しっぽや2(ニャン)

□ひろせの夏休み
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僕達はまた手を繋いで夜を歩く。
「タケシと一緒に行ってみたいお店があるんです
 今夜の夕飯は、外食で良いですか?
 もちろん、代金は僕が支払いますから」
タケシはいつも僕の料理を楽しみにしてくれている。
何も用意していないとガッカリされるんじゃないかと、僕は少しビクビクしながら聞いてみた。
「2人っきりで外食?何だか本格的なデートみたいだね」
タケシは照れた顔で笑った後
「ひろせとお店でご飯食べたいよ
 いつも作ってもらうばっかりで、悪いなって思ってたから
 たまにはひろせも、ノンビリした状態で食べたいだろ
 代金は割り勘にしよう、半分こだ」
そう言って悪戯っぽくウインクしてくれた。
やっぱりタケシは僕を喜ばせる天才だ。
「はい!」
僕は嬉しくてたまらなくなる。
「タケシがお店を気に入ってくれると良いな」
「ひろせが気に入っている店なら、絶対良いお店だよ
 楽しみ」
暖かい想念を感じあいながら、僕達は足取り軽く歩いていった。


「この店なんです」
ドキドキしながら僕が店の前で立ち止まると
「あ、もしかしてここって、ドッグカフェ?
 荒木先輩と白久がたまに行くって言ってたお店だ
 こんな時間まで営業してるんだね」
タケシは少しビックリした顔になった。
「行ってみたいなって思ってたんだ
 連れてきてくれてありがとう」
明るい笑顔を見せてくれたタケシに、僕はホッとする。
「空がここのお店を教えてくれたんです
 ドッグカフェに来る犬はむやみに猫に吠えかからないから、触らせてもらえるよって
 空、ここのお店の顔って感じなんですよ
 だからすぐにお友達が出来ました」
「へー、空って良い奴だよね
 黒谷が言うほど、バカ犬じゃないと思う」
タケシは感心したように頷いた。

店内に入ると、タケシは物珍しそうに辺りを見渡している。
僕達は空いているテーブルを見つけ、そこに腰掛けた。
「こっちが人用のメニューです
 空のお勧めはローストビーフサンド
 カズハさんはパスタがお気に入りなんですって」
僕がメニューを差し出すと
「荒木先輩のお勧めってこれだ、エビとアボカドのサンド
 うわー、この肉球ケーキって美味しそ可愛い!
 どれも美味しそうで、悩むなー
 ひろせは何がお勧め?」
タケシはそう聞いてきた。
「僕はフィッシュフライのタルタルサンドが好きです
 ここのタルタルソース、絶品なんですよ
 パスタはトマトクリームが美味しいと思います」
「じゃあさ、両方頼んで半分こしよう
 おっと、野菜も食べなくちゃ、生ハムのシーザーサラダでも頼もうか
 後、ケーキは3個くらい頼んじゃう?」
「手作りプリンもお勧めです、今日は豪勢にいきましょう」
僕の言葉にタケシは笑顔で頷いて、デザートを沢山注文してくれた。

料理が運ばれてくる間、僕達は馴染みになった犬達に挨拶して回る。
「マミさん今晩は、カーターさんお久しぶりです
 コンタさんも来てたんですね」
小型犬、中型犬、大型犬、彼らを撫でて回りながら
『僕も、今日は飼い主と一緒なんですよ』
僕は誇らかで喜ばしい報告をしていた。
一緒に歩いているタケシに
「今晩は、ひろせちゃんのお友達?」
飼い主の方が親しく声をかけている。
「はい、ここのお店のことよく聞いてたから来てみたかったんです
 良いお店ですね」
「犬連れでなくても、動物好きな人なら大歓迎よ」
「料理が美味しいし、雰囲気良いからゆっくり出来るしね」
人間同士も話が弾んでいるようで、僕は嬉しくなった。

料理が運ばれだしたので、僕達は席に戻っていった。
「俺も、猫連れで来てることになるのかな
 何か、不思議楽しい」
タケシはクスクス笑いながら小声で囁いた。
「僕も、猫なのにドックカフェに飼い主と来れるなんて楽しい」
僕達は顔を見合わせて、笑い合った。

「わ、ここのタルタルソース、本当に美味しいね
 俺、ゆで卵入ってるタルタルって好きなんだ」
サンドイッチを食べながら、タケシが感心した声を出す。
「僕も真似して作ってみたことがあるんですが、やっぱりここの味にはかないません
 ゆで卵、タマネギ、ピクルス、パセリ、他に何が入ってるんだろう
 マヨネーズが違うのかな、ビネガーとか香辛料かな?」
僕は首を傾げてしまう。
「やっぱ、プロにしか出せない味があるんだよ
 でもさ、シーザードレッシングはひろせの方が美味しいよ
 ここのは俺には酸味が強いや」
タケシの言葉が、暖かく僕の胸に染み渡っていく。
「タケシの好みの味を作れるよう、精進します」
僕がそう言うと、彼は嬉しそうに笑ってくれた。

その後デザートのケーキとプリンを堪能し、僕達は影森マンションに帰る。
「夜の散歩、楽しかった
 今まで俺、早くひろせの部屋に行きたくて、焦りすぎてたかなー
 もっとドッシリかまえて、いろいろ楽しまなくちゃね」
舌を出すタケシに
「でも、僕もいつもタケシと早く2人っきりになりたいと思ってました」
僕はそう言って笑ってみせた。
タケシも微笑むと、そっと僕にキスをしてくれるのであった。
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