しっぽや2(ニャン)

□タケぽんの夏休み
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ワッフル屋を出ると映画のチケットを買って、俺達はキッチン用品を取り扱っていそうなお店を見て回った。
これが母親や妹と一緒だったら、その長い買い物時間にウンザリしてしまうところであったが、ひろせと一緒だと普段は気にもしない店を見て回るのが楽しかった。
『ひろせの部屋で使う』と想像するだけで、ワクワクしながら選ぶことが出来る。
『何だか新居を構える新婚って感じ』
ふとそんな考えが頭をよぎり、俺は1人照れまくってしまった。

あちこち見ていたら、お目当てのワッフルメーカーを取り扱っているお店を発見できた。
電気屋ではないので種類は少ないけど、実際に見て選べるのは良さそうであった。
「これ、プレートを代えればホットサンドや鯛焼きも作れるんですって
 焼きドーナツ用のプレートも売ってる
 オリジナルで色々な味の物が作れそうです」
ひろせが目を輝かせて商品を手に取っていた。
そんなひろせを見ていると、俺も心が浮き立ってきた。
「買ってみる?ひろせに色々作って欲しいな」
「ボーナス出たし、思い切って本体とプレート4枚買います
 使いこなせるよう頑張るので、味見の方、よろしくお願いしますね」
ひろせは悪戯っぽい笑顔を見せてくれた。

「今日、泊まっていってくれるんですよね
 早速これで、明日の朝食を作ってみます
 そうだ、家にホットケーキミックスはあるけど、せっかくだからワッフルミックスを買っていきたいな
 今度は食品売場に行ってみても良いですか?
 ワッフルにのせる物も一緒に選んで欲しいんですが
 僕が欲しい物ばっかり見て回ってて、退屈かな」
ひろせがおずおずと聞いてくるので
「自分でのせるもの選べるなんて、嬉しいよ」
俺は安心させるように笑って見せた。
ひろせは頬を染め、うっとりとした顔で俺を見つめてくれる。
それから俺達は食品売場に移動して、あれこれ物色していった。
近所では売ってない珍しい食材もあり、どうやって食べようか、と言ったたわいない話をしながらの買い物はとても楽しかった。

ひろせが熱中症にならないよう、予防できるようなグッズも見て回る。
「ひろせって、体の機能は人と変わらないんだよね」
「はい、黒谷からそう聞いてます
 以前に、お医者さんに調べてもらったらしいですよ
 その先生はもうお亡くなりになってしまったそうですが、化生の飼い主だったんですって
 だから、自分の飼い犬の健康のためにもしっかり調べていたって」
その医師の話は、俺も先輩達から聞いたことがあった。
「そっか、なら俺が使えそうなグッズを選べば大丈夫そうだ」
取りあえず、濡らして首に巻いておけばヒンヤリするタオル、塩飴、岩塩、ブドウ糖、スポーツドリンクの粉末をチョイスしてみた。
「スポーツドリンクも飲み過ぎると体に負担がかかるらしいから、麦茶や水と併せて飲むと良いよ
 曇ってても蒸し暑い日なんかは、知らないうちに汗いっぱいかいてるんだって
 太陽が出てなくても気をつけて水分補給してね」
俺の言葉に、ひろせは神妙な顔で頷いていた。

その後、映画を見るためフロアを移動する。
上映後はレストラン街が閉店しいる時間のため、あらかじめ売店で軽食を買って映画を見ながら食べた。
それは俺も初めての経験だったので、ホットドッグとフライドポテトとはいえ、特別に美味しく感じられた。


帰り道、俺達は今日の出来事を話し合った。
「映画のスクリーンって、あんなに大きいんですね
 白久から話は聞いてましたが、テレビとは迫力が違います」
興奮するひろせに
「内容、面白かった?話とかわかったかな?」
俺はそう聞いてみる。
「はい、飼い主が留守の時は寂しいけれど、あんな風に仲間内で自由に過ごしてみたい気持ち、ちょっと分かります
 僕もあのお方が留守の間、ボルドーとブルゴーニュがつまみ食いするのを分けてもらったりしてました」
ひろせはクスッと笑う。
「あ、でも、今はずっとタケシと一緒に居たいですよ
 一緒に暮らせるようになれば、しっぽやからの帰り道にいつもこうやってお話ししながら歩けるんですよね」
「俺も、早くひろせと暮らしたい」
そんな未来を思い描くと、俺の胸は高鳴った。

「今日は色々買いすぎてしまいました、重くないですか?
 エコバッグとか持ってくれば良かったな」
俺を見るひろせが、少し心配そうな顔になる。
ひろせに良いところを見せたくて、重い物はほとんど俺が持っていたのだ。
「これくらい大丈夫だよ、急なデートだったもんね
 ひろせ、楽しかった?」
「飼い主とのお買い物デート、とても楽しかったです」
こんなことくらいで嬉しそうな顔をするひろせを見ていると、いじらしくてたまらなくなる。
「また行ってみよう、夏休みだもん時間はいっぱいあるよ」
「はい!」
ひろせは嬉しそうに笑った後、頬を染めて
「それで、あの、この後、帰ったら、してくれますか…?」
モジモジと聞いてきた。
「明日は休みだから、時間を気にしなくても良いし
 その…頑張っちゃって良いかな」
俺もドキドキしながらそんな返事を返す。
顔が熱いのは、夏の暑さのせいだけではなかった。
「期待してます」
ひろせの囁くような返事で、胸のドキドキが増していった。

荷物が多くて手は繋げないけれど、俺達は心を繋げてマンションに帰って行くのであった。


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