しっぽや2(ニャン)

□幸運のお守り〈6〉
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side<SOSIO>

部屋に帰ってきた俺達はキャットタワーを組み立てた後、皆でお昼にピザを食べた。
モッチーが買ってくれたスポーツドリンクは、ピザを食べながら飲むとサッパリしていて美味しかった。
『せっかく買ってもらったのに、残りが無くなっちゃった』
少し寂しい思いを感じていた俺に、モッチーがまた買ってくれると言ってくれた。
ナリも協力してくれたので、俺はモッチーと一緒に買い物に行けることになって浮かれていた。
しっぽやの飼い主のいる者達と同じ事が出来る状況に、喜びを感じていたのだ。
モッチーと一緒に居るだけで、何もかもが楽しいことに思えていた。
『モッチーも同じように思っててくれると良いな』
店に行くまでの間中、一緒に歩きながら俺は何度もモッチーの顔を確認してしまう。
「何かついてるか?」
自分の顔を撫でる彼に
「ううん、格好いいなって思って」
俺はエヘヘッと笑って返事を返す。
「そうか?」
「うん!」
モッチーと会話しながら歩いていると、あのお方が居ない心の寂しさが満たされていくようであった。


俺達はスーパーで色々と買い物をする。
モッチーが好きだという食べ物を覚えることが楽しくて、ゲンの好きな物を作りたがる長瀞の気持ちが良くわかる気がした。
モッチーは俺の好きな物を覚えていてくれた。
チーチクやアンコの団子をカゴに入れてくれる。
俺の毛色みたいだ、と言って海苔が巻かれた御手洗(みたらし)団子も買っていて、彼が俺のことを嫌っていない感じがしてホッとしてしまう。
俺の楽しい気分は夕食を食べてモッチーと一緒に部屋に行くまで、ずっと続いていた。

『明日はモッチーが俺をバイクに乗せてくれる
 上手く乗ることが出来れば、ふかやみたいに一緒に出かけることが出来るんだ
 頑張らなきゃ、猫の運動神経フル回転させるぞ』
意気込んでそんなことを考えるが
『明日は楽しい、でも、その次の日は…?
 きっと、モッチー帰っちゃうよね
 人間の会社って、しっぽやみたいに自由に休みをとれないみたいだもん』
それに気が付くと楽しい気分が萎んでいった。
「また、こっちに来てくれる?」
恐る恐る確認すると
「俺達付き合ってんだから、たまにはデートしないと」
彼は笑って請け負ってくれた。
その答えにホッとするものの、別れの寂しさを考えると切なくなってしまう。
せめて今だけでも離れたくない。
モッチーは今夜も一緒に寝ることを了承してくれた。


彼とベッドに入ると、早速ヤマハとスズキがベッドにのってくる。
「そっちだと、猫がいるから狭いだろ?」
そう言って、モッチーは昨夜よりも親密な感じで俺を抱き寄せてくれた。
『ヤマハ、スズキ、ありがとう
 もっと伸び伸び寝て良いよ』
俺は2匹にお礼の想念を送る。
「猫って、何でベッドで横になって寝ようとするかね
 縦になってくれりゃ、コンパクトなのに
 ダービーもそうだったよ」
呆れたようなモッチーに
「だって猫だもん、寝たいように寝るんだよ」
俺は笑って返事を返した。
「まあそうだな、ソシオは猫のなんたるかをわかってんなー
 流石、猫担当のペット探偵だ」
モッチーは誉めるように髪を撫でてくれた。
俺はそれが心地よくて、彼の胸に密着してこの幸せな時を堪能する。

『トクン、トクン、トクン』

優しい鼓動が俺を包んでくれていた。

まだ、猫だった頃の思い出が蘇る。
あのお方のベッドに入れてもらったこと、ベッドの側で眠るモンブランにピッタリくっついて寝たこと。
ベッドとモンブランの間を行ったり来たりして、俺は一晩でどちらの温もりも堪能できる幸せな夜を過ごすのが当たり前のことになっていた。
いつだって優しい鼓動に包まれて、冬でも暖かく眠れたのだ。
俺は今、あのときと同じ幸せを感じていた。
「モンブランと一緒に寝てるときみたい」
思わず呟いた俺に
「モンブラン?」
モッチーは不思議そうな声を出した。
彼にモンブランとの思い出を語っていると、幸せだった時間があまりにも遠すぎて言葉が詰まってしまった。
モッチーは何も言わず俺の肩を抱き寄せ、キスをしてくれた。
今までのキスとは違う、深いキス。
労るような優しいキス。
安心できて嬉しくて、モッチーと触れ合っている状況に鼓動が速まってしまう。
彼の鼓動もさっきより早くなっているように感じた。

「ソシオが仕事を休めるなら、俺が帰るとき一緒に家にきてみるか?」
モッチーは俺をお家に誘ってくれた。
彼の家に行ける、彼の側に居られる、それは素晴らしく嬉しい誘いであった。
俺は二つ返事で頷いた。
黒谷は暫く休んで良いと言ってくれていたので、しっぽやの方は問題がない。
問題があるとすれば、俺がモッチーのバイクの後ろに上手く乗ることが出きるか、だ。
バイクで帰る彼と共に移動できるよう、俺は練習に向け改めて気合いを入れるのだった。
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