しっぽや2(ニャン)

□心の師匠〈2〉
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side<TAKESI>

冬休み明け、今日は今年最初のバイトの日のため、俺は授業が終わると寒風に吹かれながらしっぽやに移動していた。
休み中に部屋に泊まりに行ってはいたものの、ひろせと事務所で顔を合わせるのは初であるので少し緊張してしまう。
『部屋にいるときのひろせは甘々で凄く可愛いけど、事務所で捜索を頑張ってるとキリッとした感じに見えるんだよな
 それが、俺の顔を見て笑ってくれるギャップが萌えると言うか
 いやもう、どんな表情でも、ひろせは可愛いなあ』
俺は事務所でひろせに会えるのが楽しみで仕方なかった。
『ヤバ、ニヤケた顔して事務所に行ったら日野先輩に何を言われるか分かったもんじゃない』
そのことに気が付いた俺は、表情を引き締めようと自分の頬を両手で叩き気合いを入れる。
今日は荒木先輩は予備校で休みだけど、日野先輩は午前の授業が終わったらバイトに行くと連絡が来ていたのだ。

『今年初の仕事…、また掃除かな
 年末に念入りにやっといたけど、あそこ出入りの人数多いせいか、何気に埃が溜まりやすいんだよな
 よし、お年玉代わりに買ってもらったクルクルワイパー、早速使ってみるか』
最近の俺は掃除のプロになりつつあり、俺専用に掃除道具を用意してもらっていた。
『それと、大掃除で出てきた未入力の古い報告書
 あれの入力も俺の仕事だっけ
 取りあえず、そっちが先かな
 今日中に入力と掃除、終わらせられるかな…
 いや、頑張って新年早々ひろせに良いとこみせるぞ!』
俺は自分に宣言すると、事務所のドアをノックして中に入っていった。


「明けましておめでとうございます
 今年もよろしくお願いします」
新年初なので、俺は元気に挨拶をする。
「明けましておめでとう、今年もよろしくね」
所長席で書類を書いていた黒谷が顔を上げ、にこやかに挨拶を返してくれた。
「明けましておめでとう、今年もこき使うからな」
パソコン入力の手を休め、日野先輩は二ヤッと笑って俺を見る。
「ほどほどに、お願いします」
俺は顔をヒキツらせ弱気な返事を返し、日野先輩に近付いていった。
「あ、その古い報告書、俺が入力しますよ」
先輩の手元を見て慌てて言うと
「いや、お前には別の仕事を用意してあるからこっちは俺がやるよ」
日野先輩は何だか意味ありげな顔をしている。
「じゃあ、今日はどこを掃除します?水回りとか?」
俺は首を捻って聞いてみた。
日野先輩は壁の時計を確認し
「そうだな、多分そろそろ来ると思うからお茶の準備でもしといてもらうか
 ポットに多めにロイヤルミルクティー作っといて
 俺は茶葉わかんないから、その辺は適当に
 お茶請けはカボス果汁入りの可愛いヒヨコ饅頭があるぜ
 お持たせだけど、まあ、良いか」
そんなことを言いながら、楽しそうに笑っていた。

『そろそろ来る?
 依頼の予約でも入ってるのかな?』
俺は疑問に思いつつも
「ロイヤルミルクティーにするなら、アッサムで淹れますね
 ウラが買ってきてくれた『カルカッタオークション』使うと美味いんだ」
そんなことを言いながら、控え室に移動する。
控え室のテーブルの上には、箱が2個置いてあった。
『これか、日野先輩が言ってたヒヨコ饅頭って
 「かぼちぃ」だって、名前も可愛い
 先輩のお婆さんからのお土産かな』
俺は荷物を置くと鍋を火にかけ、早速ロイヤルミルクティーを作り始めた。

沸騰したお湯に茶葉を入れたお茶パックを3個分投入し、煮出した後に牛乳を加える。
牛乳が沸騰する直前くらいで火を止めるのがコツだ。
冷めてしまうのが早いけどレンチンすれば良いので、最近は鍋で多めに作ったものを陶器のポットに入れて控え室に置いておくスタイルにしていた。
そうすれば捜索から戻った時間がまちまちでも、皆にロイヤルミルクティーを飲んでもらえるからだ。
これに粉末のジンジャーやシナモンを加えると、チャイ風になるのもお手軽で良かった。
『掃除のプロであり、お茶を淹れるプロでもある
 最近の俺って、何を目指してるんだろう…』
そう思わなくもなかったが、自分に出来る仕事が有ることは嬉しかった。


コンコン

お茶の準備が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、ノックの音が聞こえてきた。
「お帰りナリ、商談どうだった?
 さっきのバイクスーツは格好良かったけど、そのセーターも似合ってるね
 ふかやみたいにモコモコだ
 あ、ふかやが居ない間に、黒谷が1件仕事を片付けたんだよ」
日野先輩の弾んだ声に続き
「ただいま、って言っていいのかな
 そう言って帰れる場所があるって、良いね
 ペットショップとドッグカフェは来週から週1でやらせてもらえる事になったよ
 まだお試し、って感じだけどさ
 ふかやは途中で空と合流して捜索手伝ってるから、帰りがもう少し後になりそう」
優しく穏やかな声が聞こえてくる。
「空とふかやって、性格違うのに仲良いよね」
可笑しそうに笑う日野先輩に伴われ、初めて見る人が控え室に入ってきた。
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