しっぽや2(ニャン)

□何よりも甘く
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side<TAKESI>

昼休みの教室で俺が友達と弁当を食べてるとガラリと扉を開けて、クッキーこと久喜が入ってきた。
他のクラスからの侵入者に、教室内の好奇の視線がさりげなく向けられる。
クッキーは特に気にした様子もなく俺の席に近付いて来た。
そして手にしていたコンビニのビニール袋を俺にズイッと差し出すと
「まだ食ってる最中?
 良かった、デザートに間に合った
 これ、こないだのお礼
 今買ってきたばっかだから、まだ冷たいぜ」
そう言って笑顔を見せる。
袋の中を確認し
「『俺達のビッグプリン』じゃん!俺が帰る頃って、いっつも売り切れてて買えたためしがないんだ
 すげー、超ボリュームの400gカップ、伊達じゃねー
 ずっしり重いや
 良いの?俺が1番活躍してなかったのに」
俺は思わず顔が笑ってしまった。

「タケぽんには世話になったし、みっともないとこ見せちゃったからな
 他の人達は何が良いかわかんなくてさ
 日野先輩はこれ1個じゃぜってー足りないし、下手すると呼び水になって恐ろしいことになるから…」
クッキーはブルッと身を震わせる。
彼が目撃した『陸上部レジェンド』の日野先輩は、トラウマレベルの事をやってのけたようだ。
「今買ってきたって…そっちのクラス、授業早く終わったの?」
クッキーの言うとおり、袋から取り出したプリンはヒンヤリとしている。
まだ昼休みになってから20分と経っていなかった。
「そんなわけないじゃん、授業終わってからひとっ走り行ってきたんだ
 なるたけ揺すらないよう気を付けてたし、それってミッチリ入ってるから崩れてないだろ?」
「ひとっ走り…」
うちの学校の陸上部ってレベル高いんだな、と俺は戦慄と共に思ってしまう。
そして、体育会系のクラブには絶対に入らないようにする決意を固めた。

「じゃあ、ありがたくちょうだいするよ
 また何かあったら、声かけて
 俺に出来そうなことなら駆けつけるから
 でも、部活の助っ人とかは無理だけどな」
「運痴に助っ人頼むほど、うちの部は人員に困ってないって」
クッキーの返事で、俺はありがたいようなバカにされているような、複雑な気分になった。
「今日もバイト?頑張れよ」
クッキーは周りを見渡しながら声をひそめて応援してくれる。
「頑張るぜ、って、俺は普段捜索には出てないんだけどさ」
俺も声をひそめて返事を返す。
他の奴が知らない秘密を共有する関係は何だか楽しくて、俺達は意味ありげに笑ってしまう。
「じゃあ、また」
クッキーは自分のクラスに帰って行った。

「タケぽんって、久喜と仲良いんだ」
同じクラスの陸上部の友達が、意外そうな顔で話しかけてくる。
「うん、最近ちょっとね
 あいつ、ドーベルマン飼ってるじゃん
 うちは猫だけど、同じペットと暮らす者同士として話が合うってゆーかさ」
俺のビミョーに曖昧な返事に
「ああ、ペット自慢しあえる関係ってやつ?
 3年の先輩が、古文の先生が何かっつーと授業中に猫自慢ねじ込んできてウゼーって言ってたっけ」
友達はすんなり納得してくれた。

冬でも教室内はそこそこ暖かかったので、俺は貰ったプリンを弁当のデザートとして堪能した。
『俺の、初めての捜索の報酬』
そう思うと美味しさも一際(ひときわ)だった。
『でもこれ、貰い過ぎだよな、俺、何にも出来なかったのに…
 来年の夏休みにはミイちゃんとこで、修行させてもらおう
 んで、俺の仕事は今は捜索に関係なくても、今日もバイト頑張ろう』
俺は心にそう誓うのであった。


授業が終わった放課後、荷物をまとめ終わって教室を出るとクッキーと日野先輩が立ち話をしていた。
部活関係の話らしく、日野先輩がクッキーにプリントの束を渡している。
日野先輩は俺に気が付くとクッキーに手を振って、こちらに近付いてきた。
「今から出勤か?
 今日はちょっと頼みたいことがあるんだよ
 黒谷と大麻生が勝負してるの知ってるよな
 その判定して欲しいんだ」
先輩が言い出した言葉を、俺はイヤな予感とともに聞いていた。
「確か、捜索勝負でしたっけ?
 荒木先輩が、2人の捜索状況プリントアウトしとけって言ってました
 2人とも最近頑張ってますよね」
俺は予感を押し殺し、当たり障りのない返事を返す。
「いや、捜索勝負だと判定基準に不公平が出るじゃん
 黒谷は所長だから、何だかんだ言っても大麻生より事務所空けられないしさ
 『どっちが格好良いか』って勝負に変更になったから」
日野先輩は神妙(しんみょう)な顔をして、とんでもないことを言い出した。

「まあ、黒谷の圧勝が目に見えてるから、大麻生には可哀想だけどな」
もっともらしく頷く日野先輩を見て
『今日って、ウラも荒木先輩も出勤じゃん
 予知能力とか無いけど、これ、俺にとって不幸な未来しか見えてこない』
俺は目の前が暗くなり、倒れそうな気分になった。
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