しっぽや2(ニャン)

□ずっと一緒
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side<SATOSI>

『今日も、遅くなってしまった
 さすがに、2年生を受け持っていた時と同じ様にはいかないか』
そんな思いで焦るように、俺は学校を出ると足早に帰路に就く。
『部活の顧問をすると、もっと忙しくなるんだろうな』
職員室にはまだ残っている同僚もいた。

最近の俺は、羽生とゆっくり出来る時間が減っていることに、引け目を感じていた。
子猫だった羽生を飼っていたとき、俺は1日1回しか会いに行ってやれなかったのだ。
その時と同じ不安を感じさせているのでは、そんなことが気になって仕方がない。
1日の大半を1匹で過ごさなければならなかった子猫時代の羽生を思うと、切なくなってくる。
『しかも、あんな少量の牛乳で育つと思っていたなんて
 あのときの俺は、大バカ野郎だ』
最近子猫を飼い始めた田中先生自慢の成長記録写真を見ると、健康に育てられている子猫と羽生の違いに改めて気づかされた。
羽生を飼っていたのは中学生の時の事とは言え、自分で自分を殴りたくてしかたがなかった。


ピンポーン

影森マンションの自分の部屋に帰り着くと、俺はチャイムを鳴らす。
羽生はすぐにドアを開けてくれた。
化生は気配で飼い主が帰ってきた事を察することが出来るので、チャイムと同時にドアが開くこともしばしばあるのだ。
「お帰りサトシ、お疲れさま
 すぐご飯にするね」
羽生はいつも大輪の花のような、晴れやかな笑顔で俺を迎えてくれる。
「ただいま羽生、遅くなってすまない
 お腹が空いてたら、先に食べてても良いんだぞ」
俺は羽生にただいまのキスをして、そう話しかけた。
「ううん、サトシと一緒に食べた方が美味しいから
 今日ね、グリーンピース入ったご飯炊いたの
 後、肉団子と丸く見える様に切った野菜で酢豚風の炒め物作ってみたよ
 それに丸く作った蒸し焼き餃子と、キュウリのお漬け物
 アスパラとウインナーのコンソメスープ
 前に長瀞がコロコロ丸メニュー作ってたから、真似してみたの」
得意げに報告してくる羽生が愛おしかった。

「羽生は凄いね、今日のお弁当もとっても美味しかったよ」
俺が誉めてもう1度キスをすると、羽生はうっとりとした顔になる。
彼にそんな顔をしてもらえる資格が自分にあるのかと思うと、俺の胸にチクリとした痛みが走った。
「羽生、待ってる間、寂しくないかい?」
躊躇いがちに聞いてみると
「?絶対にサトシが帰ってくるから平気だよ?」
彼はキョトンとした顔を向けてくる。
「最近、帰りが遅くて2人でゆっくり出来ないだろ」
「サトシはお仕事頑張ってるんだもん
 俺は、そんなサトシを助けたいの
 俺、役に立ってる?」
逆に伺うように聞いてくる羽生の健気さに、俺は胸を打たれてしまう。
「ああ、羽生が居てくれてとても助かっているよ」
俺が頭を撫でると、羽生は気持ち良さそうに目を細めた。
「ご飯の準備、手伝うよ
 豆ご飯か、美味そうだ、よそえばいいのかな?
 昨日の残り物とか、冷蔵庫の中の物も出すか?」
「うん、俺はおかずチンしてスープを温め直すね」
俺達は並んでキッチンに向かうのであった。


「白米におかず、も美味いが、炊き込みご飯も美味いんだよな」
俺は大盛りによそった豆ご飯に舌鼓(したつづみ)を打っていた。
グリーンピースの甘さと塩加減が絶妙だ。
羽生の料理の腕は、最初の頃に比べ格段に上がっていた。
「前に黒谷が作ってたの、教えてもらったんだ
 いっぱい炊いたから、残りは明日のお弁当でおにぎりにするね
 肉団子の残りの挽き肉で、ミニハンバーグも作ったの」
羽生はエヘヘッと笑う。
彼は俺のために色々なことを覚えてやってくれる。
「ありがとう」
お礼を言うと、また嬉しそうに笑ってくれた。

「そうだ、明後日はゲンさんと飲みに行くから夕飯は長瀞と食べてもらっていいかな」
そう切り出した俺に
「わかった、そのうち2人で飲みに行くって長瀞が言ってた
 〆のお茶漬け作るから、お店で食べてこないでね
 お茶漬けにあいそうな物、長瀞と一緒に買いに行こうっと」
羽生は頷いて見せた。
「すまないね、早く帰れそうな日に出かけてしまって
 でも、今度の日曜は1日休めるから俺が羽生のためにご飯を作るよ」
「1日休めるの?なら俺、しっぽや休みにしてもらう!
 朝からずっとサトシといたい!」
羽生は目を輝かせる。

「急に休めるのかい?」
俺の都合に合わせ仕事を休ませることが、申し訳なく思われた。
「うん、だって日曜はタケぽんが来るからひろせは絶対休まないし、ゲンちゃんは仕事だから長瀞も休まないもん」
「そうか、じゃあ甘えさせてもらおう
 でもその前に、少しでも食後にゆっくりしような」
羽生は嬉しそうに何度も頷いた後
「今夜、してくれる?」
頬を染め、上目遣いに聞いてきた。
「ああ、羽生が水玉のパジャマを着れば、今夜の丸メニューのデザートになるね」
俺が囁くと
「そう思って、用意しておいた」
羽生は可愛らしく舌を出した。
「それは、楽しみだ」

俺たちは寝る前に甘い時間を十分に堪能するのであった。
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