しっぽや2(ニャン)

□初めての2人
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side<TAKESI>

7月に入ってからの俺は、部屋のカレンダーと睨めっこしっぱなしだった。
しかし何度見ても
『今年の俺の誕生日って、水曜日…』
そう確認するたびに、気分が今一盛り上がらないのだ。
誕生日にはひろせがご馳走を作ってくれると言っていた。
そして、そのままひろせの部屋に泊まって…
せっかくの初めての…何と言うか…体験…なのに、次の日も学校があるのではビミョーに気忙しい。
『かと言って、学校休むのもなー』
考え込む俺の足下に、銀次がすり寄ってくる。

『タケ…ボクだってタケのこと…好き』
頭をグイグイ押しつけながらそんな想念を送ってくる銀次を、俺は抱き上げてやった。
最近では修行の成果が出て、銀次の想念が少しは読みとれるようになっている。
『俺も、銀次のこと好きだよ』
そう伝え頭にキスをしてやると、銀次は機嫌を直してノドを鳴らし始めた。
今の俺は道行く猫にも好意的に見られることが多くなり、人生最大のモテ期到来、といった感じになっている。
『うん、まあ、猫にしかモテてないけど…』
それに、俺の猫師匠とでも言うべき波久礼のパワーに比べたら驚くほどの状態でもなかった。

「おっと、もうこんな時間だ
 学校行かなきゃ、銀次、行ってきます」
俺はもう1度、銀次の頭にキスをして慌てて家を出た。



放課後、俺はバイト先であるしっぽやに向かう。
先輩と同じ場所でバイトしている事がクラスメイトにバレると面倒くさそうだったので、事務所に行くときは一人で行くようにしていた。
先輩達もその辺は察してくれていて、下校中の道路や駅で見かけても特に声をかけては来なかった。
しっぽや最寄り駅に着き、改札を抜け暫く行くと
「タケぽん」
後ろから声をかけられる。
「同じ電車だったな」
そこには荒木先輩と日野先輩がいた。
「丁度良いや、買い出ししてから事務所に行こ」
「荷物持ちが居てくれると助かるからな」
先輩達は二ヤッと笑う。
「はいはい、お供しますよ
 ってか、先輩達と買い物してると俺が後輩こき使った上、奢らせてるみたいに見えるから、金は俺が立て替えておきますね」
背が低く童顔の先輩達に、俺は肩をすくめてみせた。

「何だよー、俺だって去年より1cmは背が伸びてたんだからな」
「いや、俺だって1cm伸びたし」
そんな事を言い合っている先輩達に
「あー、そういや俺、去年より6cm伸びてました
 この制服、卒業するまで着れるかな
 制服の直ししなきゃいけないかも
 中学の時、直しじゃ間に合わなくて買い換えしたんすよ
 わざと伸びた訳じゃないのに親に怒られて、お年玉半額没収されてさー
 酷くないっすか?」
俺は思わず愚痴ってしまう。
先輩達は俺をとても冷たい目で見つめた後
「やっぱ、低温殺菌牛乳かな」
「いや、日光に当たってる物の方がカルシウムの吸収率が良いんだ
 煮干しだな、海苔とか」
俺を無視して会話を続けている。
良い先輩達ではあるのだが、身長のことになると熱くなりすぎるのが難であった…

しっぽや近くのスーパーで、俺達はお茶菓子やアイスを買い込んだ。
「甘い物はひろせが作ってきてくれるから、助かるよ
 茶葉はカズハさんが分けてくれるし
 うちの事務所のお茶の時間って、豪華!」
「こんな良いバイト先って、ちょっとないよな」
その意見には、俺も激しく同意してしまう。
恋人と飼い猫と美味しいおやつ付き、将来の職場としても最高の環境であった。

俺達3人がしっぽや事務所に到着すると
「お、今日は皆一緒だね」
所長席から黒谷が笑顔を向けてきた。
「荷物持ちがいたから、アイスいっぱい買ってきたんだ
 捜索に出てないメンバーで、先に食べちゃおう」
日野先輩に笑顔を向けられた黒谷が幸せそうに頷いている。
「タケシ」
すぐに控え室からひろせがやってきた。
愛する恋人の登場に、俺も黒谷のように緩んだ顔になってしまう。
「私たち以外、捜索に出ているのですよ
 お先に頂きますね
 あ、ピーノだ、あのお方がお好きでしたっけ
 明戸、半分こしましょう」
「よしきた!懐かしい菓子を見るとホッとするのは、ジジムサイかねー
 あのお方達が食べていた物がまだ残っているのは、郷愁を感じさせてさ
 若いひろせとタケぽんには、わかんねーだろうなー」
ひろせに続き控え室から姿をあらわした双子の皆野と明戸が、俺達を見てクツクツと笑った。

買ってきたお茶菓子を棚に入れ、選んだアイス以外を冷凍庫にしまう。
事務所のソファーでアイスを食べながら
「あの、俺、来週の水曜日が誕生日なんです
 ひろせと一緒にお休みもらって良いですかね」
俺は上目遣いで黒谷に聞いてみた。
「もちろん大丈夫だよ」
黒谷は笑って頷いてくれる。
「ひろせの分まで、俺達捜索頑張るぜ」
「俺達も、タケぽんの分まで頑張るからゆっくりしなよ」
双子や先輩達の頼もしい言葉に
『ここの人達って、本当に良い人ばっかりだ』
俺は何度目になるかわからない感動を覚えるのであった。
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