しっぽや2(ニャン)

□未来に繋がる物語3
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俺にとって2番目の銀色の猫だから『銀次』。
そんな単純な名付けられ方をした銀次だけど、俺によく懐いてくれた。
もちろん、両親や妹にも可愛い自分のアピールに余念のない銀次は、すぐに我が家のアイドルになった。
銀次を預かってもらうことを口実に、俺はナガトの仕事場である『しっぽや』に顔を出すようになる。
『ペット探偵』なんて何だか格好良かったし、事務所の人は皆優しくて良い人で、俺はすっかりしっぽやが気に入ってしまった。
『ここでナガトと一緒に働けたら』
いつしか俺は、そんな漠然とした夢を思い描いていた。
俺は単なる友達、と言う以上にナガトのことが好きになっていたのだ。

でも、ナガトにはゲンちゃんがいる。
俺はナガトを好きになって初めて、ナガトとゲンちゃんが恋人同士だと言うことに気が付いたのだ。
その絆はとても強固なもので、とうてい俺なんかが割り込めるものではなかった。
ゲンちゃんは俺のナガトへの想いに気が付いたのか、時々申し訳なさそうな視線を向けてくる。
しかしナガトにとって、俺はいつまでも『小さなタケぽん』でしかなかった。
中学に入り身長が伸びて今まで見上げていたナガトを見下ろすことになっても、それは変わらない。
ナガトに優しくしてもらえるのは嬉しい。
でも俺はナガトに『タケぽん』ではなく『タケシ』と呼ばれて愛して欲しかった。
今はもう子供ではなく、一人前の男なんだと認めて欲しかった。
ナガトをこの手に抱きしめて、想いを遂げさせて欲しかった。

そんなことを夢想する自分が果てしなく子供に思え、自己嫌悪に陥ることが最近ではしばしばある。
「とりあえず、今は受験に集中しないと
 高校にすら受からない奴がナガトに『好き』なんて言う資格ないもんな
 ゲンちゃんは大学にも行ってたし、今は支店長だ
 俺だってさー、将来凄い仕事して、ナガトに誉められたいよ」
銀次をジャラしながら、俺はそんなことを呟いてみる。
「新地高ならしっぽやも近いし、バイトとかさせてもらえないかなー
 高校生のバイト員がいるって、ゲンちゃん言ってたけど
 もう定員オーバーとか?」
銀次は俺の悩みも知らず、猫じゃらしの動きに集中していた。
「お前は呑気だよな」
思わず苦笑する俺をよそに、銀次は猫じゃらしを捕まえて得意満面の顔を見せるのであった。


そんな俺に転機が訪れる。
銀次を預かってもらうために訪れたしっぽやで、俺は新地高の人と知り合ったのだ。
そして、銀次を迎えに行く日に勉強を見てもらえることになった。
『長時間しっぽやに居られる、ナガトと居られる』
浮かれてしっぽやに向かった俺であったが、ナガトは仕事に出ていて留守だった。
思わずガックリしてしまいそうになるが、今日は勉強を見てもらうことがメインなので、俺は問題集に集中する。
日野先輩は教え方が上手くて、背は小さいけれど頼れる感じの人だった。
『絶対、高校合格するぞ!』
闘志に燃えて問題集と格闘するも、教えてくれる日野先輩が席を外すと次第に頭がコンガラガってくる。

「この辺、わかんねー」
問題集を投げ出した俺に、一緒に控え室にいたひろせがミルクティーを淹れてくれた。
しかもバレンタインが近いからと、お手製のチョコケーキをごちそうしてくれたのだ。
夜食用のお土産まで持たせてくれた。
本当に、ここの事務所の人は優しい人ばかりだ。
俺は、その優しさに甘えてしまう。
「ひろせって、どうやってしっぽやに入ったの?」
ナガトに聞いても黒谷に聞いても『企業秘密』としか教えてくれなかった。
新入りのひろせなら教えてくれるんじゃないか、そう期待して聞いてみたがひろせは困った顔を見せるばかりだった。
ここの企業秘密は、相当なものらしい。

その後、俺は思わずナガトへの想いをひろせに愚痴ってしまった。
今まで誰にも話したことはなく、俺がもっと立派な大人になるまで胸に秘めておこうと思っていたのに、黙って想い続けることに少し疲れてしまったのかもしれない。
ひろせはさっきより困った、と言うか悲しそうな顔で俺を見ていた。
『いきなりこんな事聞かされたって、困るよね
 ひろせにとってナガトは先輩で、俺は先輩の知り合いの子供にすぎないし
 そう、ナガトにとって、俺は親しくしている子供でしかないんだ…』
ナガトへの想い、ゲンちゃんへの敗北感、自分自身への自己嫌悪、そんな感情が入り乱れて俺は涙を流してしまった。

『本当に、俺ってガキだ、嫌なガキだ』
果てしなく落ち込み始めた俺に
「でも、僕はタケぽんが好きですよ」
ひろせが優しく声をかけてくれる。
『えっ?』っと思って顔を上げると、向かいのソファーに座っていたひろせが立ち上がり、俺の方に顔を近づけてきた。
そしてそのまま俺の唇に、自分の唇を重ねてきたのだ。
突然の行為に、俺は激しく混乱してしまう。
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