しっぽや2(ニャン)

□未来に繋がる物語4
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side〈TAKESHI〉

いよいよ明後日が入試の日、というところまできた。
今日はしっぽやで、最後の勉強会を開いてもらえることになっているのだ。
自分でもここ数週間の頑張りで、学力が上がっている気はしている。
もちろん緊張はしているし、受験を甘く見ている訳ではないけど『いけるんじゃないか』そんな手応えを感じていた。

しっぽやの扉をノックしてすっかり馴染みになった室内に入ると
「やあ、タケぽんこんにちは
 悪いね、日野は部活でどうしても顔出ししなきゃいけない用が出来たとかで、少し遅れるんだ
 荒木は発見した犬を送りに行ってもらってるから、ちょっと席を外しててさ
 暫く1人で自習してて
 明後日が試験日なのに、本当にごめんね」
黒谷が申し訳なさそうな顔で話しかけてくる。
「大丈夫です、日野先輩からは遅れるってメールで連絡もらってますよ
 俺こそ、部活で忙しいのに勉強見てもらって悪いです
 でも、すごく助かってます」
俺が笑って答えると、黒谷もホッとした顔になった。
「日野も荒木も後輩が出来る、って嬉しそうだからさ
 合格、出来ると良いよね」
ニッコリ笑う黒谷に
「頑張ります!」
俺は元気に答えて見せた。

どうも、黒谷は日野先輩と付き合ってるんじゃないかと、この頃の俺は気が付いていた。
荒木先輩は白久と付き合っているようだ。
何となくそんなことが気になるのは
『ナガトにはゲンちゃんがいるけど…
 ひろせって、事務所の誰かと付き合ったりしてるのかな』
そんなことを考えるようになったからだろうか。
「控え室、使わせてもらいますね」
いつものようにそう言って、俺は勝手知ったる場所となったしっぽや所員控え室の扉を開けた。
控え室のソファーにはいつものように、ひろせが居た。
そしてひろせの横には何だか格好良い人が居て、2人はとても親しげに会話をしていた。

相手の男は座っていても長身だと言うことがわかり、スーツを着ていても筋肉質であることが伺える逞しい体つきであった。
野性的で鋭い眼光に似合う個性的な白とグレーの髪、凄みのある顔立ちを押さえるような理知的な眼鏡、ひろせを見るときの優しそうな瞳…
初めて見るその人に、俺は何となく気圧されてしまった。
「タケぽん!」
俺に気が付いたひろせが嬉しそうに立ち上がり、近付いて来る。
「あ、こんにちは
 えと、お邪魔でしたか?」
俺は何となくばつの悪いものを感じ、オドオドした態度になってしまう。
ひろせの秘密を盗み見た気持ちになっていたのかもしれない。

「君が『タケぽん』か」
男の人が立ち上がると俺より背が高く、圧倒的な存在感を感じさせた。
彼は俺に手を差しだし、余裕あるフレンドリーな態度で
「初めまして、俺は空ってんだ
 ここの事務所の犬捜索ナンバーワンってやつさ
 犬のしつけ教室なんかもやってるんだ
 良かったら、学校で宣伝しといて
 学生さんの参加も大歓迎だぜ」
そう言ってウインクして見せた。
「あの、どうも、タケぽんです」
俺はと言うと、何とも間抜けな自己紹介しか出来なかった。
空はそっと俺の耳元に口を寄せ
「ひろせって、可愛いだろ?
 よろしくな」
まるで宣戦布告をするようにそう言って二ヤッと笑って見せた。
そしてスーツのポケットから可愛くラッピングされた箱を取り出すと
「じゃ、ひろせ、これ」
そう言って、それをひろせに手渡した。
「ありがとうございます」
ひろせはそれを受け取ると、嬉しそうな笑顔を向ける。

「空、ミニチュアダックスの依頼だ」
黒谷の声が、控え室に響き渡った。
「ご指名かよ、って、まあ俺だろうな
 俺ってば、犬捜索のナンバーワンだからさ」
空はヘヘッと得意げに笑うと
「じゃ、行ってくるわ」
そう言い残して手を振り、颯爽と控え室を出ていった。

俺はその時、ゲンちゃんに感じたのと同じような敗北感を感じていた。
『そう、だよな…
 ひろせは俺なんかより大人で、キレイで、優しくて
 ひろせを好きな人、いっぱいいるよね
 ひろせが好きな人だって
 あの人、頼れる感じで格好良かったし、仕事出来るみたいだし…』
落ち込み始めた俺に、ひろせはいつものように笑顔で語りかけてくる。
「タケぽん、ミルクティー淹れますね」
「あ、ああ、ありがと…」
俺は何とかお礼の言葉を口にする。
「せっかくだから、これを淹れてみましょうか」
ひろせは空から貰った箱のラッピングをほどき始めた。

「え、それ?」
ひろせへのプレゼントではないのかといぶかしむ俺に
「今の、空のかいぬ…っと、空の恋人さん
 紅茶に詳しい方なんです
 いつも同じ紅茶でミルクティー淹れてるから、タケぽん飽きちゃうかなって思って相談してみたんですよ
 そうしたら、ミルクティーに合う紅茶を分けてくれるって
 僕は紅茶屋さんに行ってもよくわからないから、助かりました」
ひろせは照れくさそうな笑顔を見せた。
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