。
「かるかんって、猫缶の?そりゃ、荒木先輩は猫バカだけど…」
大胆な提案に、俺の頭は混乱してしまう。
「いえ、かるかん粉を使ったロールケーキ風のレシピを見つけたんです
 桜の花の塩漬けも使っているので、桜咲く演出になるかと」
ひろせが差し出してきたスマホには、桜の花がのっている可愛いロールケーキの写真が表示されていた。
「かるかん粉?!そんなのあるんだ
 上新粉でも代用出来るのか、オリジナルの和菓子っぽくて良いアイデア
 和、洋、中ケーキ、これで決まりだね
 先輩達も、白久と黒谷も驚くよ」
「はい」
俺たちはビックリ顔の2人と2匹を想像し、クスクスと笑いあうのであった。
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