しっぽや2(ニャン)

□美しい(バカ)先輩
1ページ/4ページ

side<TAKESI>

「タケシ、大麻生が正式に飼っていただけることになったんですって」
しっぽや事務所の所員控え室で、俺の恋人兼飼い猫のひろせが美しい顔を輝かせ、嬉しい報告をしてくれた。
大麻生は、ひろせが化生した直後にミイちゃんのお屋敷で暮らしていたとき、可愛がってくれていたシェパードの化生だ。
その縁で、彼がミイちゃんのお屋敷からしっぽやに来た後は、俺も親しく付き合っていた。

「今日、大麻生が休んでるのって、それでなのか
 あのキレイなお兄さんに、飼ってもらえることになったんだね」
俺は1回だけ会ったことのあるその人の顔を思い出していた。
「お祝いに、昨日焼いたクッキーを持って行ってみようかな
 飼い主さん、甘いもの好きだと良いけど」
ひろせはソワソワしている。
大麻生に飼い主が出来たことが、嬉しくて仕方ないのだろう。
新しい飼い主にも興味があるようだ。
実は俺も、興味はあった。
大麻生は超が付くほど真面目な化生だが、あのお兄さんは
『何かちょっと軽薄と言うか、チャラく見えたんだよね…』
失礼ではあったが、俺はそんな風に感じてしまっていたのだ。
大麻生をちゃんと飼えるのか、化生という存在を真摯に受け止めているのか気になっていた。

「行くなら、俺も一緒に行っていい?」
伺うように聞いてみると
「もちろんです、僕一人で行ったら、大麻生に延々自慢話を聞かされそうだもの」
ひろせは笑いながら答えてくれた。
「良かったら大麻生の部屋に行った後、泊まっていきませんか
 話し込んだら、遅くなっちゃうかもしれないし」
今度はひろせが伺うように聞いてきた。
「あ、う、うん、そうしよっかな」
大麻生をダシに使うみたいで少し申し訳なかったけど、俺はその提案にのることにする。
急遽ひろせの部屋にお泊まりが決まり、その後の俺は浮かれた状態でバイトに精を出すのであった。



業務終了後、影森マンションのひろせの部屋に2人で帰り、ひろせお手製お菓子詰め合わせを持って大麻生の部屋を訪れた。
「どうぞ、お上がりください」
大麻生に促され、俺達は少し緊張しながら部屋に入っていった。
「あ、前にお菓子くれた可愛子ちゃんと、彼氏君じゃん
 あのお菓子、美味しかったよ
 そっか、もしかして可愛子ちゃんって化生ってやつ?
 俺並の美形なんて、そうそう居ないもんな
 彼氏君は人間だろ、化生みたいな煌めきオーラ出てないし」
大麻生の飼い主は、美しい顔でカラカラと笑いながら指摘する。
チャラく見えても、洞察力はあるようであった。

「はい、あの、ひろせの飼い主の武川 丈志(たけかわ たけし)です」
俺が頭を下げると
「何だか『タケ』がクドい名前だな
 俺は大麻生の飼い主の山口 浦(やまぐち うら)でーす
 『ソウちゃんの飼い主』だって、自分で言ってて照れるぜ」
山口さんは嬉しそうな顔で大麻生の腕にしがみついた。
しがみつかれた大麻生は、もっと嬉しそうな顔になる。
こんな大麻生の顔を見るのは、初めてだった。
俺が心配するまでもなく、この2人はきちんと飼い主と飼い犬になっていることがうかがえた。

「名前の『タケ』がクドいのは、前にゲンちゃんにも言われました
 俺のことは『タケぽん』で良いですよ」
「確かに、ゲンちゃんが言いそう
 俺は『ウラ』でいいよ
 よろしくな、タケぽん」
ウラは既にゲンちゃんと顔馴染みのようだ。

「タケぽんって、仕事とかしてる?」
ウラは少し伺うように俺を見る。
「しっぽやで、バイトしてます」
「バイト?もしかして、まだガッコー行ってんのか
 大学院とか言うんだっけ?お前、頭良いんだな」
俺の答えで、ウラはため息を付く。
ちみっこ先輩達と知り合ってから大学生だと思われたことはよくあったけど、大学院生だと思われた事は初めてだ。
自分がどんどん老けていく気がして、俺はガックリしてしまう。
「俺、この春、高校に入ったばっかです
 日野先輩と荒木先輩には会いましたか?
 あの2人と同じ高校行ってます」
そう告げるとウラの動きが止まり、瞳が驚愕に見開かれた。

「高…校…?春に入ったって事は、1年生…?
 いや待て、俺、算数苦手だから計算間違ってんのかも
 ああ、夜学ってとこだと年齢関係ないんだっけ
 日野ちゃんって、夜学だったのか?」
ウラはかなり混乱しているようであった。
「俺、今16歳です」
数字を伝えた方が分かりやすいかと年齢を教えると
「…マジ?十代?!ってことは、俺より5こも下かよ!
 日野ちゃんの親、って言われた方がまだ納得できるんだけど
 お前、マジ、パネェな!」
驚き過ぎているのか、ウラに変な感心をされてしまった。
あまりに失礼な言いぐさではあったが、あの童顔先輩達を見ていれば仕方がない。
俺は力なく笑うことしか出来なかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ