しっぽや2(ニャン)

□幸運のお守り〈4〉
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side<SOSIO>

居候をさせてもらっているふかやの部屋で、俺は『モッチー』こと持田 保夫(もちだ やすお)と言う人間と知り合った。
人間の側に居いたいと思えなかった俺にとって、モッチーは特別な存在になる。
俺は、モッチーに飼ってもらいたいと感じたのだ。


皆で集まった飲み会の席でモッチーのためにグラスにビールを注ぎ、彼がそれを飲み干して『美味しい』と言ってくれたことがとても嬉しかった。
テレビで見た『ビール』みたいになってなかったのに、それでも誉めてくれた。
『モッチーって、優しいな』
俺は嬉しくなってしまった。
お代わりを注いでいたらモッチーが俺を抱き寄せ、皆に対して自慢するような態度をとった。
触れられている肩がジンジンと熱くなり体中がとろけるようにシビレていき、俺はモッチーに対して発情している自分を感じていた。

モッチーはビールのお返しに、りんごジュースをグラスに注いで渡してくれる。
それは幸福な味がして、とても美味しかった。
ジュースだけじゃなく、モッチーはつまみも色々取り分けてくれた。
「モッチー、チーチクもあるんだ
 ソシオに渡してあげて、彼の好物だから」
ナリに渡された容器を、モッチーが俺に渡してくれる。
「はいよ、ソシオ
 つまみ系でしょっぱいもんばっかだけど、大丈夫か?
 具合悪くなったらすぐ言うんだぞ」
自分もチーチクをカジりながら、モッチーが少し真剣な顔で言ってくる。
「この体なら、少しぐらい大丈夫だよ
 つまみって、美味しいものばっかりだもん
 後でヤマハに自慢してやるんだ」
「猫には、超羨ましがられるだろうな」
俺の言葉を聞いて、モッチーは面白そうに笑ってくれた。

その後、モッチーはウイスキーで水割りを作って俺にも分けてくれる。
彼が飲んでいるととても美味しそうに見えたのに、舐めてみてもよく分からない味としか感じられなかった。
それでも彼に『いける口(くち)』だと言われ、俺は嬉しくなった。
いつかモッチーと一緒にウイスキーを楽しみながら幸せな時間を過ごしたい、思わずそんなことを考えてしまった。
出会ってから数時間しか経っていないのに、俺のこの先の人生にモッチーが居ないことは耐えられない苦痛としか思えなくなっているのであった。


ナリの計らいで、モッチーは俺の部屋で寝ることになった。
寝るときも彼と同じ部屋に居られると思うだけで、心から喜びがあふれ出していく。
ヤマハとスズキが居るとはいえ、部屋ではモッチーと2人っきりだ。
俺がモッチーを独り占めできることに舞い上がってしまう。
多少発言がおかしくなってしまっても、さっきの水割りで酔ったことにすれば大丈夫そうであった。

『スズキ、お願い!モッチーに抱っこされて!明日もチュルーあげるから
 怖くないよ、モッチー凄く優しいんだ』
そんな俺のお願いで、スズキは渋々ながらモッチーの膝の上で撫でられていた。
「スズちゃん触ったの、初めてだ
 よく言い聞かせられたな
 ペット探偵って、皆こんなスキルがあんのか?凄いなソシオ」
モッチーに誉められて嬉しくなるが、彼がとても優しくスズキを撫でているので不安も感じてしまう。
『モッチー、長毛種の方が好きなのかな』
思わず聞いてしまったが、モッチーは猫全般が好きだと言ってくれた。
でも、今の俺は猫の体じゃなくて人間の体だ。
すぐにそのことに気が付いて
「じゃあさ、俺みたいのも好き?」
また聞いてみる。
彼は何だかポカンとした顔をして俺を見ていた。

「俺、髪が短いし…これ以上、延びなくてさ
 俺はモッチーのこと好きなんだけどな」
彼の心が知りたくて、俺は必死になって言葉を続ける。
「会ったばっかだしよくわかんねー、つか、俺のどの辺が好きなんだ?」
逆に問い返されて、俺は自分の気持ちを上手く言葉に出来なかった。
『全部好き、格好いい、優しい』
俺は、そんなたどたどしい言葉しか返せない。
そうではない、表面的な事じゃなく、もっと深いところでモッチーを求めている。
この感覚を表現にするには、俺の言葉に対する知識はあまりにも足りなかった。
それでもこれだけは何とか伝えられた。
『しっぽやの仲間に対する「好き」とモッチーに対する「好き」は違う』
最初は驚いたような顔をしていたモッチーだったけど、俺の言葉を黙って聞いてくれた。

彼は少し笑って
「じゃあ、俺達、付き合ってみようか」
そう聞いてきた。
『付き合う』とは『友達より深い関係になること』だと教えてくれる。
それよりも本当は飼って欲しかったが、モッチーと関係を持てることは嬉しかった。
『付き合って』『深い関係になって』『飼ってもらう』ことが出来るかもしれない。
俺は嬉しくなってモッチーに抱きついた。
触れたところから、また体が甘くシビレていく。
「ちょ、スズちゃんがつぶれる」
そう言っていたが、モッチーは笑顔だった。
俺に触れられることを嫌がっていないようで、また嬉しくなる。

俺とモッチーに挟まれたスズキだけが、本気で嫌そうな顔をしていた。
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