しっぽや2(ニャン)

□幸運のお守り〈7〉
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<side MOTIDA>

ソシオとベッドを共にした2日目の朝、目が覚めて1番初めに思ったことは
『猫が3匹もいると暖かいけど、布団取られちまうな』
だった。
『って、ソシオは人間じゃないか、寝ぼけてんのか?俺』
当のソシオはまだ俺の腕の中で安らかな寝息を立てていた。
ヤマハとスズキからも『スー』とか『ピー』とか、可愛らしい寝息が聞こえてくる。
『猫が立てる幸せの音だなー』
そんな事を考えると、猫の温もりが恋しくてたまらなくなってしまった。
『次に縁がありそうな猫と出会えたら、飼うか
 ツーリング中に実家に預けて、またお袋に懐いちまったらそのときはそのときだ』
俺はそう決心する。

俺が起きた気配に気が付いて、ソシオとヤマハとスズキも目を開けた。
「モッチー、おはよう」
「ソシオ、おはよう」
俺達は軽く唇を合わせた。
誰かと一緒に目覚める朝は久しぶりで、そのシチュエーションにも幸せを感じてしまった。
俺達はベッドを出ると着替えてリビングに向かい、皆と賑やかな朝食を楽しむのだった。


ソシオを後ろに乗せる練習ついでに、俺達はナリのお使いをする。
教えてもらった通り、店までの道は直線が多く分かり易かった。
最初は緊張して強くしがみついてきていたソシオだったが、徐々に余分な力が抜けていき直ぐに俺の動きについてこれるようになっていた。
少しスピードを上げ激しめの走りに移行しても、俺の背中にピッタリと張り付いて動きに身を任せている。
『初めて乗るんだよな?』
余りに巧みな乗り方のため、実はバイク乗りなんじゃないかと勘ぐってしまうほどだった。
最初の頃の不慣れな様子を背中に感じていなければ、初乗りであるとは信じられないような動きであった。
『きっとバランス感覚が良いんだ』
ソシオの運動神経には感心しきりだった。

店について大量のカツサンドを買うと、俺はそれをバッグに詰め込んでソシオに手渡した。
1人だったら俺が背負うのだが、後ろにソシオを乗せているため彼に背負ってもらうしかなかったのだ。
ソシオは嫌な顔ひとつせず、当たり前のように荷物を受け取って
「背負ってるだけで運べるなんて、楽ちん
 運転はモッチーがしてくれるもんね」
そう言って無邪気に笑ってみせる。
今までに付き合ってきたきた奴達とは全く違う反応の彼に、どんどん惹かれていく自分を感じていた。

それから俺達は昼に回転寿司を食べに行く約束を交わし、しっぽや事務所に向かうことにする。
ナリに説明されていたしマップでも確認していたので、俺は迷わずに目的地に到着することが出来てホッとした。
『初めての道とはいえ、ソシオの前で迷子になったら格好悪いもんな』
俺は、ソシオの目に自分がどのように映っているのかが気になるようになっていた。


大野原不動産の脇にバイクを停めさせてもらい、俺達は事務所に続く階段を上がっていった。
ソシオがノックして扉を開ける。
「所長席」と書かれた札が置いてある机には、30代半ばくらいのキリリとした和風のイケメンが座っていた。
『番犬みたい』
一瞬バカなことを考えて緊張してしまうが、ダービーがお世話になったお礼を述べると彼は朗らかに笑ってくれた。
ターキッシュバンの依頼は珍しかったらしく、覚えていてくれたのだ。
逆にお礼を言われたので恐縮してしまう。
ソシオが『休みたい』と言い出しても喜ばしいことのように対応してくれる、不思議な人だった。

ノックの後に、事務所に人が入ってきた。
登場した彼のあまりの煌びやかさに目が離せなくなってしまった。
白から徐々にグレーに変わっていく不思議な長髪、上品で高貴な感じのたやかな顔立ち、息を飲むほどの美形であった。
俺は親父から話を聞いていた『ひろせさん』だと確信する。
話しかけたら、彼もまたダービーのことを覚えていてくれた。
沢山のペットを取り扱っているであろうペット探偵の人にダービーのことを覚えてもらっていて、俺は親ばかモードで少しハイになっていたのだろう。
初見のひろせさんと長話をしてしまっていた。

服の裾をクイっと引かれ我に返ると、不満そうなソシオの顔があった。
「モッチー、ご飯食べにいこ」
拗ねたような響きの口調で言われ
『他の子に、焼き餅焼いてるんだ』
そう気が付いた。
独占欲が強く嫉妬深いと言うのとは違う気がして、それは何だか可愛らしく感じられる。
それから俺達は『羽生』と言う、これまた凄い美少年から回転寿司の割引券をもらいショッピングモールに移動するため事務所を後にした。

階段を下りながら
「俺、皆みたいにモッチーが好きそうな外見なら良かったのに」
『浮気性だ』と俺を攻めようとはせず、ションボリと呟く彼の健気さがたまらなく愛おしかった。
「ひろせさんと羽生君より、ソシオの方が可愛いよ」
そう言って頭を撫でると、彼は頬を染め華のような笑顔をみせてくれた。

今や俺の心も、ソシオのものになりつつあるのだった。
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