しっぽや2(ニャン)

□幸運のお守り〈1〉
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俺も荒木先輩も、ミイちゃんの隣に座っている化生をチラチラと横目で見ていた。
パーカーにジーンズというラフな格好だが、どこか憂いを含んでいるような眼差しの煌びやかな美青年なので、猫なのだろうということは察しがついていた。
しかしその頭髪は、白髪に黒と茶の房が混じっているように見える。
「ミイちゃん、その化生は…?」
耐えきれなくなったのか荒木先輩が声をかけると
「ああ、ソシオは新入りではないのよ
 武衆の者ではないけれど、私の側仕えみたいなことをしてもらっているの」
ミイちゃんは優しい眼差しで彼を見る。
「初めまして、三毛猫のソシオです
 こちらのおかげで波久礼が付き合いやすくなって、助かったよ
 以前の彼は猫に対しても体育会系だったからね」
湯飲みを持ったソシオはにっこり笑った。

「「やっぱりー!!」」
俺と荒木先輩は興奮した声を上げてしまう。
「凄い!初めて見た!いや、ノルウェージャン見たのもひろせが初めてだったけど」
俺は思わず感嘆の吐息をもらしてしまった。
「凄い縁起良さそう!あの、ちょっとだけ触らせてもらって良い?」
「あ、俺も良いかな」
荒木先輩の頼みに俺ものっかる事にする。
お互いこの場に飼い猫と飼い犬が居ないので、ちょっと大胆になっていた。
「どうぞ」
快諾するソシオの頭を、荒木先輩と2人で撫でまくる。
「ありがたい、俺、大学合格出来てる気がしてきた」
「俺、このまま宝くじ買いに行きたい」
恍惚とした人間2人に頭を撫でられまくっても、ソシオは平気でお茶をすすっていた。

「2人とも、何やってんの?」
引き気味の日野先輩がジト目で俺たちを見ていた。
そんな日野先輩に
「「彼、三毛猫なんだよ」」
俺と荒木先輩は諭すように叫んでしまった。
「ああ、本人が言ってたし、毛色から見てもそうだろ」
俺達の剣幕に驚いたのか、日野先輩の声が小さくなった。
「「三毛猫の、雄なんだってば」」
これだけ言っても、日野先輩は訝(いぶか)しそうな顔で俺達を見るばかりだった。
「これ常識だと思ってたけど、猫バカだけの常識だったか
 日野、三毛猫の雄って、超貴重な存在なんだぜ」
「そうですよ、三毛猫ってほとんど雌で、雄は3万分の1の確率でしか生まれないんです
 クラインフェルター症候群って染色体異常が原因で生まれるんだけど…」
そこまで言って、俺はソシオの顔を伺った。
「俺、それ以外は健康体だぜ、多分
 生前、獣医に言われたんだ」
彼は何でもないことのように答えた。

「生まれる確率が低くて貴重だから『縁起が良い象徴』って言われてるんだよ
 招き猫のモデル、なんて話もあるくらいでさ
 昔あったネコのテーマパークみたいなとこの、マスコット的存在でもあったって親父が言ってたな
 母さんとデートで行ったんだって」
「それ、うちの両親もデートで何回か行ったって言ってました
 ネコだけじゃなくイヌとイタチと言うか、フェレットのもあったんですって
 でも、マスコット的存在が居たのってネコだけだったとか
 その当時から、三毛猫の雄ってそうとう珍しかったんですよ」
力説する俺達を見て
「猫バカの親って、やっぱ猫バカなんだ」
日野先輩は変なところに感心していた。
「とにかく、縁起良い存在だし日野も触らせてもらえば?」
荒木先輩が誘うが
「俺には、俺だけのラッキードッグがいるから大丈夫だぜ
 な、黒谷」
日野先輩はそう言って甘えるように隣に座る黒谷に抱きついた。
もちろん黒谷は幸せそうな顔で日野先輩を抱きしめ返すのであった。

「2人とも猫に詳しいのね、ソシオの事を紹介する手間が省けたわ」
俺達の寸劇(?)を見ていたミイちゃんが可笑しそうにクスクス笑っている。
「ソシオは化生してから長いのだけれど、屋敷から出たがらなくて
 武衆の者とも良い距離を保てているようだから、好きなようにさせているのよ
 今日はふかやの飼い主に会うためにこちらに来たのだけれど、珍しくソシオもしっぽやに行ってみたいって言い出したの
 何か予感があるのかしら?」
首を傾げたミイちゃんに微笑みかけられて
「さあどうだろう、俺にも良く分からないんだ
 何となくたまには外に出るのも良いかな、って思っただけでさ
 でも良いことはあった、アンコいっぱい食べられたから」
ソシオはモミジマンジュウを食べながら飄々(ひょうひょう)として答えている。
彼はかなりマイペースな猫のようだった。

「わかったわ、皆へのお茶菓子、もっと増やしましょう」
ミイちゃんはソシオに苦笑する。
それから俺を見て真面目な顔で
「今日はふかやの飼い主の能力を見せてもらうのだけれど、タケぽんも同席しますか」
そう問いかけてきた。
それを見ることは俺が持っているという『アニマルコミュニケーター能力』の参考になるに違いない。
「勉強させてください」
俺はミイちゃんに頭を下げた。
これはナリと波久礼、両方から猫とのコミュニケーションを習える、俺にとってまたとないチャンスなのであった。
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