しっぽや2(ニャン)

□思い出小旅行
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side<GEN>

『先日は相談にのっていただき、本当にありがとうございました
 化生のことで相談ができる相手がいること、とても嬉しいです
 思い切ってセッティングしたところ、両親と空の対面はとてもスムーズに進みました
 うちの親も空のこと撫でまくってたので、ゲンさんの話を思い出して笑ってしまいました
 これからも、化生についてご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、よろしくお願い申し上げます』

カズハちゃんから送られてきたメールを読んで、俺は思わず顔がほころんでしまった。
「良い知らせでも来ましたか?」
並んでソファーに座っていたナガトが、小首を傾げて聞いてくる。
「空とカズハちゃんの両親の対面、上手くいったみたいだぜ」
「それは良かった
 しかし、暫くは控え室で空の自慢話を聞かされますね」
ナガトは少し苦笑した。
「ナガトも、自慢しかえしてやればいいさ『自分の方が先輩なんだ』ってな
 うちの親と会ったとき、どれだけ誉められたか教えてやれ」
俺の言葉に、ナガトは嬉しそうに微笑んだ。

食事の後、ゆっくりとお茶を飲みながらソファーで過ごすナガトとのくつろぎの時間を、俺は幸せな思いで堪能していた。
ナガトと知り合って、ナガトと想いを確かめ合ってから、とても充実した日々を送っている実感があった。
大変なこともあったけど、ナガトと一緒ならいつだって前向きな気持ちで頑張れたのだ。
『カズハちゃんも、そうなってくれると良いけど、ってもうそうなってるか
 知り合った頃に比べると、今は生き生きした顔してるもんな
 他の飼い主も、同じだ
 高校生なんて若すぎるんじゃないかってちょっと心配したが、荒木少年も日野少年も本当に良い子だし』
そんな事をツラツラ考えて『爺さんの回想みてーだな』と、俺は笑ってしまった。
そんな俺の肩にナガトが頭をのせ甘えてくる。
ナガトの頭を撫でながら、俺は何気なくテレビ画面に目を向けた。

「あれ、この辺って」
テレビからは途中下車的な番組が流れている。
俺の視線に気が付いたナガトもテレビを見て
「懐かしいですね」
驚きの声を上げていた。
そこは、以前に俺達が住んでいたマンションの近くの駅であったのだ。
「見るとこなんて何もない、ごく普通の住宅地なんだけど
 テレビ画面を通すと、中々どうして
 ちょっと、良さそうな街に見えるな」
クツクツと笑う俺に
「ああ、あそこのお肉屋さん、よく買い物に行きましたっけ
 遅い時間だと、時々コロッケをおまけしてくれるんですよ」
ナガトは嬉しそうに微笑んだ。
「あの肉屋の主人は、猫好きだったからな
 お、あそこの酒屋はシャッター下りちまってるか
 今はコンビニでも酒を買えるから、小さい酒屋は厳しいんだ」
「パン屋さんだったところが、レストランになってますね
 ツナサンドが美味しいお店だったのに残念です」
俺達はいつになく夢中でテレビ画面に見入っていた。

「もう、次の街に行っちまうか…そうだよな、小さい街だもんな」
生まれ育った場所ではない、けれどもナガトとのスタートを切った街として、俺には特に思い出に残っている街であった。
「ここから近い場所なのに、こちらに引っ越してからは1度も行ったことがありませんでしたね」
しみじみとしたナガトの声に、彼にとってもあの街は思い出の街として印象に残っているのだと嬉しくなった。
「特に何をしに行く街でもないからな〜、思い出だけが詰まった街だ」
俺は苦笑してしまう。

「飼い主と一緒に暮らす新郷が羨ましかった…
 でもこの街のマンションでゲンと暮らすことが出来て、どれだけ嬉しかったか
 飼い主が側にいてくれることが、どれだけ喜ばしいことか
 飼い主と共にいられることが、どれだけ幸せか
 ゲンの作ったこの影森マンションも安住の地ですが、私にとってあの街のマンションも忘れ得ぬ場所です」
瞳を潤ませるナガトを見ると、俺の胸にも熱い想いがこみ上げてくる。
「そうだな、2人で暮らせるようになって、気兼ねなくエッチできるようになったもんな
 まあ、ちっと壁が薄かったから、少しは気兼ねしたけど」
俺が舌を出すと
「それで、影森マンションは防音に気を使った設計にしてもらったんですよね」
ナガトも悪戯っぽい顔で笑った。

「次の休み、少しあの辺をブラブラしてみないか?」
「はい、ゲンとのデートですね
 ゲンのお店の休みの日、私も休ませてもらいます」
俺達は見つめ合って唇を重ねた。

「今夜は初心に返って、初々しい気持ちでしてみるのもいいかもな」
ナガトの耳元で囁くと
「初めてゲンに触れてもらった感覚、今でも鮮明に覚えております」
彼は頬を染め上気した顔で見つめてくる。
「そんな健気なこと言われると、オジサン頑張っちゃうぜ」
「期待してます」

俺達はテレビを消すと、ジャレるようなキスを交わしながら寝室で甘い時を過ごすのであった。
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