しっぽや2(ニャン)

□初めての2人
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「しかし水曜って、思いっきり週の真ん中だな」
日野先輩が苦笑する。
「そうなんすよ、でも、学校休むのもちょっとなーって」
俺も苦笑して頭をかいた。
「誕生日の日は記念日だもんね
 少しでも長くひろせと一緒にいて、夏休みになったらゆっくり泊まりに行けば?」
荒木先輩の言葉に
「はい!そりゃもう、ちょいちょい行こうかと!」
俺はつい勢い込んで答えてしまった。
2人の先輩達は、ニヤニヤしながら俺を見ていた。

「1年の時の夏休みは、のんびり出来るからなー
 俺も白久のとこ行きたいけど、さすがに予備校行っといた方が良いのかなとか
 ちょっと悩むよ
 まあ、合宿とかあるハードなとこは行きたくないけどさ
 お前は予備校行く?」
荒木先輩に聞かれ
「本当は部活引退する前に、秋の大会に出たいんだ
 いつも夏に体調崩して、調整間に合わなかったから出たこと無いんだよね
 今年は、黒谷がいるからきっと体調崩さないと思う
 でも、トレーニングしながら予備校行ってたら、バイトの時間減るし…
 そうすると高校生最後の夏休みなのに、黒谷に会える時間が少なくなっちゃうな」
日野先輩は少し悲しそうに俯いた。
「日野、僕はいつまでだって待っています
 今しかできないことを優先し、悔いのない夏休みを過ごしてください
 それに、全く会えなくなる訳じゃありませんからね
 せっかくお父様に頂いたお守りを、無駄にしてはいけません」
黒谷が日野先輩の手を握り、熱く語りかける。
「うん、受験に落ちて次の年の夏もグダグダになりたくないから頑張るよ
 また待たせちゃうけど、ごめんね」
2人は熱く見つめ合って、自分たちの世界に入っていた。

「タケシ、誕生日のお祝いのご馳走は何が良いですか?
 僕に作れそうなものならチャレンジしてみます」
ひろせが、はにかみながら話しかけてきた。
「ひろせの作る物は、何でも美味しいからなー
 お任せで良いよ」
俺は今まで何度か泊まりに行って、ご馳走になった物を思い出していた。
「いつも洋風なので、今回は和風にしてみようかな、と思ってるんですが
 あ、でも、ケーキは洋風かな
 バランス悪いですか?」
心配そうに聞いてくるひろせに
「ううん、和洋折衷って豪勢でいいじゃん!」
俺は勢いよく首を振って答えた。
「それでは、タケシの好きそうな物を色々作ってみます」
そう言って輝く笑顔を見せるひろせは、本当に可愛かった。

「あーあ、白久、早く帰って来ないかな」
俺と日野先輩に当てられたかたちの荒木先輩が、あられを食べながらつまらなそうに呟いていた。



そして、待ちに待ってた誕生日の日がやってくる。
15歳と16歳じゃ何だか凄く違っているように思っていたが、実際になってみると特に変わりは感じられなかった。
『なんかこう、もうちょっと「大人」になれるかと思ってたんだけど
 ゲームとかでレベルアップするのとは、全然違うや』
今となっては、その考え自体がガキだったと気が付いた。
『俺、ちゃんとした大人になれんのかな』
そんな不安も感じてしまうが、しっぽやに関わる人達を見ていればきっと大丈夫だろうと自分に活を入れる。
周りに手本になるような大人が多いのは、とても幸運なことなのだ。
『やっぱ、目指すのはゲンちゃんだ!
 ナガト、いつも幸せそうだもん
 俺もひろせに、あんな風に幸せな顔になって欲しい』
俺はいつもの鞄と共に、お泊まりセットが入ったバッグを持つと胸を弾ませて学校に向かうのだった。


授業中は上の空、と言った感じで、長いような短いような時間が過ぎていく。
授業が終わると手早く荷物をまとめ、俺は愛する飼い猫の元へ一目散に駆けつけた。

ピンポーン

チャイムと同時にドアが開き、嬉しそうな笑顔のひろせが出迎えてくれた。
「タケシ、いらっしゃい
 誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
俺達はそんな挨拶を交わし、軽く唇を合わせた。
「お腹は空いてますか?
 少し早いけど、もうご飯にしちゃう?
 先にシャワーで汗を流してサッパリする?」
ひろせが首を傾げて聞いてくる。
『これは!有名な「それともア・タ・シ?」的な展開?!』
そんな俺の思いを読んだのか
「アタシ?何だろう?ごめんなさい、それは用意してないです」
ひろせはオロオロし始めた。
「ごめんごめん、何でもない
 今日は暑くて汗かいたから、シャワー使わせてもらうね」
俺は慌ててそう言うと、シャワールームに向かった。

シャワーを浴びて脱衣所の鏡を見ると、自分がかなりニヤケた顔をしているのがわかり恥ずかしくなってくる。
『大人になるって、遠い…』
思わずため息を付くと同時に脱衣所のドアが開き、ひろせが入ってきた。
俺の心臓が激しく跳ね上がる。
『まだ一緒にシャワーとか浴びる勇気が!』
シャワーを浴びた直後だというのに、緊張のあまりまた汗が噴き出してきた。
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