しっぽや2(ニャン)

□胸の決意
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翌日、私と明戸は3時過ぎにしっぽやを上がらせてもらった。
「買い物の荷物持ちするから、動きやすくて汚れても良い服の方がいいよ」
そう日野にアドバイスをもらうものの、それがどのような格好のことかさっぱりわからない。
戸惑う私達に、日野が何とかコーディネイトしてくれた。
それは、普段組み合わせて着ることがないような服装で、私達は物珍しく感じてしまった。
「ここのクローゼットって、カッチリした服が多いんだよな
 黒谷、もうちょっとラフに着れるやつも入れといて
 飼い主居ない化生用にさ」
「そうですね
 今までは『これを着てれば怪しく見えない』と言う服をゲンに選んでもらってましたから
 日野に飼ってもらって『ラフ』やら『カジュアル』やら言うスタイルを知ると、ちょっと堅苦しいかなとは思ってたんです」
「でも、黒スーツの黒谷って格好良くって好きだよ」
「僕は所長ですからね、この方が威厳があって良いかと」

日野と黒谷のやりとりを、私達は不思議な気持ちで聞いていた。
「ボタンは、閉めたほうがよろしいのでしょうか」
シャツをいじりながら問いかける私に
「そのままで良いって
 黒いシャツから白いインナーが見える、その方が2人にもしっくりくるだろ?」
日野は笑いかけてくれる。
確かにこの色合いは、落ち着くものがあった。
「俺たちを見分けるのに、ネクタイした方が良い?」
明戸が首を捻った。
そう言えばお父さんはお酒に酔うと、首輪をしていても私と明戸を見間違えることがあったっけ、と懐かしく思い出す。
「あ、そっか、流石に目印無いとわかりにくいかも
 でもその格好にネクタイは斬新すぎてダメ
 そだ、これ付けると良いよ
 最近タケぽんがハマってるメーカーの缶バッジ
 『化生が付けると可愛い』って、こないだ置いてったんだ
 スーツに缶バッジは無いと思ってたんだけど、意外なところで役に立つな」
日野は青と緑のバッジを手渡してくれた。
そこには肉球の柄が描かれている。
「白久も言ってたけど、人間ってのは本当にこれ好きだね」
明戸がバッジをシャツに付けながら、カラカラと笑った。


私達は財布とエコバッグを入れた鞄を持ち、駅に移動する。
いつもと違う服装なので他の人に怪しまれていないか不安だったが、特に注目されることなく移動できた。
「猫の時は着替えなくて良いから気が楽だったぜ」
ため息を付く明戸に
「でも、新しい首輪にした後、あのお方に誉めて貰えるのは好きでしたよ」
私は笑って答えてみせた。
「まあな」
明戸も笑顔をみせる。
「この格好、お婆様に誉めていただけると良いですね」
「うん」
私達は期待と不安を半分に、日野のマンションに向かった。

玄関で出迎えてくれたお婆様は
「わざわざ来てくれて、ありがとう
 あら、2人とも、今日は可愛らしい格好なのね
 そーゆーのも、似合うわ」
目を細めてそう誉めてくださった。
それだけで、私は幸せな気持ちになってくる。
「今日の買い物は私達に任せてください
 お婆様は何が欲しいか、指示をお願いします」
「お金のことは気にせず、好きな物を何でも買ってください
 いつも良くしていただいているお礼です」
頭を下げる私達に
「日野に聞いてはいるけれど…やっぱり申し訳ないわ」
お婆様はオロオロとしてしまう。
「お気になさらずに、さあ、最初はどの店に行きましょうか」
「同僚にも借りて、エコバッグもいっぱい持ってきました
 車に詰め込めないので、2人で両手で持てる分しか買えませんけどね」
強引に押し切られたかたちのお婆様が
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ
 あちこち行くの面倒だから、スーパーで全部買っちゃうわね」
少し苦笑しながら私達を従えて歩き出す。
私達はワクワクしながら、その後ろ姿に着いて行った。


マンションからほど近い大型スーパーに到着すると、お婆様はカートを用意する。
「今日はキャベツが安いの、後、キュウリとトマト
 モヤシがタイムセールで1袋18円ですって、後10分くらいで始まるわ
 お一人様1個までだけど、3人いるから3個買える
 皆で買い物できるとお得ね」
お婆様は嬉しそうにウフフッと笑った。
「お醤油とお豆腐も買わなきゃ、ショウガとネギと…
 ワカメも欲しいわね
 日野のお弁当用に海苔とソーセージとミートボールにハンバーグ、カニカマ、プチトマトブロッコリーにアスパラガス
 卵にハムにベーコンも
 オヤツにはバナナ、オレンジ、プラムなんか良いわね
 グレープフルーツもあればマリネにも使えるわ
 ママがね、あ、ママって日野のママ、私の娘ちゃん
 グレープフルーツで作るマリネ好きなの」
スーパーに入ったお婆様は、生き生きと品物を選び出す。
その楽しそうな様子に、私達も気分が高まっていくのであった。
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